第245:ド直球のあいらぶゆー。


「まだ儂が力不足じゃと思うのか?」


「……いえ、そんな事はありません」


「じゃあ儂が付いていく事に異論はないのう?」


「はい、ありません」


 まったく、参った参った。

 最初から全力を出していなかったり、甘く見ていた部分もあるとは言え完敗だ。


 六竜の力を使わなければ俺なんてこんなもんなんだなと思い知らされた。


 ラムは車椅子に乗っているものの、その気になれば車椅子ごと空を飛び回れるし、遣ろうと思えばずっと浮いている事だって出来るらしい。


 その時点で歩くことが出来ないデメリットなんて有って無いようなものだ。


 俺が心配するほど、彼女は弱くなかった。

 それどころかこてんぱんに伸されてしまうとは情けない。


「よし、分かればいいのじゃーっ♪ これからもよろしく頼むのじゃ♪」


「……ところで、もう正座やめていい? 足痺れてきたんだけど……」


「ダメじゃっ! 儂を軽んじた罪を思い知るのじゃー!」


「うぅ……」


『この子、大したものね、君だって今じゃ普通に高レベルなのにね』


 ほんと大したもんだよ……足が動かないなんて全くマイナスに感じさせない。

 あれだけ生命エネルギーを吸い取られたってのになんでこんなにも魔力に満ち溢れてるのかも謎だし。

 エルフってすげぇな……。


『この子の場合それだけじゃない気がするけれどねぇ……』


 なんにせよ充分すぎるほど頼りになる戦力だよ。



 結局シュマル共和国へは俺、ネコ、ティア、ラムというメンバーで向かう事になった。


 シュマル共和国というのは、昔は王政だったらしいが今では数年に一度国民の中から投票で代表を決め、そいつを中心に政治家共が国政を纏めているらしい。


 日本に住んでいた俺としては馴染みがあるようなシステムだが、それと同時に腹黒連中がうごめいているようなイメージも持ってしまう。

 せめて代表はまともな奴だといいだが。

 場合によっては代表が納得しても、政治家共が納得せずにご破算になる可能性もあるなぁ。

 面倒な事この上ない。

 とにかくシュマルに行って、潜入してるという人物と今後の方針を決めよう。


 ラムと戦った二日後の朝、皆に見送られつつ馬車に乗り込み出発。

 行きは馬車で国境付近まで行き、そこから国の内側へラムの転移魔法で入る予定になっている。


 馬車はおっちゃんに任せているが、帰りが一人になってしまうので護衛要員として片道だけジオタリスも同行してもらった。



 とはいえリリアから直接シュマルでは距離がありすぎるので、一度ホールでダリルに行き、そこから馬車移動。

 かなり距離があった事と馬車が通れるほどのホールを用意しなきゃいけなかったので俺はそれだけでかなりぐったりしてしまった。


 そこから先は馬車の中で眠らせてもらい、気が付けばシュマルとの国境付近まで到着していた。


 俺達だけでここまで来て歩けばよかったのだが、俺がそれなりに消耗するのも考えるとダリルで一泊しなきゃいけなかったのでいっそもう少し無理して馬車を連れてきて、到着まで休ませてもらう事にしたってわけだ。


 丁度おっちゃんも用事があると言っていたのでおっちゃんのタクシーも含めてたまにはこれくらいしてやらないと。


「そろそろ到着ヨ!」


「ん……あぁ、わざわざ悪かったな」


「いいヨいいヨ、ワタシもダリルに買い付けに来たかったところネ。オッサの奴からいろいろ頼まれてるのヨ」


「じゃあミナトちゃん、心配はいらないと思うが……気をつけろよ」


 ジオタリスが割れた顎を突き出すように軽く空を見ながら言った。


「ああ、もうしくったりしねぇよ。じゃあおっちゃんの帰り道の護衛、頼んだぞ。ダリル寄るならついでに城に行ってアリアの所寄ってくれ。もし近々街に戻る予定があるなら一緒に連れてってやってくれよ」


「分かった。じゃあまたな」


 手を振る二人と別れ、しばらく歩いて国境の検問所近くまで来たところでラムの転移魔法により内側へと移動する。


「やっぱり転移は便利だな……」


「どーじゃ? 儂を連れてきた価値があったじゃろ♪」


 まったくだ。

 俺は車椅子の上でバンザイしながらアピールしてくるラムの頭を撫でる。


 ちなみにラムの車椅子はネコが押してくれてる。

 二人はあっさりと仲良くなったらしく、車椅子を押しながらネコがしきりにラムに話しかけている。


 あらためてネコのコミュ能力の高さは大したものだ。


 そう言えばなんだっけ? 初めて会った頃に理解者オブチャイルドとかなんとか言ってた気がする。


 子供に人気があるのはやっぱり頭の中が子供に近いからなんだろう。


「なんだかちょっと寂しそうね?」


 ティアが俺の顔を覗き込んでくる。


「馬鹿言うなよ。なんで俺が寂しがらなきゃならないんだ? むしろ仲良くしてくれた方が俺の負担が減って助かるだろ」


「そう? でも私はずっとミナトだけを想ってるゾ♪」


 こいつ……真顔で何を恥ずかしい事を。


「知ってるぞ? 俺じゃなくて俺の中のジュディアを、だろうが」


「分かってないなぁ。セティだって今はミナトなんだよ? だから私はミナトの事が好きだしミナトだけ居てくれればそれでいいの」


 ……こいつのこういうド直球な所がとても苦手だ。


「あいらぶゆーっ!」

「はいはいそりゃどうも」


 どうして好意をここまで素直に相手に伝えられるんだろう?


 ここまでくるとどっかの誰かを思い出してしまう。


 あんなサイコ女と一緒にしたら申し訳ないけど。


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