第194話:味覚バカとは食事にいけない。
さて、一番可能性が高い所を調べてみるか。
最初から食べ物に手を付けていなかったサイラス、そして食事をしていたのになんの被害もなかった大臣、この二人が今の可能性が一番高いが……、問題点は二つ。
仮にサイラスが毒を盛った場合、自分で手を付けなかった事を考えると殺害対称はランダム、或いは自分以外の全てだった可能性がある。
この場合大臣だけを助けようとした可能性が浮上してくるが因果関係は分からない。
そして当のサイラスは襲撃にあってかなりの深手を負った。
これも二パターン考えられ、一つはサイラスも犯人のターゲットだった可能性。殺害、ではなく離脱が目的ならばこれでも説明がつく。
もう一つはサイラスが何者かに指示をされて動いていた可能性。こちらの場合はおそらく毒殺失敗における制裁。
そもそも夜中に一人でこそこそと外を出歩いていた事自体おかしいのでサイラスを完全に容疑者から除外するのは早計だろう。
そして食事をとっていたのに大丈夫だった大臣。
これについてはいくつか考えられるが……。
一つは大臣が犯人だった場合。自分の食事に毒を盛らなかったという可能性はある。
次に、偶然毒を含んだ食べ物を食べなかった可能性。ただ運が良かっただけ。
そして、犯人の殺害対称に大臣が入っていなかった場合。
これだと大臣を王にしようとする何者かの仕業という事になり犯人候補が急激に増え、特定が難しくなる。
サイラスと大臣……どちらから先に調べるべきか。
今日中にどちらも調べるつもりなので順番はさほど重要では無い。
ならば城の中に居る大臣を先に調べて……いや、サイラスは王戦から離脱するとの事なのでここに留まる理由がなくなる。なら早めに確認しておかないとどこかへ移動されてしまうか。
僕はサイラスが搬送された施設を兵から聞き出し街へと向かった。
中途半端に顔が割れているので面倒を回避する為に帽子を深く被り、サイラスが搬送されたという病院のような施設へ。
受付で城の関係者である事を名乗るが怪しまれてしまったのでやむを得ず受付の女性にだけは自分の身分証を見せた。
「みっ、ミナト様!?」
「しーっ、声がでかいよ。今重要な案件を調べている所だから……協力してくれるね?」
僕の正体を知るや受付嬢はすぐにサイラスの病室へ案内してくれた。
病室は個室のようで、軽くドアをノックすると中から「だ、誰……?」と怯えた声が返ってくる。
許可を待たずに扉を開けると、僕の姿を見たサイラスは悲鳴を上げた。
「ひっ、ひぃぃぃっ! また別の!? もう勘弁してくれ……! 頼む、私が悪かったから……!」
そう言って泣きじゃくる。四肢は添え木を当てられ包帯でぐるぐる巻きになっており、身体の自由はあまりきかないようだが意識ははっきりしているようだ。
ここに常駐している回復術師の魔法でそれなりに回復はしているのだろう。
手足が治りきっていないのは回復術師の腕が悪かったのかはたまたそれだけ酷い有様だったのか……。
「私が悪かった、という事は自分に何かしらの非がある事は理解している訳だ?」
そう告げながら一歩部屋に踏み入る。
こいつがこんな事になってしまった事に理由があるというのなら聞き出さなければならない。
簡単に白状するならそれでよし、もし隠し立てするようならば……残念だが少し痛い目を見てもらおう。
僕は名探偵なので実力行使は好きでは無いが、ここはファンタジーの世界だ。僕が生きて来た世界と同じやり方を模倣する必要は無い。
「知っている事を全て話してもらおうか……」
さらに一歩踏み込む。
「わ、悪かった! 君が誰か分からないけど私が悪かったからっ!!」
どうやら僕が誰か分かっていないらしい。帽子を被っているからだろう。
「僕はジャーロック……と言っても分らないか。ミナトだミナト。食事会で同席していただろう?」
「ふぇっ? ……み、ミナト……あぁ、あぁ! あの時の! よかった……てっきり私は……」
てっきり、と来たか。その反応は明らかに自分が誰かに狙われているのを分かっている反応だ。
「聞きたい事は三つ。食事に毒を盛ったのはお前か? 違うなら心当たりは? 次に勝手に城を出ていた理由。最後に襲撃の犯人について。僕が納得のいく答えを用意できたのならその手足を今すぐに完治させてやろう」
「ほ、ほんとに!? 治してくれるの!? そしたらこんなところすぐにでも逃げ出せる……!」
……? この反応は、毒の件には無関係か?
「なんでも話すよ! えっと、まずは食事に毒、の話だよね。勿論僕は無関係だよ! 心当たりも全くない」
「なら何故出された料理を食べようとしなかった?」
「そ、それは……笑われてしまうかもしれないが、出された料理が……嫌いな物ばかりで……」
絶句。
「つまりお前は嫌いな物ばかりで手を付けられなかっただけだ、と?」
「そ、そうだよ……。だって肉料理にはスパイス沢山かかってたしスープだって野菜沢山入ってたし……」
サイラスは、あんなもの人が食べるべき物じゃないと力説する。
頭が痛くなってきた。偏食家にもほどがある。
念の為にこいつの魂の色を確認してみたら薄いピンクだった。
この話をしながらこんな色という事はハズレの線が濃厚だ。
「分かった。毒の件はもういい。じゃあ何故一人で城から抜け出した? あんな事があったのに怖くなかったのか?」
「怖かったから抜け出したに決まってるでしょっ!? 一人で居たくなかったんだよ……」
夜の街に繰り出して酒でも飲みながら騒ぐ事で恐怖を和らげようとしたのか? だとしたらとんだ間抜けだな……。
「最後に、お前を襲った奴に心当たりは? 最初の反応を見る限り心当たりがない、とは言わせないぞ」
「……お恥ずかしながら、交際をしていた女性達と偶然遭遇してしまい、ボコられました……」
絶句。もうやだこいつ。
「今女性達。と言ったね?」
「はい……私が交際している女性の、その友達と、その友達と、その友達です……」
呆れた。こいつその全員と関係を持っていて、偶然夜に出くわしてしまって修羅場が発生しボコボコにされたという事らしい。
「そうか……君に聞きたい事はもう無い。邪魔したね」
「ま、待って! 治してくれるんだろう? 約束したじゃないか!」
「……お前はそこで怯えていろ」
こんな阿呆に時間を取られた事に腹が立つ。
すぐに次へ行かなければ。
部屋を出ようとした時、背後から「ミナトちゃん、治してくれたら美味しいご飯奢るから! デートしようよ!」なんて声が聞こえてきた。
とことん救いようのない奴である。
「てめぇが美味しいと思う食事が美味しいはずないだろうが」
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