第271話:首都ガリバンとイザヨイ家。
「えー、三日もかかるの? もういっそ私達だけ先に行っちゃわない?」
ティアがほっぺたを膨らませてそんな事を言い出したが、まぁ気持ちは分る。
一度ラムの転移の味を覚えてしまうと今更馬車移動で三日、なんてあまりしたくはない。
それに集団行動にも不安が残る。
この面子で大勢と共に行動って時点で問題を起こす気しかしない。
「首都のガリバンとやらまでは結構距離があるようじゃからのう。途中で数回休憩を挟むがそれで良ければ行けるのじゃ」
「えっ、皆さん先に行ってしまわれるのですか!?」
俺達の話を聞いていたルークが突然慌て出した。
「ちょっと待って下さいそれはないですよ、なんとか我々と一緒に戻って頂けませんか?」
「えー、やだめんどーい。前乗りして首都でのんびり待ってるゾ♪」
「そ、そんなぁ……わ、分かりました! それなら私に十五分……いや、十分でいいので時間を下さい! そして私も一緒に連れて行ってください!」
ルークはそれだけ言うと慌てて目の前のトリアの街へ駆けこんでいった。
途中で一度こちらを振り向き、「待っててくださいね! 絶対ですよ!」と叫んで消えていく。
きっちり十分でルークは肩で息をしながら帰還。
「ぜぇ……ぜぇ……ま、待っていて下さり、ありがとうございます……」
「なんでそんなに慌ててるんだよ……」
「だ、だって……貴女達が、私を……ぜぇ、置いていくかも、しれない……じゃ、ないですか……げーっほげっほ!」
「ちゃんと連れてってやるから安心しろって……で、用事はもう済んだのか?」
こいつ最初からトリアで用事があるって言ってたもんな。
「は、はい……とりあえずここに集まっている防衛隊の人々には簡単に事情を説明してきました」
ルークは「お前らは防衛隊と合流して皆を先導してやってくれ」と、護衛の三人に声をかける。
その話ぶりからしてそれなりに防衛隊の中では実力のある人物らしい。
三人は頷くと、こちらをジロリと睨んでしぶしぶ街の中へ向かった。
「すいません。あの者達はミナトさんたちの事をよく知らないものですから」
「いいよ別に。そのうち嫌でも分かる事だしな。いつか思い知らせてやるさ」
「ふふっ、ミナトさんは……本当に頼もしいですね。ではラムさん、ガリバンまで宜しくお願いします」
本当はトリアという街がどんな場所なのか興味は会ったんだけれど、今回はお預けだ。
それよりもっとやるべき事がある。
ラムの転移で合計四回に分けてガリバンまで移動する。
本人は集中する時間を毎回取らないといけないのでそれなりに時間を要したが、普通に向かえば三日かかる所を数時間で移動できるんだから大したもんだ。
さすがにラムも疲れてしまい、ガリバンを目の前にして車椅子でぐっすりだ。
いくら集中で魔法を強化できるとはいえ、消耗はかなり大きいだろう。
少し休むだけで回復するというスキルとの組み合わせは本当に凄いな。
移動に関してはラムに頼りっきりになっていて申し訳ないが、おかげでかなり効率が上がったのは間違いない。
「ごしゅじん、あの黒い壁が首都なんですかねぇ?」
目の前に広がっているのは広大な敷地をぐるりと取り囲んでいる黒くて高い壁。
内側の日当たりが気になってしまうほどに高くそびえ立っている。
「ガリバン自慢の防衛壁です。どんな魔物が襲ってきたとしてもあの防衛壁を打ち破る事は出来ません。空からの敵襲には優秀な魔導シューターが対処しております」
魔導シューターだと……?
「まぁそもそもガリバンの上空には常に魔物避けの術式を展開しておりますので空から襲撃される事もまずありませんがね」
どうだすごいだろう、と言わんばかりにルークが胸を張り防衛壁を見上げる。
「確かにこれだけ大掛かりなのは見た事がないな……」
ガリバンの防衛対策にも驚いたが、そんな事よりも俺は魔導シューターという言葉の方が気になっていた。
もしかしたら俺が世話になった事のある記憶の持ち主……リン・イザヨイはシュマルの出身だったのかもしれない。
魔導シューター、という呼び方自体ダリルやリリアではほとんど聞かないからな。
「ルーク、リン・イザヨイって名前に心当たりないか?」
ルークはその名前に分かりやすく反応した。
「ミナトさん、なぜその名前を……? シュマルがまだ王政だった頃、シュマル王国初代国王……その一人娘の名前がリン・イザヨイ様です」
……王族だったのか。しかし王の娘があんな戦力を持ってるのは珍しい気もする。
「当時この国の防衛を一手に担っていたのがそのリン・イザヨイ様です。イザヨイ家というのはシュマルの中でも辺境に済む一族だったのですが、初代国王のジン・イザヨイ様がシュマルを統一し、シュマル王国を作り上げ、その防衛をリン様が行っていた、という……まぁ古い歴史書にしか書いていないような内容ですよ」
「なるほどな……」
なんとなくイザヨイって響きは十六夜という漢字に当てはめたくなる。
もしかしたら、だけどイザヨイ家ってのは元をたどれば日本からの転生者の家系だったのでは?
『それを確かめる手段はないけれど、可能性はあると思うわ。この国が君の居た世界に少し似てるって言ってたものね?』
そうなんだよ。
ママドラの補足にはとても頷ける部分がある。
日本からの転生者で、記憶を保持していた者がこの世界で生きて、その子孫が国を統一……か、なかなか夢のある話だな。
「ささ、とにかくガリバンに入りましょう。防衛隊の本拠地へご案内致します」
シュマル代表に近付くための第一歩。
日にちにすると数日間の出来事だけれどここの所毎日が濃すぎて、やっとここまでこれた……という印象が強い。
さっさとやる事やってのんびりした生活に戻りたいもんだ。
勿論そこにイリスも居ないと意味が無い。
都合よくこの国にもギャルンが絡んでたりしねぇかなぁ。
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