第275話:空中体育座り。


「あっ、あのっ、その……っ、もう私は、貴女の実力を疑って、いいいいいいる訳では……っ!」


「へぇそうかい。でも自分の眼で確認したいんだったよな? 思う存分見せてやるからかかってこいよ」


 多分シャイナは普段他の隊員にも俺達に接したような冷たい態度を取っていたに違いない。


 そんな彼女の恐れおののく様子を見て野郎共がそわそわしている。


 ちょっとだけ分かる気がする。強気な女性が震えあがっているところとかたまんないよな。


『君特定の状況でのみ突然ドSになるのなんなの……?』

 いいの。今はそういうターンなの。


「ほらさっさとかかってきな。とりあえず俺が何かしたらあんたは死ぬだろうから……」


「ひっ」


「話を最後まで聞けよ。俺が何かしたら死ぬだろうから、俺は直接あんたに攻撃したりはしない。その代わり、あんたの全力を全て受け切ってみせようじゃないか」


「ほ、ほんとに……?」


 シャイナは内股気味になっている足をガクガク震わせながら胸の前で神に祈るような手つきで瞳に涙を溜めている。


「あぁ、本当だ。あんたに攻撃を当てる事は無い。何をされてもそれは保証するぞ。だから思う存分俺を試すといい」


「ぜ、絶対に絶対だな!? 嘘をついたりしないな? 私は全力で攻めていいんだな!?」


 おっ、急に元気が出てきたじゃないか。


「約束する。ここにいる全員が証人だ。俺はお前に攻撃を当てたりしない。さぁ、かかってきな」


「そ、そういう事ならば……」

「殺す気で来ていいぞ」

「へっ? あ、あぁ……分かった……」


 そこで、スっと表情が真剣な物に変わる。

 もう足は震えていない。スイッチの切り替えがきっちりできるタイプのようだ。


 腰を落とし、まるで拳法家のような姿勢を取る。

 まさかとは思うが徒手空拳で戦うタイプだったのか……?


 いや、よく見るとその構えた拳には魔法で作られた剣が握られている。

 どうやら周りの景色を刀身に映し出して見えにくくしているようだ。

 ステルス剣とは珍しい……。


 よく見れば剣を握っているのは分かるが、戦闘で使われたら間合いを測り辛いなこれは。


 まともな人間相手だったら相当効果があるだろう。


「……行くぞ」


 大きく息を吸い込み、一言そう言ったかと思ったら地面に穴があくほどの踏み込み。

 一瞬でシャイナの顔がすぐ近くまで迫る。

 腕を振り下ろしてきたので、魔法剣を腕で受け止める事で力を誇示しようとしたのだが、驚くべき事にその剣は俺の腕をすり抜けた。


 正確には、俺の腕に接触する瞬間に魔法を解き、剣を消す。俺の手をすり抜けた時点ですぐにもう一度魔法剣を生み出す。


 つまり、その剣は俺の脳天を真っ二つに切り裂いた。


 ……筈だった。


 俺の頭に魔法剣が接触し、砕け散った。


「……へっ?」


「んー、腕をすり抜けてもう一度魔法剣を出すって所はすっごく良かったぞ。ちょっとだけ痛かったし」


 本当は結構痛かった。多分少し切れてる。なかなかの切れ味だ。


「な、ななななんで直撃したのに剣の方が壊れちゃうの……? 私の魔法剣は岩だって切れるのに、なななんで切れてないのっ!?」


「それは幾つか理由があるけど、まず一つ。俺の頭が異常に硬かった。んで二つめ、純粋にその魔力剣より俺の魔力の方が大きかった。その剣は魔力で勝る相手と戦うには向かないな。そして三つめ、殺す気で頭を狙ったのはいいけど土壇場で力緩めただろ? 殺しちゃうかもって思ったのか? お前が、俺を?」


 シャイナはその場に崩れ、「ごめんなさいごめんなさい」と繰り返し呟いた。


「魔法剣で間合いを分かりにくくするのはなかなかいい手法だけど、それだけだとこういう事になるんだよ。だから例えば……そうだな、きちんとした実態のある剣との二刀流とかにすると応用も効くし、相手を攪乱する事ができるようになるぞ」


「は、はい……ありがとうございます……」


「で、今度は俺の力を見せる番ね」


「……え? ま、待って、戦わないって……」


 それはちょっと違うな。


「俺は戦わないなんて言ってないよ。攻撃を、お前に当てないって言っただけだ。当てないし殺さないから安心していいぞ」


 俺は右腕を竜化させた。

 ドラゴニカのスキル所持という事にしているからこれくらいは許容範囲だろう。多分。


「お前ら、死にたくなかったら俺より後ろに下がってな」


 俺の腕を見た皆は慌てて俺の後方へ移動していく。


「シャイナは下がらなくていいのか?」


「こ、こ、腰が抜けて……」


「ラムちゃん! 障壁頼むわ」


 シャイナはぺたんと地面に座り込んで動けなくなってしまったようなのでラムに魔法で障壁で守ってもらう。


「じゃあ俺の力ってのを見せてやるぜ! うおりゃーっ!」


 何をしたかといえばただ単に地面をぶっ叩いただけ。

 しかし六竜の力で思い切りぶん殴ればどうなるか、答えは明白だった。


 俺を中心に地面が破裂し、爆風が吹き荒れる。


 シャイナは強力な障壁で守られている為無傷だが、特等席でこの光景を見ているのだから今頃大変な事になってる気がする。


 砂煙と共に、地面に埋まっていたであろう大小様々な石が宙へ巻き上げられたので俺は風魔法でそれを更に上空高く飛ばし……。


 それらが落ちてくる前に魔導シューター、リン・イザヨイのスキルを使用。

 オートターゲットにて巻き上げられた瓦礫全てを捕捉。


 魔導弓を具現化し、全力で魔力を込め、一気に解き放つ。


 俺の手から放たれた魔導弓は落ちてくる瓦礫を全て塵に変え、青空を閃光で埋め尽くし真っ赤に染め上げた。



「……ふぅ、こんなもんかな。おいシャイナ、ちゃんと見てたか? どうよ。これで俺の実力も分って貰えたか?」


「~~っ、~~っ!!」


 シャイナはラムの障壁でくるまれて、べっこりと消失した地面から少し浮いた状態のまま体育座り状態で震えていた。


 ……いや、ちゃんと見とけよ。



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