第207話:ランガム教とレジスタンス。


 こんな遺跡に人が入った痕跡があるっていうのは何か引っかかるな……。


 動物が果実を持ち込んで食べただけって可能性もあるが、それにしては綺麗に剥かれていた。


 奴等がわざわざここへ入って食べたってのも違和感ある。

 奴等から逃げている立場の人間がいる……?


 もしそうなら接触を試みてもいいかもしれない。


 森の中で会った奴等はあきらかに誰かを追っていた。あの話しぶりからするに個人相手ではないように思う。


 敵対関係にある勢力がいると考えるのが一番しっくりくるが……どうなるか。

 万が一俺達にとって害になるような連中だったとしたら、接触が裏目に出る可能性もあるけれどこんな遺跡の中なら騒ぎになる前に始末してしまえばいい。


 出来ればそれは避けたいけれど。


「とりあえず奥へ進んでみようぜ」


 しばらく分岐を適当に進みながら奥へ奥へと行くと、イリスが何かに気付いた。


「まぱまぱ、人の匂いがするよ」


 俺にはまったくわからないが、イリスは五感が俺よりも研ぎ澄まされているようで、鼻をすんすんしながら壁の方へ歩いていき、ぺたぺたと触る。


 がこっ。


 どうやら隠し通路があったらしく、壁の一部がへこみ、スライドしていく。


「ミナト、これ絶対何かあるよ……? 進むの?」


「……気を付けながら行こう。どうせどこかでアクションを起こす必要があるからな。ここに誰か居るなら話を聞いてみたい」


「じゃー遺跡探検れっつごー♪」


「動くな」


 隠し通路を進もうとしたら秒でこれだ。


「何者ッ!?」


 レナが身構えるが、それを制する。


「いい、レナもイリスも動くな」


「……よく分かってるじゃないか。貴様等は何者だ? ランガム教徒には見えないが……?」


 どこから声が聞こえてくるのかいまいち判断が付かない。

 反響しているせいだけではないだろう。気配を殺すのが上手いのか……それとも何かしらのスキルなのか。


「まぱまぱ、どうするの?」

「ミナト……」


 二人は俺に任せてくれるらしく警戒を解く。

 イリスはともかくレナは普通の人間だから気を付けてやらないとな。


「俺達は……詳しくは言えないがランガム教には関係ねぇよ」


「……まぁ、そうだろうな。しかしこの国の住人とも思えん。まさか、外から来たのか?」


 男とも女とも判断しにくい中性的な声はすぐに俺達が外から来たと気付く。なかなか洞察力のある人物のようだ。


「俺達がどこから来たのか、についてはどうだっていい。それよりあんたはランガム教と敵対する勢力の人間か?」


「……ああ、私達はレジスタンス。ランガム教の傍若無人なやり方に異を唱え、この国に平和を取り戻さんとする者なり」


「そりゃ大層な思想だな」


 こういう言い方をする奴等っていうのは敵ではないかもしれないが味方とも言い切れないのが定番だ。

 慎重に行くべきだろう。


「繰り返し聞くぞ、貴様等は何者で、何をしに来た」


「俺達はランガム教とかいう奴等がろくでもねぇ事を企んでるって聞いて調査に来たんだよ。それ以上は言えねぇな」


「……調査、だと? あいつらはこの国も、そして外の国も侵略しようとしている馬鹿共だ。それ以上でも以下でも無いぞ」


 外の国も……か。

 それが本当だとしたら俺は……。


 とにかくもう少し情報を調べる必要がある。

 こいつに取り入っておくのもアリかもしれないな。


「もしランガム教がこの国、そして外の国を侵略しようとしているのなら俺の敵って事になる」


「ランガム教の敵が私達の味方とは限らない」


 こいつもよく分かってるな。


「少なくとも俺達に危害を加える意思はない。あんたがランガム教の敵だって言うなら尚更な」


「……訳アリか。信じる訳では無いがまぁいい。ここには訳アリ連中しかいないからな。奥へ進め」


 声の通り、先へ進む事にする。いきなり攻撃される可能性も考慮して注意しながら。


「止まれ。ここから先はレジスタンスの隠れ家の一つだ。妙な真似をすれば殺す。誰かと連絡を取ろうとすれば殺す。それを理解したら突き当りの扉の前に立て」


 敵認定されなかっただけマシか。とりあえずこいつらから出来る限りの情報を得る事にしよう。


 通路をまっすぐ進むと突き当りになり、言われた通りその場で待っていると、重い音と共に壁がスライドしていく。


 不思議な事にそこは森の中だった。


「……どういう仕組みだ?」


「お前が知る必要は無いが……そういう術式だ、とだけ言っておこう」


 扉を抜けると、すぐ傍らに腰に妙な器具をぶら下げた女傭兵、みたいなのが腕組みして壁に体重を預けていた。


「……お前がさっきの声の主か」


「ヨーキスだ。お前らは?」


 ヨーキスと名乗った女はタンクトップにダブっとした迷彩色のパンツといういで立ちで、髪の毛は褪せた赤。

 こちらを見定めるように目を細めてじろじろと上から下まで視線を動かす。


「俺はミナト。こっちのは俺の娘のイリス、でこっちがレナだ」


「まぱまぱの娘だよー。よろしくねヨーちゃん♪」


「よ、ヨーちゃん……? 姿を見てみれば尚更ここの人間でないのがよく分かるな。ランガム教徒の謀略ならばここで殺すつもりだったが……」


「ちなみに私はミナトの妻です♪」


「なんだ、こんな場所に親子で旅行か? 呑気なもんだな」


 どさくさに紛れて何を言ってるんだこの子は……。


 レナが俺の耳元へ「そうしておいた方が何かと便利だよ♪」と囁く。


 耳元へ、という表現はちょっと間違っていて、本人はそうしたかったんだろうが身長が低いので耳元までは顔が届いてない。


「……まぁいいか」


「やった♪ じゃあここにいる間は私ミナトの奥さんね♪」


「ここにいる間……? つまりそのレナという女は実際の妻ではないと? 爛れているな……」


「ちょっと待って、妙な誤解を生んでる気がするんだが」


 レナの奴結局自分から妻じゃない事を暴露してるようなもんじゃないか。これって俺がダメな奴という情報を撒いただけでは……?


「お前らの関係などどうだっていい。それよりも……む、なんだ? 騒がしいな」


「怪我人だ! 誰か来てくれ!!」


 木々の向こうは開けた場所になっていて、そちらから声が聞こえてきたようだ。


「ついてこい」


 ヨーキスは小走りで声の聞こえた方へ向かう。


 ……なかなかに面倒な事になりそうだ。


『いつもの事で慣れっこでしょ?』


 ……そんなの慣れたくねぇなぁ。



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る