第231話:ぱんつ。


「……分かった。お前らを信じよう。何が知りたい?」


「そうだな……ここの連中は皆意思があるようには見えなかった。お前は意思がある、何故だ?」


 部隊長クラスになると意思を持っている、という考え方も出来る。

 初めてヨーキスと会った時に襲ってきた奴等もそうだった。

 だが、舞台を預かる者が意思を持っているというのはランガム教にとってマイナスじゃないか?


「教祖様は週に一度大聖堂に現れ皆に祝福を与える」


「答えになっとらんのじゃ」


 ラムが口を尖らせるが、多分そうじゃない。


「ラムちゃん、とりあえず聞こうぜ」


 彼女は更に唇を尖らせ、ほっぺたを膨らませた。かわいい。


「意志力の弱い者はその祝福を受けると抜け殻のようになってしまうのだ。ランガム教の為に尽くす人形と化す」


「……意志力ねぇ、抽象的だな。で? その祝福で洗脳されなかったお前みたいな奴がなぜ部隊長なんかやってる?」


「……やりたくてやっている訳ではないさ。反抗する者は即座に処分される。ここはそういう場所だ。俺達に意識があるのをいい事に、大多数の教徒を人質に取られているのだ」


 意識があるからこそ人質が有効ってのはわかるが……。


「祝福を受けてしまった者はおおざっぱな命令しかきけなくなるから俺達のような人間が好都合なのさ」


 ガングは深いため息をつきながら頭をぼりぼりと掻いた。ちょっとフケっぽくて嫌だなぁ。白いのがぱらぱらと床に落ちていく。


「中には嬉々として教祖に従う者までいる始末だ……。俺みたいに嫌々従ってる奴の方が多いがな」


「部隊長は何人くらいいるんだ?」


「全部で十人。レジスタンスとの闘いで三人ほど帰ってきていない」


 三人……?

 最初に遭遇した奴、砦にそれぞれ一人ずつ、だと一人多いな。


 ……あぁ、そう言えば砦の一つは大司教って奴が指揮してたんだったか。


「隠してもしょうがないから言っておくが……」


「いい、その三人は死んだのだろう? お前らを殺そうとしているのだから殺されても文句は言えまい。むしろ苦しみから救ってくれたとすら思うよ」


 そう言いながらも、苦い顔をしているガング。恐らくその中にそれなりに仲のいい奴でもいたのだろう。


「大司教ってのは何人くらい居るんだ?」


「大司教だと……? そうか、確か大司教が直接率いていた部隊もあったな。お前らは大司教も倒したのか……」


「ガング、お前は大司教が魔物だって知っていたか?」


 俺の言葉にガングはくわっと目を開き、「なんだって……?」と呟く。


「いや、そうか……うっすらとだがそんな気はしていたんだ。しかし……やはりランガム教は……」


「悲観的にならなくてもいいさ。俺が全部終わらせてやるからよ。それより、大司教って奴は何人くらい居る?」


「司教が五人、大司教が三人」


 そのうちの一人を俺達が倒したとして、あとは司教五人と大司教二人か。


「司教も大司教も人間離れした力を持っている。奴等はそれが信仰心による物だなんてほざいていたが、魔物ならば納得だ畜生め」


「多分その様子だと司教も魔物だろうな。このランガム教ってのは魔物の巣窟だぜ。間違いなく教祖ってやつもろくなもんじゃねぇな」


 出来ればギャルンじゃねぇ事を祈りたい所だ。


「で、肝心な教祖はどこにおるんじゃ?」


 ラムちゃんがベッドの布団をべしべし叩いて埃を叩き落しながらちょこんとベッドに腰かけた。


 どうでもいいけどパンツ見えたぞ。はしたないからもうちょっと気をつけなさい。

 そもそもなんでローブの中そんなにミニスカートなんだ? けしからん。


『だったらそれを本人に教えてあげなさいよ……』

 いや、だって「みたじゃろ!」とか言って怒られるじゃん。


『こっそり脳裏に焼き付けるくらいが君にはお似合いよね……』

 おいおいママドラの中で俺がどんどんヤバいやつになっていくんだが。


『事実に基づいた考察ですー』


「教祖の居場所は……俺にもよく分からん」


「なんじゃ使えんのう……」


 ラムがイラついて足をバタバタさせる。

 だからパンツ見えるからやめなさいって。


「……ッ!?」


 あっ、やべっ。


 ラムがスカートを押さえて顔を真っ赤にしながら俺を睨みつけてくる。


『やーいバレたーこのむっつりやろー!』

 でも即座にブチ切れてこない所をみるときっとそこまで嫌じゃなかったんだな。うん、いい子だ。


『あのねぇ……話の腰を折らないようにこんな所で騒ぐのはよくないって我慢しただけだと思うわよ? やっぱりその自分の都合のいい解釈は完全に犯罪者の思考回路なのよねぇ……』


 そもそも今ラムの外見じゃないんだから恥ずかしくないだろ……。


『……え、それ本気で言ってる? ねぇ、マジ?』


 ママドラの声がめちゃくちゃ冷ややかになったけれど、とにかく俺はラムから目を逸らし、話を戻す。


「まったく見当もつかないのか?」


「心当たりは、ある。地上の神殿部分の奥から毎回現れているようなのだ。神殿の奥には司教と大司教以外近付く事も許されない区域がある。恐らくそこだろうな」


 魔物共だけが出入りできる場所があるっていうならそこで間違いないだろう。

 分かりやすくて助かるぜ。


「教祖打倒も勿論なのだがお前らには頼みたい事があるんだ」


 頼みがある、と言われて今まで面倒じゃなかった事が無い。出来れば御免こうむりたいが。


「現在建設中の魔導兵器を破壊してくれ。アレが完成してしまったらこの世界は火の海になる」


 ……どうやら引き受けるしかなさそうだ。


『ミナト君、ラムちゃんが凄い目で睨んでるわよ?』


 ラムの奴……暴れるのを我慢してるだけでガングの話全く聞いてねぇな。


『暴れられた方が都合よかったのかしら?』


 それはない。


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