第229話:エルフは見た目通りとは限らない。
ぶつぶつ言っててもしょうがないのでとにかく俺達は地下空間へ足を進めた。
そこは俺が見てもよく分からない機械染みた物が沢山あり、まるでそれぞれが工場かなにかのようだった。
「……不思議じゃのう。これはおそらく何かの動力じゃよ」
「動力って……この神殿にこんな動力が必要とは思えないが……」
「さぁ、儂も詳しい事は分らん。しかし教徒達はそれぞれの場所で与えられた仕事を黙々とこなしているようじゃのう」
沢山建物があり、その中にはよく分からない物が沢山敷き詰められていたが、それぞれに教徒達が沢山群がっていて、肉体労働をする者もいればケーブルのような物に繋がれた者など役割はそれぞれのようだった。
「それにしても覇気が感じられないな……」
「覇気がない、というより……これはむしろ……生気が無いのじゃ」
そう、教徒達はあちこちにわらわら居るものの、それぞれ全く意思を感じない。
外に居る奴等はもう少しまともだった気がするが……。
意思を奪われてここに連れて来られるのか?
外に居たのはその前段階の教徒達?
分からないな。
適当に教徒を捕まえて話を聞こうと思ったがこちらに見向きもしない。
無理矢理引き留めて話しかけても目がうつろでぼそぼそと「全ては教祖様の為に……」を繰り返すばかり。
「これは……ここの奴等にいくら聞き込みをしても無駄じゃのう。既に精神汚染されておる」
「元に戻せたりしないか?」
「無理じゃな。ここまで明確に意思を奪われてしまうと親玉を倒したとしても元に戻るかどうか……」
……結局ここに居る奴等はほとんど全滅か。
「諦めるのは早い。どっちにしろ話せる奴が居なきゃ教祖の情報も手に入らないからな」
外に居る奴はちゃんと意思を持っていたが、ただの見張り以上とは思えない。
情報を得るならこの中で、の方がいいだろう。
「もうちょっと探してみよう。こんな作業員みたいな扱い受けてる奴等じゃなくて、指揮系統に絡んでるようなのが居るといいんだが……」
二人で地下空間をあちこち歩き回ったが、まったく成果がないまま数時間が経過した。
「どうしたもんかな……これ以上無策にうろうろするくらいならいっそこの大神殿を地下も含めて全破壊する方がいいか……?」
「出来ればそれはしたくないのじゃが……教祖の居場所が分からん以上それも止む無しじゃろうか……しかし……うむぅ……」
もしいざやろうってなったらラムの手ではなく俺がやろう。それくらいの罪は肩代わりしてやらないとな。年長者として。
『エルフが見た目通りの年齢とは限らないけれどねー』
いや、ラムはどう考えても幼女だろ。
『子供っぽい性格が抜けてないだけで二百歳くらいかもしれないわよ? もしそうなら残念だったわねー♪』
……もしそうならロリババァか。悪くないな。
『……私、君が本当に分からないわ』
そういう属性もあるの! ロリババァは定番ジャンルだぞ!?
『力説されても困る……』
急に梯子外すんじゃねぇよ自分から突っかかってきたくせに。
「ミナト!」
「うわっ、ごめん!!」
「……? なんじゃ? 急に謝られても困るんじゃが」
ロリババァ呼ばわりしたのがバレたかと思ったが心でもよまない限り分からんよな……。
「いや、なんでもない。……で、どうした?」
「この地下空間に何者かが入ってきた。入り口の方まで行ってみるのじゃ」
耳がいいな……。エルフの耳ってのは集音性が高いのかな。
ラムと二人で入り口方面へ進むと、他の教徒達と少し違うデザインのローブを着た男が広い通りを進み、小さな小屋に入る。
「後をつけよう」
男の入っていった小屋のドアをゆっくりと開け、中を覗き込むと、先ほどの男が何か基盤のような物を操作し、最後にレバーを落とした。
そしてあくびをしながらすぐに小屋から出てくる。
慌てて物陰に身を隠し、男が過ぎ去るのを見送る。
そいつは次にいくつもの角を曲がって、住宅のような外見の建物に入っていった。
「どう思う?」
「これは奴の家じゃろうな。あくびしていたの見たじゃろ?」
やっぱりあれはそういう事だろうな。
こいつには意識がきちんとある。
そして、こいつが操作したレバーの意味は正確には分からないまでも休憩を知らせる合図だった事が分かった。
今まで黙々と働いていた教徒達が建物から出てきて通りに設置してあるベンチに座り始めたからだ。そして無言で皆食事を始めた。
食事を終えると再び元の作業に戻っていく。
適度に身体に休みを与えるのはせめてもの情けなのだろうか?
教徒を減らしたい訳では無いという事かもしれない。
教徒、というよりどちらかと言えば労働力、だろうけど。
「さて……おあつらえ向きに他の連中は周りに一切関心が無いときてる。なら俺達がすべきことはなんだ?」
ラムに問いかける。
彼女は俺ににっこり笑いかけ、言った。
「無論、この家に堂々と乗り込んでぶちのめすのじゃっ♪」
「まったく危険思想なお嬢様だぜ」
「そしてその危険な事をノリノリでやってのけるのはミナトじゃのう♪」
ふふ、よく分かってるじゃないかうちのお嬢様は。
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