第268話:スカウト。
「信じられません! ゲルッポ湿地帯と言えばあのエリマキワニガエルザウルスが異常繁殖していて……確かに一体一体の力はそうでもないですが二百を超える群れがいるとの報告が……」
「だから全部倒して来たって言ってるだろ。証拠のエリマキも全部持って来ているぞ」
「そんな物がどこに……!」
うるせぇ奴だなぁ。
俺達の力を分かっている周りの連中はずっとニヤケ面で事の成り行きを見守っている。
というか楽しんでやがる。
「マジックストレージに全部入れてきてるんだよ」
「……な、なるほど。では報告よりも少ない群れだったのですね」
「全部で二百四十二匹だったかな」
再びルークが目を丸くし、我慢できなくなった周りの奴等が笑い出す。
「こ、この人数で、エリマキワニガエルザウルスを……二百四十二体……?」
「儂は上空で高みの見物じゃったからのう。実際戦ったのは三人だけじゃよ」
くすくす笑いながらラムが情報を捕捉する。
「……貴女がたが噂にたがわぬ実力者、というのは理解しました。先ほどの無礼はお許しください」
ルークは急に姿勢を正し、深く頭を下げる。
「つきましては念のために回収してきたというエリマキを拝見してもいいでしょうか?」
「ここでか? 別に俺は構わないけど……」
「どういう事です?」
不思議そうなルークの様子を見ていたニームが「構いませんのでここで出しちゃってください」と許可を出してくれた。
「じゃあとりあえず一つだけ」
どごっ!
ギルドの床ががっつりとへこみ、エリマキが転がる。まだちょっと血と粘膜が付いてて気持ち悪い。
「おぉ……、こ、これが一番大きいサイズですか!? 凄い……」
「これが一番小さいサイズ、だよ」
「ふ、ふはは、これが二百四十二個ですって? またまた御冗談を……」
ルークは俺とニームを交互に見て、表情を引きつらせながら呟いた。
「ま、まさか……本当に?」
「だからそう言ってるだろう? とりあえずニームと一緒に倉庫まで来てくれよ。全部出すからさ」
俺達はそのまま倉庫まで移動し、二百四十二個のエリマキを全部放出した。
ついでに血液とぬめりはまた全部ひと塊にして処分しやすく……。
と、そこで気が付いた。
引力ではなく自分の身体に斥力を使う事でぬめぬめが身体に纏わりつくのを防げたんじゃないのか?
今となっては後悔先になんとやらだけど……。
やっぱり俺はいろいろ記憶のスキルを利用できるとはいえ経験値不足で応用が利かないんじゃ意味が無い。
もっと対応力を磨かないとなぁ。
『まぁ私は分かってて黙ってたんだけどね』
なんで……?
『服が溶けたら面白そうだから?』
こんにゃろう……!
ママドラの知識が助けになる事は多いんだから頼むぜ……。
『分かってるわ♪ 勿論危険そうならちゃんとしたアドバイスするから安心していいわよ?』
……信用していいんだろうか。
「恐れ入りました。貴女がたは間違いなくこの国でも有数の実力者であると私が保証いたします。つきましてはご相談が……」
来た来た。本題はこっからだ。
再び俺達はギルド兼酒場に戻り、軽食をとりながらルークの話を聞くことにした。
「なるほどな、つまりそのシュマル防衛隊ってところに入ってくれって事か」
簡単に言えばスカウトである。
ルークが言うには防衛軍、ではなく防衛隊なのだそうだ。
「我がシュマル共和国は軍隊を持ちません。あくまでも防衛隊、です」
だそうだ。
「現在シュマル中から腕利きを集めているところなのです。是非ご参加頂きたい」
「うーん、どうすっかな……」
確かに代表に近付く第一歩、にはなるだろう。
しかし防衛隊……あちこちへ面倒な魔物を討伐しに飛び回るだけでふところに潜り込めるか?
「現在トリアという街に防衛隊の一部が集まっているのでまずはそちらに合流を願いたいのですが、何かご不満がおありですか? 勿論力ある者には相応の報酬が……」
「こちとらもっといい仕事がしたいんだけどな。例えば……そう、シュマル代表の護衛とかよ」
ルークがふっと小さく笑い、その後真面目な顔で言う。
「貴女がたが本物であれば……きっと」
「そうか、いいだろう。じゃあそのトリアって街までどのくらいの距離だ?」
「そうですね、馬車を用いて半日ほどでしょうか」
「ラムちゃん、どうだ?」
ラムはニームからもらった地図を一生懸命開いてトリアの場所を確認する。
「ふーむ、これなら大丈夫そうじゃな」
「じゃあまた頼むわ」
そこまで話が進んだところでルークが立ち上がる。
「どうした?」
「私は一足先に出発して準備しておきますのでそちらの準備が整い次第後を追って頂けますか? 馬車はこちらで手配させて頂きます」
「それなら俺達と一緒に行った方が早いと思うぞ?」
わざわざバラバラに向かう意味が無いもんな。
「いえ、私は戻って少しやる事がありますので、半日かかりますしやはり先に……」
「だからさ、俺達と一緒なら三十分かからねぇよ」
ルークはまた俺とニームを交互に見つめ、「ほ、本当に……?」と、今度は半ば呆れ気味に呟いた。
「三十分じゃと……? 何を馬鹿な事言っとるんじゃ」
ラムの言葉を聞いてルークがホッと胸をなでおろして……。
「五分で行けるのじゃ」
ずごん!
その場にひっくり返った。
「は、は、半日の距離を……ご、五分……五分……五分……? ふ、ふひひ……」
あぁ、ルークが壊れてしまった。
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