第169話:複雑な祝福。


「な、なんという戦いだーっ!! こ、言葉もありません! なんとお伝えしていいか、分らない……! しかし、これだけは確かだ! 勝者、ミナトぉぉぉぉっ!!」


 ……胸糞悪ぃ。


『君はやるべき事をやったじゃない』

 分かってるよ。

 でも気分は晴れないさ。ジュディアにも無理させたし。

『それは彼女も君自身なんだから少しは頼っていいんじゃない?』

 だったらママドラも俺か?

『そうよ。だからもっと頼りなさいよね』

 ……うん、ありがとう。


「ティリスティア……なんと、塵一つ残さずに消し飛んでしまいました……! 本来ならこんな結末は見たくありませんでしたが……それほどまでに強者同士の戦いであり、ギリギリの戦闘であった事をご理解願いたい! 今はなによりも、新たな英傑王の誕生を祝おうじゃあないかーっ!」


 会場から盛大なミナトコールが降り注ぐ。

 ティアという存在がこの場から一人消失してもこいつらには特に思う所がないのだろうか。

 腹立たしい。


 俺は一人になりたくて、観客に軽く手を振って控室へと向かった。


 戦いを終えた英傑達も医務室か、観客側に行っているため控室には誰も居ない。


「見事であった。やはり余の目に狂いはなかったな」


「……お前、何があったか……最後のやつ全部見えてたのか?」


 俺が控室の椅子にどかっと座った直後、エクスが音もなく入ってきた。


「無論だ。しかし余でなければ見逃していたであろうな」

「ふん、誰にも言うなよ」

「分かっている。なぜあの女が抵抗を辞めたのか……貴様等の間に何があったのかはあえて聞くまい。さて、お前がいつまでもそんな顔をしていたらタヌキ姫が喜ぶ事も出来ないではないか。少しは気を利かせてみせよ」


 ……? 何言ってんだこいつ。と思ったら、エクスの背後からそろりとぽんぽこの頭が見えた。


 どうやら気を遣わせてしまったらしい。


「ぽんぽこ、もう大丈夫だから。そんな所にいないで入ってこい」


「は、はいですわ……その、なんて言っていいか」

「いいんだ。この件については後で俺もいろいろ話さなきゃならない事があるが、それよりも今後の事を考えたい。英傑王の称号授与ってのはいつどこでやるんだ?」


 そう、ティアの為にも早くケリをつけなければ。

 俺にはもう、この国で起きた騒動の原因、そしてティアを無理矢理従えていた奴が誰なのか、分っている。

 だからこそ一刻も早く王に会わなければならない。


「この後……王城にて執り行われますわ。まもなくミナト様を呼びに王の使いが来るかと思われます」


 俺の事が心配だったのかぞろぞろと仲間達が控室に押し寄せてきた。

 そしてディグレ……じゃなかった、レナとネコは俺に胸を押し付けてきた。


「なにやってんだお前ら……」

「ごしゅじんが凹んでるみたいだから癒してあげようと思ったんですよぅ♪」

「ユイシスちゃんが、こうするとミナトが喜ぶって……」

「お前らわたくしのミナト様に何しやがってんですのーっ!」


 俺の両脇、特にレナに対しぽんぽこが激おこ。


「わたくしのミナト様ぁ? 別にミナトはタヌキの物じゃないし! 私の物でもないし! 共有財産だもんっ! 気に入らないならタヌキもミナトを悦ばせてあげればいいでしょ?」


「ぐ、ぐぬぬ……英傑風情が……!!」


 ぽんぽこが見た事もない形相でブチ切れている。お前本当に姫様なのかよ……。


「しかしよく考えたら共有財産というのはなかなか悪くない考えですわね」

「そうですよぅ♪ ごしゅじんはみんなで共有しないと勿体ないですぅ♪」

「ユイシスちゃんは本妻だっていうのに皆にもミナトを分けてくれるって言ってくれる凄い人なんだよ? タヌキもやっと分かったみたいだね」

「まぱまぱ大人気だね♪」


 ちょっと待て待て、俺の意思はどこへ……?

 イリスまで皆と一緒になってひっついてくるがこんな連中の真似をしてはいけませんよ?


『そんな事言って嬉しい癖に♪』

 ……うーん、俺が元々の外見だったらこんな事になっていたかなぁと考えると少し切なくてね……。


『今の姿が今の君なんだから細かい事考えちゃだめよ。それに戻る気になれば一時的に男にも戻れると思うし、やる事はやれるから大丈夫!』

 何が大丈夫なんだよ……。


 でもこの状況下でいきなり男になってみる勇気はないなぁ。

 こいつらの反応が変わってしまうのも怖いし、エクスも見てるし。


『エクスに男の姿を見せたくないって……ちょっとまって、それってもしかして、そういう……?』

 待て、何を誤解してるかしらんがママドラが考えてるようなのじゃないからマジで。


『まぁ今男の姿になってもワンピース来てる変態が出来上がるだけだしね』

 そ、そうだった……。尚更戻るタイミングなんてねぇじゃんよ。


『君が女の子らしくお洒落するのが当然になっちゃったからね、今更男の子なんかにならなくていいんじゃない? それこそいざいたす時以外は』

 何をいたすんです?

『ナニを?』

 聞いた俺が馬鹿だったよ。いつかそんな日が来るのかねぇ……。

『君がその気になればね』

 じゃあ当分ねぇな。


 俺にそんな勇気はない。


「ここにおられましたか。ミナト様、我等に同行し城まで来て頂きたく……」


 控室に全身を鎧を纏った兵士がガチャガチャ音を鳴らしながら現れた。


「おう、待ってたよ。じゃあみんなはどこかで待っててくれ。ちょっくら行ってくるわ。……エクス、みんなの事任せていいか?」


「うむ、承知した。うまくやれよ」


 言われなくてもしっかりやってくるって。


「あ、あとイリスにちょっかい出したらぶっ殺すからな」

「ふふ……覚えておこう」


 こいつ強い女なら見境ないからな……注意しておかないとイリスまで口説かれかねん。


「それと、そちらの獣人の方もご一緒にお願いします」


 いざ出発しようとしたら兵士が突然そんな事を言いだした。獣人も一緒、だと……?


「うにゃ……? 私、ですかねぇ??」

「いえ、貴女ではなく……そちらのタヌキの」


 自意識過剰なネコが顔を真っ赤にして恥ずかしがっているがそんな事はどうでもいい。


 皆の視線がぽんぽこに集まる。


「えっ、わ、わたくしですの?」




――――――――――――――――――――




目的の為に英傑祭を優勝したものの、ミナト君はかなりフラストレーションを溜め込む形になってしまいました。

そんな荒んだ心を癒してくれるのはやっぱりいつものドタバタ連中なのですね。

卑屈になりながらもやっぱりなんだかんだ嬉しいのは男の子の性というやつです(笑)

リリア帝国編も終盤、ついに王、そしてヴァールハイトとの対面です。

ティアに関してもまだまだ判明していない事がありますのでその辺も含めて次回以降もよろしくお願い致します!

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