第266話:支えてくれる人の価値。

 

「んっ、んぁっ……」


「変な声だすんじゃねぇよ……!」


 頭を洗ってるだけでなんでそんな声が出るんだおかしいだろ……!


『んー、この子の場合はそんなにおかしな事でも無いと思うわよ?』


 ……どういう意味だ?


『君のせいだって言ってるのよ』

 だから俺が何をしたと……!


『まさかとは思うけど無意識でやってるの? 病気だわ……』


 ……へ?


「ごしゅじん……そ、そこは……ふにゃぁぁ……」


 あっ、そ、そうだった。つい無意識でネコミミをもきゅもきゅ堪能してしまったがこいつにこれはまずいんだった。


「あ、後は流して終わりだからっ!」


 結構丁寧に洗ってやったのでネコの頭のねとねともう落ちただろう。


「ごしゅじん……気持ちよかったですぅ♪」


「誤解されそうな言い方すんな。終わったし俺はもう出るからな」


「えー、じゃあ私も出ますーっ!」

「そうか、じゃあ俺はもう少しゆっくりしていくからどうぞ出てくれ」


 その方が俺も頭が冷やせるし都合がいい。


「えっ、ちょっとごしゅじん!?」


 ぶつぶつ文句言ってるネコの背中を押して浴室から押し出す。

 というか尻尾がフリフリしててたまんねーな。


『おしりとかより尻尾なのね……』

 それは当然だろうが!

『お、怒られた……』


「ふぅ、やっと落ち着ける……」


 ざばっと頭から冷水をかぶり頭をしゃっきりさせ、脱衣所からネコの気配がなくなったのを確認してから風呂を出る。


 なんだかんだ言ってもやはり一緒に風呂なんてイベントに遭遇してしまうとテンパっちまうな……。


『健全な男子、だものね?』

 そうだよ。それにあの馬鹿ネコはみてくれは良いからな……。しかもネコミミ尻尾付きだぞふざけるなよ。


『君は何に怒ってるのかしら……』


 この世の不条理に怒ってるんだよ!

 なぜあの性格のネコにあんな素晴らしい物を与えたんだ……。


『でもよく考えてみなさいよ。ネコちゃんは君の事が大好きでしっかり尽くしてくれる子よ? ほし本当に恋人同士になったらなんでもいう事聞いてくれると思うわ』


 ……お、おう。


『可愛くてネコ耳も尻尾もある子が一生懸命ご奉仕してくれるのよ? 想像してみなさいよ君にとっては最高じゃない?』


 ……う、確かに……。


『そもそも君がネコちゃん苦手なのって頭の中エロエロだからよね?』

 そうだよあいつの真っピンクの脳みそが悪い。


『でもそれってさ、本当に男女の関係になったらそんなに気にする事?』


 ……え?


『恋人同士になっていろいろしてもらう関係になったら、あの子がえっちなのってそんなに気にするような事かしら?』


 ……そう言われてみると、否定しにくいな。


『でしょ? ほら結局君が怖がって遠ざけようとするからネコちゃんの魅力がよく見えてないのよ』


 俺のせい……?


『そうでしょ? 本当なら最高の彼女なのに君がひねくれてるから酷い扱いを受けてるのよ? そう考えてみると可哀想でしょ?』


 ぐ、ぐぬぬぬ……。


『簡単に認められないのも分かるけど、その辺の事も含めてよく考えた方がいいわ。今後はもう少しネコちゃんに優しくしてあげるのね』


 ……確かに俺が辛い時にはしっかり支えてくれたし、あれに救われたのも事実だ。


 俺は不当にネコに対して冷たい態度を取っていたのかもしれない。


 これは反省が必要だな……。


 新しい服に着替えながらそんな事を考えた。

 ちなみに服はラムが、ストレージ内に入れて持ってきていた布から作り出してくれた。

 クリエイト系の魔法まで使えるとは大したものだ。

 繊細なコントロールが必要だから生活用の魔法では最上級とされている。

 物を加工して違う物を作り出す魔法。

 針や糸を操って作るタイプの魔法もあれば布などの対象に直接作用して形を作り上げる魔法などもあるらしい。


 ラムがどっちを使ったのかは知らないが、元々着ていた服とかなり近い物を作ってくれた。


 こころなしかちょっといい匂いもする。

『……変態!』

 いい匂いなのは本当なんだから仕方ないだろ。

 ラムの匂いなのかよく分からないが、彼女の家でも同じような匂いを感じた気がするのでエルフに伝わる香とかの類かもしれないな。


 皆の元へ向かうと、なんだか賑やかな笑い声が聞こえてきた。


「おいネコ……」


 いろいろすまなかったな。そう続けようと思った時の事。


「マジで!? どこまでいったの!?」


「ごしゅじんがぁ~優しく洗ってくれてぇ~♪ 恥ずかしがりながら震える手で……ごしゅじん可愛かったですぅ♪」


「は、破廉恥じゃっ! 破廉恥なのじゃっ!」


「あ、ミナトが帰ってきたわよ? お楽しみだったのね♪ もしかしてこれで私も遠慮しなくていいのかしら?」


「うにゃ~♪ ごしゅじんは共通財産ですけどまだダメですよぅ♪ うへへ」


 ……ママドラよ、本当にこれって俺の見方がひねくれてるから、なのかな? 今めちゃくちゃあいつの頭ぶっ叩きたいんだけど。


『……』


 なんか言えよ。



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