第208話:ぶっころ。


 ヨーキスの後を追い、木々を抜けるとそこは開けた場所になっており、テントが幾つも張られていた。


「どうした!? 報告を!」


「ヨーキスか、いいところに! バルドの部隊がランガム教徒と小競り合いになって怪我したんだ!」


 ヨーキスはそれなりの地位があるのか、彼女が連れてきた俺達に不信感を持つ者は居なかった。

 単に今それどころじゃないだけかもしれないが。


「つけられてないだろうな?」


「ヨーキス! バルドは大怪我してるんだ! 他に言う事はねぇのかよ!」


「ない。怪我は自己責任だ。勝つも負けるも生きるも死ぬも全て自己責任。しかし尾行されこの場所を知られたのならばここにいる全員に迷惑が掛かる。それだけは許されない」


 ……冷徹。

 そう思えるかもしれないが、間違った事は何も言っていない。

 確かにそこまでの深手を負ったのならば血をダラダラ垂らしながらここまで逃げてきたのは愚策だろう。


 バルドってやつも生き残りたくて必死なのだから責める事は出来ないが、皆を守るためと考えるなら正しい行動とは言えない。


「そんな事は分かってる! だけど傷だらけでやっとここまで辿り着いたんだぞ!? せめて治療くらい……」


「助かる傷かどうかも分からんのか馬鹿め。その傷ではもう長くない。治療用の薬も機材も限度がある。助かる見込みがない奴には……使えない」


 ヨーキスは冷たく言い放ったように見えるかもしれないが、よく見ていれば感情を押し殺しているのが分かる。

 彼女は奥歯を噛みしめている。

 指揮をとる人間というのは効率を重視しなければならない。

 助からない相手に限りのある物資を使うのは無駄、その後の助かる命を助けられなくなってしまう。


 部下だか仲間だかもそれは分かっている筈だ。

 だけど、理屈だけじゃ納得できない部分だってあるよなぁ。


「ヨーキス、無理しなくていいぞ。そいつは俺が治してやる」


「誰が無理など……それに、どう見たって助かる傷では……」


「やってみなきゃわからねぇよ。ほれ、どいてくれ」


 俺はバルドって奴を抱きかかえている筋肉モリモリ男を横にどけ、傷を見てみる。


 ……体力があるおかげか、まだ余力があるな。

 まずは重要な臓器だな。


 回復魔法を唱える範囲を限定する。

 内臓に空いた穴を塞ぐ。


 ……よし、後は身体中の穴を塞いで……っと。


「どうよ。俺にかかればこんなもんだぜ」


 とは言えネコが居たらこのくらいの傷一瞬で治せるだろうが。


「う、うぅ……」


 バルドはまだ意識を取り戻さないが、先ほどまでとは違い顔色が少し良くなったように思う。


「……バルドは、助かるのか?」


「傷は治したぜ。失った血液までは戻らないからな……しばらくゆっくり休ませる必要はあると思う」


「死なない、のだな?」


 緊張が解けたのか、ヨーキスは顔をくしゃくしゃに歪めた。


「ああ、もう大丈夫だ。……泣くなよ。なんでそんなに辛いのに無理してんだお前は……」


「う、うるさいっ! 泣いてなどいない!」


「はいはい。そういう事にしといてやるよ」


「ふん! ……しかし、仲間が助かった事は、礼を言う」


 まるでロリナを思い出させるかのような素直じゃ無い感じ。

 でもこいつは悪いやつじゃなさそうだ。


「誰だか知らないがバルドを助けてくれて感謝するぜ! こいつは昔からのダチなん……」


 名も知らない筋肉ムキムキ男に感謝されたと思ったら、バヒュンという音と共に崩れ落ちた。


「お、おい……」


 急に倒れた男を俺が助け起こそうとするが、


「やめろ、こっちだ!」


 急にヨーキスに腕を引っ張られる。


「お、おい……あいつどうしたんだ?」


「何を寝ぼけている! 敵襲だ!」


 なんだって……?


「だったら尚更だろう! 早く治してやらないと……」


「まぱまぱ、あたしが連れてくる!」


 イリスが男の元へかけよる。


「馬鹿者! あいつはもう死んでいる! 後頭部半分消し飛んでいた! 手遅れだ!!」


 くそ、なんだってんだ……。

 先程あったばかりの相手だったとしても気分が悪い。

 しかも俺に対して感謝の言葉を言いながら死ぬとか……。


「早くお前の娘を下がらせろ!」


 ばひゅん。


 ピカっと光る光線のような物がイリスの頭部に当たり、小さな爆発を起こした。


「……イリス?」


「くっ、あれでは……もう……」


 イリスは力なくその場に倒れこんで動かなくなった。


「……おいイリス!」


 冗談だろ……?


「危ない、お前も下がれ! 敵の数も分らないんだ不用意に前に出るな!」


「うるせぇよ」


 俺はヨーキスの制止を振り切り前へ出る。


「レナはそいつを守ってやってくれ。奴等は俺が片付ける」


「……わ、わかった……」


 このアジトには他にも十人程度人がいるらしく、物陰に隠れ銃撃戦を始めた。


 そうか、ここの連中は基本的に重火器での戦いをしているのか。


 でも敵が使っていたのは銃弾を放つタイプでは無いように思う。


『意外と冷静ね?』


 当然だ。


 目の前がぴかっと光って俺のおでこあたりに敵の銃撃がヒットしたのが分かる。


「ひっ……」


 ヨーキスが小さく悲鳴をあげたのが聞こえた。

 きっと俺が死んだと思ったから、ではなく、あれをくらっても平然としているからだろう。


 結構な衝撃だったが、どうという事はない。


「……この程度なら大丈夫だろう? 起きろイリス」


「う、うぅん……あたまクラクラする~っ」


 やはりイリスの頭部には傷すらついていなかった。


「お、お前らは……いったい……」


 ヨーキスが何か言ってるが、その話は後だ。


 可愛い俺の娘にこんなもんぶっ放した奴らを八つ裂きにしてからでいい。


「てめぇら全員ぶっころだ!」



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