第220話:竜と年増と蜘蛛野郎。


「そ、それより! 相手はどんな奴なんだ?」


 俺の胸元に顔を摺り寄せてくるレナを一度引き剥がし、本題に入る。

 こんな事をしている場合じゃないからな。


『こんな時じゃなきゃよかったのにね?』

 それはそう。


「ちぇーっ。……でもそうだね、敵はガリガリの白ローブ男なんだけど、厄介な術を使うんだ。場所が全然わからなくって分身ももう何体もやられちゃった」


 そう言ってる間にも俺達のすぐ近くの柱にレナの分身が叩きつけられぐちゃりと潰れるのが見えた。


 本体はここに居るって分かっていても気分のいいもんじゃねぇな……。


『君も似たような事やったけどね』

 それは思い出したくない。


 しかし人の力としてはおかしい。スキルで強化しているのかあるいは……。


「敵の事で分かってる事は? 外見はともかく、厄介な術……じゃ参考にならんぞ」


「ごめん、アイツが何をしてるのかまでは分からないんだ。でもどういう事をされたかを伝えておくね。まず……」


 レナが砦の親玉と戦って分かった事は、

 まず相手の気配は感じない。

 どこからともなく現れて信じられない程の力で身体を捻じ切られる。

 音でどこにいるかを把握しようにも全く音がしない時もあれば至る所から足音が聞こえてきたりもする。


「私本体が無事なのは……運が良かっただけだと思う」


「……だとしたら俺が間に合ってよかったよ。取り合えずレナとヨーキスはここに居ろ。俺が結界を張るから動くなよ、後は俺に任せろ」


「でも……」


 レナは俺を見上げて、役に立ちたそうな顔をしていた。


「レナ、俺はここを追い込めた事も、っまだヨーキスが無事でいる事も全部レナのおかげだと思ってる。よく頑張ったな」


 そう言って頭を撫でて、二人に結界を張った。


「大丈夫だとは思うが万が一ここに敵が現れて結界を破られるような事があったら即座に逃げるんだぞ。結界は二重にかけておくから一枚目が破られたら俺がすぐに気付くようにはしておくが」


 更に言うなら、念のためにこの場をチェックしておく。

 結界が一枚破かれたら即座にここへホールで移動できる。


『余程心配なのね……』

 ここまで来て何かあったら困るからな。

 この二人は確実に守る。


 ……で、問題は敵がどこにいるか、だが……やはり相手は音を操っているのは間違いないだろう。

 それだけではなさそうだが、気配が感じられなかったというのも気になる。

 音が一切無いというのが気配の察知を阻害しているだけなら……。


 温度ならどうだ?


 ママドラ、温度の感知なんかを出来るスキルの所持者はいないか?


『いるけど……あまり気が進まないのよねぇ』

 なんでもいいから早めに頼むわ。


『はいはい。しょうがないわねぇ』


 俺の中に……うっ、こいつか……。

 ママドラが渋るのも分かる気はする。


『ふふ、また儂の力が必要になったようだな』


 今回は邪竜単体なので問答無用で身体を乗っ取られるような事は無かった。


『せっかく呼び出したんだから役に立ちなさいよ』

『年増は黙っておれ。儂はこの小僧と話しておるのだ』


『きぃーっ! やっぱり私こいつ嫌い!』


 お、おう久しぶり……でいいのか? とりあえず迅速に敵を捕捉して倒してしまいたい。力を貸してくれないか?


『無論、答えは肯定である。小僧もまた儂なのだからな』


 助かる。それなら……。


『いわずともよろしい。敵の場所を温度感知で調べようというのであろう? 既に行っておる。お主にも見る事ができよう』


 邪竜が言うように、俺が辺りを見渡すと……ヨーキスとレナが居る場所に、ぼんやりと赤い人型が浮かび上がった。


 ……サーモグラフィーみたいなもんか?


『さーも……なんであるか?』

 気にしないでくれ。でもこれなら……。


 ぐるりと回りを見渡すと……居た。

 確かに音も気配も感じない。

 ただするすると移動する人型の赤。


 よし、これなら相手の位置も分かるな。ならばこちらから打って出る……!


 ごんっ。


「いでっ」


 柱に激突してしまった。


『何をしているのだ……?』


 いや、お前の温度感知が視界に広がってて普通の障害物が見えないんだよ……。

 片目だけにしてくれ。


『人間というのは難儀な物だな。これでよかろう』


 ……うん、これなら大丈夫だ。


 右目はサーモ状態。左目は通常の視界。


 あとは一気に奇襲を仕掛けて一撃で仕留める。


 俺は相手までの距離を一気に詰め温度反応を頼りにして柱を回り込むように蹴りを入れた。



 俺の足は間違いなく相手の脇腹にめり込み、白ローブがぐにゃりと折れ曲がった。


「……酷いですねぇ……急に蹴るなんてどういう教育を受けて来たんですか?」


 身体が腰の部分から逆に折れ曲がっているというのにその男は何事も無かったかのように話し始める。


 白いフードの中にギラリと赤く光る眼玉が五つ。


「お前……人間じゃないのか」


「私を人間のような下等生物と一緒にしないで下さい。私は人間よりも、勿論ランガム教徒などよりも上位の存在なのですから」


 その言葉と共に白ローブを突き破って大量の足が俺に襲い掛かる。


「蜘蛛かテメェはっ!」


 こちらに向かってきた足の二本を切り落とすが即座に再生する。


「くふふ……貴女はなかなか楽しめそうですね」


「ちっ、やっぱりランガム教ってのは魔物の巣窟かよ」


 今回の件に魔物が絡んでるとしたらギャルンが裏に居る可能性が高くなってきた。


「まったく面倒な事になって来やがった……」



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