第210話:さいていさいあくのなまえ。


「まだ着かないのか? もう大分歩いたぞ?」


「まだだ」


 さっきから同じような所をぐるぐる回っている……。


「じゃあ向かう道中でこの国の現状を教えてくれよ」


「誰でも知っている範囲で良ければ教えてやる。ランガム教はこの国に住む人々を無理矢理教徒にし、兵として鍛え……従わない者は反乱分子として処分される」


 想定していた通りとはいえ完全に独裁国家だな……。


「私達はレジスタンスとしてランガム教に対抗しようという者の集まりだ。皆何かしら奴等に奪われた者達ばかりだよ。奴等を滅ぼし平和な国にするのが我々の最終目標だ」


 理想は立派なもんだ。

 少なくとも現段階ではどちらが良い悪いかはともかく、どちらに味方したいか、という点ははっきりした。


「……それにしてもまだかよ。同じとこ回ってるよなこれ」


「決められたポイントを指定の順番で通過しないと目的地にたどり着けない術式が施されている」


「それを説明するって事は俺達を信用してくれてると思っていいのか?」


「ふん、ならば貴様はもう一度同じ順路を通れと言われて再現できるのか?」


「……まぁ、無理だわな」


 スキルでも駆使すりゃなんとかなるだろうけど言わない方がよさそうだ。


「着いたぞ」


「しかし遺跡の奥でも思ったんだがこんな複雑な術式一体誰が……? あんたら魔法使えるような感じじゃなかっただろう?」


「それは全部ボスがやってくれてる事だ。くれぐれも失礼のないようにな」


 ヨーキスの案内で森をめぐり、必要なポイントを周り終えて最後は大きな二本の木の間を通り抜けると……。


 目の前には集落が広がっていた。

 家がそれなりの数存在していて、それらは皆木の上に作られている。


 太い木が沢山生えており、その枝を足場にするようにログハウスのような建物があった。


「こりゃすげぇな……」


「ついてこい」


 レナもイリスもこんなのは初めて見るらしくキョロキョロと物珍しそうに辺りを見渡していた。


 しばらくその集落を奥へ進むが人に遭遇しない。


「……人の気配がしないんだが?」


「当然だ。ここにはボスしかいない」


 ……? どうしてそんな事に?


「不思議か? 当然の事だ。皆、殺されたからな」


 ……なんてこった。


「レジスタンスの連中はここにはいないのか?」


「あいつらはこことは関係ない。意思を同じくした同士ではあるが、今ここに住んでいるのはボスだけだ」


 今、という事は他にもいるのだろうか?

 それともそれ以外は全員殺された……?


「詳しくはボスから話を聞くといい。高貴なお方だからな、繰り返すがくれぐれも失礼の無いように頼むぞ」


 そこまで繰り返すという事はよほど気難しいのか……?


 ちょっとだけ緊張してきた。

 どんないかつい奴が出てくるんだろう?


 いや、高貴なお方とか言ってたからどちらかというとエクスみたいな奴かもしれん。

 だとしたら俺の苦手なタイプだが……。


「まぱまぱ、見てあれすっごいおっきいよ」


「確かに相当年期が入った木だな……」


 どうやらボスの家というのは集落の一番奥にある巨大な木の上にある家のようだ。


「きゃっ」


「おっと、気を付けろよ」


 レナが躓いてこちらに倒れ込んできたのを慌てて支えてやる。


「この辺は木の根がそこら中に出てるから足元には気を付けろ……そしてお前らこんな所で妙な事を始めるな」


 ヨーキスが注意を促すついでにジト目で俺に睨みを利かせてくる。


「これは不可抗力って言ってだな」


「だったら早くその手を離したらどうだ? ボスの前でそんな卑猥な事を始めたら首を刎ねるぞ」


「べ、別に……私は、気にしない……よ?」


 うーん、やっぱりこういう時のレナは女子力というか女の子らしさというかうちの連中に無い物を持ってるなぁ。


『ついでに大きなものも持ってるしね。……で、いつまでその大きなのを握りしめてるつもりなのかしら?』


 これは支えてあげているだけでだな。ついうっかり握ってしまっただけなんだよ。

『へぇ』


 ヨーキスが更に睨みを利かせてくるので名残惜しいが豊満なアレから手を離した。


「これどうやって登るんだ?」


「ボスはそっちじゃない」


 ヨーキスは巨木のうろの中へと進む。


「ん? あの上の家は?」


「あれはダミーだ。昔はボスの一家が暮らしていたが……」


 ヨーキスが苦い顔をしていたのでそれ以上聞くのをやめた。


 うろの中はすぐに行き止まりになっていたが、ヨーキスが何度か触れると波紋のように揺らめき、その腕がずぶずぶと吸い込まれていく。


 きっと森の時と同じで規定の場所を決められた順番で触れる事で別の場所に繋がっているのだろう。


 ボスとやらは相当な使い手だな……。


 俺達も続いて一歩踏み入れると、一面花畑の不思議な場所に出た。

 その花畑の中に小さなログハウスが建っている。


 相当遠く離れた場所、或いはここ自体が特別な空間内……?


「こりゃすげぇ……別の空間へのゲートを開きっぱなしにしてるのか?」


「私に聞くな。私は魔法やら魔術に明るくない」


 ヨーキスは唇を少し尖らせながらぶっきらぼうに言い放った。


 やはり全部ボスって奴の仕業か。俄然興味が出て来たぞ。


「お前らは少し外で待っていろ」


 ヨーキスがそう告げて扉をノックし、「入れ」という声に従い中へ入る。


 声が高い……とりあえずボスとやらは女性らしい。


「ボス、森林の外から来た人間をお連れしました。勝手な事をして申し訳ありません。しかし、信用のおける人物です」


 おや、信用してるわけじゃないっぽい事言ってたのに随分態度が違うじゃないか。


 意外と室内の声は外にも聞こえてくる。気密性はあまり高くないのかもしれない。

 これだけ穏やかな場所ならそれでも十分なのだろうが。


 ここに連れて来た時点で信用できる人物、と言っておかないとヨーキスの立場も危ういのかもしれないが。


 尚更滅多な事はできないな……。


「ヨーキスがそう言うのなら信じるのじゃ。通せ」


 のじゃ、ときたか……。


 魔術の熟練度を鑑みるに、どうやらボスというのは老婆か何かなのかもしれないな。

 だからこんな場所に引きこもっているのだろう。


「三人とも、入れ」


 ヨーキスの声に従い扉を開ける。


 レジスタンスのボスとやらのご尊顔を拝んでやろうじゃないか。


「よく来たな異国の物よ。儂がレジスタンスの首領、キキトゥス・ララベル・ラムフォレストじゃ。気軽にキキララと呼ぶとよいのじゃ」


 さいていさいあくのなまえだなこいつ!!


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