第273話:入隊試験。


「まずは自己紹介をさせてもらおうか。私はこのシュマル防衛隊の総隊長を務めさせてもらっているジンバだ。よろしく!」


 ジンバと名乗った好青年はどこかの糞野郎を想起させるような赤髪短髪をツンツン上に尖らせている。

 中肉中背に見えるが、半袖から覗く腕はかなり鍛えられているのが分かった。


「よろしく、よろしく、よろしく、よろしく!」


 ジンバは俺達一人一人に握手を求めて回った。それを後ろの女は睨み続ける。


「隊長、そんなどこの馬の骨とも分らぬ奴等を無条件に歓迎するのは如何なものかと」


「シャイナは相変わらず固いなぁ。あの噂の冒険者達だよ? 防衛隊に参加してもらえれば相当な戦力になるじゃあないか。何がそんなに不満なんだい?」


「まさにその噂の冒険者、というのが眉唾だと言っているのです。私は噂に惑わされたりしません。見た所若い女子供のパーティのようですし噂が本当かどうか知れた物ではありません」


 というかこんな所にまで俺達の噂が広まっているのは早すぎないか?

 通信魔法的な何かでギルドから報告が入っているというのが妥当だろうか。


「それについては私が保証しますよ? 彼女らは本当に凄い方達ばかりなのです」


 二人に続いてルークが入室し、丁寧に扉を閉めた。


「いくら防衛大臣の言葉と言えど私は自分で見たものしか信じない。クレイジードラゴンをこいつらだけで討伐したなどという話を鵜呑みにする方がどうかしている。副隊長として安易に認める訳にはいかない」


 おおいいねいいね、こういう露骨に疑う奴がいる方がむしろ話が早いんだ。

 しかもこの子副隊長なのか……。


「しかしですね、きちんとした報告も上がっているんですよ? それに私達はレイバンからほんの数時間でここまで戻ってきている。それはそこの車椅子の少女、ラムさんの転移魔法による物です。これでも実力の証明になりませんか?」


「なんと、随分早い帰りだと思ったらそういう事だったのか! 転移魔法でこの距離を移動してくるなんてすごいぞ! この少女は間違いなく即戦力だ! そうだろシャイナ?」


「……クレイジードラゴンを討伐した時の話を詳しく聞かせて下さい。それから判断します」


 完全に歓迎ムードのジンバとは違い、あくまでも疑ってかかっているシャイナ。

 彼女は長い黒髪、細身の身体、軽鎧といういで立ちで、その眼光たるや魔物を目で殺す勢いだ。


 副隊長に任命されるくらいだから相当な使い手なんだろうけれど……。


「クレイジードラゴンなら私が一人で八つ裂きにしてやったんだゾ♪」


 あ、本当の事とはいえティアが手柄を独り占めしやがった。

 尚更信じてもらえなくなるだろうが……。


「お前が一人で……?」


「うふふ、なんなら試してみる……?」


 ティアがストレージからダンテヴィエルを取り出し、くるくると回してからシャイナに突きつける。


「……いいだろう。そこの車椅子の少女とこの大剣女は合格だ」


 ティアの不敵な笑みに危険を感じたのか、ラムとティアに関しては合格という事になった。


「しかしそちらの二人。きちんとした試験を受けてもらおう。私を納得させる事が出来れば入隊を認める」


「いいぜ。何をすればいい?」


「ちょ、ちょっと待って下さいよぅ! 私もやるんですかぁ!?」


 ネコが急に慌て出し、俺の服を掴んで引っ張る。


 確かにこいつはリリアで魔物と戦った事はあるだろうけど、遠くからビーム打ってただけだし直接的な実践は初めてなのかもしれない。


 ……そもそもネコで本当に大丈夫か?

 六竜を宿した身なんだから心配は要らないだろうけれどネコだっていう事実が俺を不安にさせる。


「二人とも表へ出ろ。実戦で見極めてやる」


 乱暴にドアを開け、シャイナは訓練場の方へ向かってしまった。


「すまないね、あの子は一度言い出したら聞かない子だから。少しばかり相手してやってくれると助かるよ」


 肩をすくめながらジンバが軽く頭を下げた。


「あんたも大変そうだな」


「なかなか癖が強いけど、あの子が強いのはそれだけじゃないから気をつけてね」


「ご忠告有難く受け取っとくよ」


 やれやれと項垂れるルークも含め、俺達は宿舎を出て訓練場の方へ向かう。


 そこには沢山の隊員がぐるりと輪を描くように集まっていて、何が起きるのかと楽しそうに話しをしている。


「貴様等静まれ! これから新入りの入隊試験を執り行う! 実戦形式の試験だ。こちらの二名と戦うのは私と……そうだな、ハロルド、前に出ろ」


 ハロルドと呼ばれた如何にもな大男が一歩前に出る。


「こんな小娘相手に俺がやる意味あるんすか? 殺しちまうかもしれませんよ?」


「構わん! それで死ぬならそれまでの事。こいつらは凄腕冒険者らしいから遠慮は無用だ!」


 そう言ってシャイナはこちらに不敵な笑みを向ける。


 まるで嘘をついているなら今のうちに謝るんだな、と言いたげな表情だ。


「まずはそちらの亜人の少女とハロルド。ルールは特に無し。相手が降参するまでやり合え。降参しない場合については死んでも止む無しとする」


 無茶苦茶言ってやがるな……でも死んでも仕方ないって話ならある意味ありがたい。


「おいネコ、遠慮はいらんぞ。やっちまえ」


「……うふふ、やっちゃっていいんですわね?」


 ネコの雰囲気が一瞬にして狂気じみた何かに変わる。


 ……アルマ?


「ま、待て! お前がやっちゃっていいわけないだろうが!」


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