第167話:ティアとセティ。
『……なんだか、凄い子だったわね』
ああ。
『やるからにはちゃんとやりなさいよ?』
分かってるよ。
『もう、拗ねてる場合じゃないでしょう?』
拗ねてねぇって。
『でも怒ってる』
そりゃ怒るだろ……やりきれねぇよこんなの。
『だからこそ、よ。確実に、しっかりやりなさい』
……分かってる。
「さぁさぁお待ちかね! 英傑際最終戦! この戦いに勝った者が新たな英傑王だぁぁぁっ! 勝利の栄光を手にするのはエクスにすら勝利したティリスティアか!? それともここまで圧倒的に相手をねじ伏せてきたミナトかぁぁぁ!? 二人ともまだまだ謎に包まれているッ! この勝負、一瞬たりとも目を離すんじゃねぇぞ!!」
やかましい実況の声を聞きながら、俺達は見つめあう。
「お前も本気で来い」
「うん、そのつもり……君なら私の全てを受け止めてくれそうな気がするから」
買いかぶられたもんだぜ。でも……それだけ期待されたならばこちらも応えてやらないとな。
ティアが手を翳すとどこからともなく巨大な剣、ヴェッセルのダンテヴィエルが現れる。
「私の名前はティリスティア・マイ・メビウス・メロディ……聖剣ダンテヴィエルにて魔王を打ち滅ぼせし者! 勇者と呼ばれたこの力を見せてあげるわ!」
彼女がダンテヴィエルを構え、こちらに切っ先を向ける。
どういう訳かは分からない。だが、あの後こいつにいろいろ話を聞いて分かった事が幾つかあった。
その一つがこれだ。この女は……。
魔王であり、器を手にしたイヴリンを最初に討伐した者。
つまり、初代勇者、その本人である。
ならば、俺はこいつと合わせてやらなきゃならない奴がいる。
ママドラ、奴の記憶を……全てだ。体の主導権を渡していい。
『身体の主導権をって……君だって彼女なんだから一緒に戦うのよ』
……分かった。それでいいさ。
俺の中に剣聖、ジュディア・G・フォルセティの記憶が流れ込んでいく。
「……貴女、いや、君は……まさかセティ?」
「お久しぶりです。ティリスティア様」
ティアは明らかに狼狽していた。目を開き、眉をしかめ、唇をかみ、そして、ゆっくりと深呼吸をした。
「……そう、最初に会った時に、姿は全然にてないのにセティっぽいなって思ったんだよ。そういう事だったんだ? ミナトも意地が悪いよ……」
「いえ、私はお会いできて嬉しいです。当時よりも数段平和な世でティリスティア様と……いえ、ティアと再会できた事を心から嬉しく思います」
ジュディアは、ティリスティアに協力していた聖騎士だった。
しかし剣聖としてのスキルに目覚め、ここまでの実力を得たのはティリスティアの没後である。
「前よりは平和な世界だとしても……私は……」
「分かってます。だからこそ、この場、この時、貴女と戦うのが私で良かったと……心からそう思っているのです」
そう呟き、ジュディアはヴェッセル、ディーヴァを抜く。
「それはヴェッセル……? セティまで……そっか、私の知らない間に随分強くなったみたいだね」
「それは私の実力を見てから言って頂きたい」
ティアの表情が真剣な物へと変わっていく。
「私のやるべき事は一つ。ミナト、そしてセティ、どちらが相手だろうと全力でぶつかるだけよ」
「望むところです! 我々過去の亡霊は亡霊らしく一時の夢に興じましょう! 我が名は剣聖ジュディア・G・フォルセティ! いざ尋常に……!」
きっとこの会話を聞いている観客たちはまったく状況が飲み込めないでいるだろう。
実況の男も「ゆ、勇者!? 剣聖!? 何が起きてるんだァぁァっ!?」と困惑している。
チラリと視界に入ったエクスでさえ、身を乗り出してこの戦いを食い入るように見つめていた。
まず第一撃目はジュディア。ディーヴァに魔力を込め素早い一閃。ティアはなんなくそれをかわすが、ジュディアの剣は振り抜く際魔力を放出しその刀身を二倍程に伸ばしていた。
「うわっ!」
ティアはなんとか反応し、かわすものの髪の毛が一束切り落とされて風に舞う。
「……セティ、貴女本当に……いいわ、楽しくなってきちゃった!」
「そうだ、貴女はそうやって楽しそうに戦っている時が一番美しい! もっと私に、貴女の美しい姿を見せてくれ!」
「あはは、照れちゃうわね♪ でも、その言葉後悔させてあげるっ!」
ダンテヴィエルを豪快に振り下ろすティア。
そのバカでかい刀身を細身のディーヴァで華麗に受け流すジュディア。
しかし、ティアの本命は剣撃ではなく、受け流しに集中していたジュディアに思い切り頭突きをかます事だった。
「ぐはぁっ! な、なんとはしたない戦い方を……!」
「でもこれが私なの。貴女はよく知ってるでしょう!?」
今度は突然ダンテヴィエルを投擲してきた。
それをかわした所にドロップキックが飛んでくる。
ジュディアはそれも読んでティアの下を潜り抜ける形で転がり、すぐさま落下地点のティアへ追撃を……するつもりだったのだが、振り向いたジュディアの眼前には既にティアの足の裏が迫っていた。
かわし切れず顔半分ほどがドロップキックの餌食になる。
横回転をかけられ激しく舞台の上を転がった。
「甘い甘いっ! なんの為にダンテヴィエルを投げたと思ってるの?」
どうやらティアは先に投げたダンテヴィエルが地面に突き刺さっていたところへ飛び、その剣をバネにして逆方向、つまり初撃をかわしたジュディアの方へ再び飛び掛かっていたのだ。
「貴女という人は……相変わらず、戦い方が……雑すぎる!」
「それで強いんだからいいでしょ!? 騎士なんてやって頭の固い剣技ばっかりだからセティはいつまでも私に勝てなかったのよ!」
「私は当時の私ではない……!」
「だったらそれを見せてごらん。もっと私を楽しませてよ!」
ジュディアが本格的にやる気になり、ディーヴァを構えた。
聖剣技を繰り出す準備だ。
ここからは、本当に文字通りの死闘となるだろう。
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