第242話:シュマル共和国。


「なるほどな……大体の事情は分かった。まさかギャルンが君の精神体を封じてくるとはな……これは対抗策を講じる必要があるな」


「ぶっちゃけそれに関しては俺にはどうしていいか全然わからねぇから任せる。無理を言うようだが頼むぞ」


 俺は一人ではカスでゴミだ。

 それを今回嫌というほど思い知った。

 こうなりゃなりふり構っていられない。

 失う怖さも勿論あるが、まずい事になったら俺が全部守るくらいのつもりでいればいい。その為の力を確保するのが問題だったのだが、ママドラ封じを無効化できればごちゃごちゃ悩む必要も無い。

 問題から逃げているようにも思えるが、結果的にそれで解決するのならば最善手を打つのが一番だ。


 俺がどんなに嫌な思いをしようと、どうだっていい。

 ママドラに頼らない力を手に入れるより、ママドラ封じを封じる。

 ママドラはもう俺の一部なのだから自分の力を最大限使う為の理論だ。


 屁理屈だろうが知った事じゃない。

 イリスを取り戻せればなんだっていい。



 後ろ向きになるのはやめだ。

 頼れる物は頼る。

 使える物は使う。


 俺を信じてくれる皆を信じる。


 シルヴァに関しては信じてるというよりも便利だから使う。



「ではミナトの精神体に外部からの干渉が出来ぬような仕組みを考えておこう。……という訳で、だ」


 奴は意地の悪い笑みを浮かべる。


「分かってるよ。俺は何をすればいい? 言っておくがイリスを取り戻すのが俺の中での最優先だからな?」


「分かっている。ギャルンの動向についてもこちらで探っておこう。詳しい情報が入ればすぐにでも知らせる。その際どんな任務中だったとしてもミナトは好きに動いていい」


「そりゃありがたい」


 まぁ状況にもよるが、イリスを最優先で動いていいって言うのならなんだってやってやるさ。


 その為の情報を調べてもらうんだから俺に出来る事は出来る限り力を貸そう。


「で、何をする?」


「実は同盟の話が大分進んできていてね。近いうちに会合を開く事になっているのだ」


「へぇ、そりゃいい事じゃないか」


 リリアとダリルの和平がきちんと済めば、後は……。


「僕は出来れば面倒な事は一度で済ましてしまいたいと思っていてね」


「うん……? そりゃそうだろうけど……おいおい、もしかして……」


「そう、そのもしかして、だよ。君にはシュマル共和国へ行って話をつけてきてもらいたい。会合は約一か月後でスケジュールを調整しているからね、出来ればその席にシュマルの代表者もご同席願おうという話だね」


 ……勝手な事言いやがって。

 シュマルが賛同しない場合はどうする気だ。


「言っておくが、シュマルの代表を納得させるのも君の仕事のうちだからね」


「なるほどな。面倒な事は全部俺に投げっぱなしかよ」


「こちらもそれ相応の仕事は投げっぱなしにされている気がするが?」


 ……正論だ。


「オーケー了解。具体的にシュマルで何をどうすりゃいい? いきなり代表に会える訳もないだろうしよ」


「それについてはこちらに考えがある。シュマルには半年ほど前から潜入調査をさせている者がいるのでね、詳しくはその者に聞いてもらえるといいだろう」


 随分準備がいいじゃねぇかよ。

 しかしそういう事なら現地で詳しい話を聞いて代表までの道筋を作る手段を考える形か。


「分かった。出来る、と安易に返事は出来ないが出来る限りの事はしよう」


「ちなみに、なのだが……シュマルの代表がどうしても会合の席に着くのを拒否した場合……」


「拒否した場合……?」


「君にはシュマルの代表を暗殺してもらう事になる」


「マジで言ってんのか?」


 そんな事したら大騒ぎだぞ。シュマル一国の問題じゃない。

 暗殺とは言うが、仮に俺がやったとバレたとしたら一部で英雄視されているダリル、拠点を構えるリリア、この二国からの宣戦布告ととられてもしょうがない。


「そんなに難しい顔をしなくていい。要は君が代表を説得出来ればいいのだ。それが仮に力尽くだったとしても、ね」


 なるほどね……。


「しかし、いろんな国を回って思った事があるんだが」


「魔物の関与、かな?」


 不敵に笑うシルヴァ。

 やはりこいつは話が早いな。


「ああ、リリアだって大臣がそうだった。ダリルは騎士団の副団長だ。ベルファ王国に至っては完全に乗っ取られてランガム教とかいう訳の分からない宗教が出来上がっていただろう?」


「出来ればひっそりと、気が付いたら国が魔物に奪われている、という状況を作りたがっているようにも見えるね」


 シルヴァも既にそれは感じていたようで、頬杖をついて口を尖らせながら「困ったものだよ」と呟いた。


「シュマルも同じような状況だと思うか?」


「まぁ、十中八九そうだろうね。問題はどこまで魔物に汚染されているか、だよ。既に代表が魔物だったりしたらそれこそ暗殺、というより討伐しなければいけないからね」


 こいつの言う通りだ。

 既に魔物の巣窟と化しているとしたらそれこそシュマルを滅ぼすくらいのつもりでいなければ……。


 代表やごく一部の連中だけならばそいつらを潰してまともな人間と挿げ替えるだけで済むが。


「ではミナト、シュマルを引き込むか、或いは滅ぼすか……。君の裁量に任せようじゃないか」


 シュマルには一時期住んでた事もあるしロイドの親父さんとかもいるから俺の中では滅ぼすという選択肢は無い。


 こんな形でまたシュマルへ行く事になるとは思わなかったが……出来ればいい落としどころを見つけられる事を祈るぜ。




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