第137話:男として。
『君はこういうのもう見慣れてるでしょう?』
見慣れてるのとなんとも思わないのとは違うって。
「ごしゅじーん♪ 今回は私連れてきてよかったでしょう?」
もうアルマは引っ込んだのか、ネコがニヤニヤしながら俺の方に頭を突き出してくる。
「ん、あぁ……そうだな。助かったよ」
更にネコが頭を俺の腕に押し付けてくる。
『早く撫でてあげなさいよ。待ってるじゃない』
あぁ、そういう事か。
まるでほんとのネコだな……なんて思いながら頭をわしゃわしゃ撫でてやると、気持ちよさそうにだらしない顔をしながらご満悦だった。
「まぱまぱ、あたしもーっ!」
イリスが同じように俺に頭を押し付けてくる。
君はもうそんな歳じゃないでしょうよ。
『自分の娘に何てこと言うの! 親に甘えたい子の気持ちをなんだと……』
いやいや、そういうんじゃないって。俺だって甘えられるのは嬉しいんだが人前だから恥ずかしいというか……。
『分かってるわよ。とにかく撫でてあげなさい』
「おお、よくわからんがよしよし」
「えへへー♪ にゃんにゃんと一緒♪」
俺に甘えたいんじゃなくてネコと一緒がよかったとかじゃないだろうな……。
「ハッ!? く、クイーンはどうなりましたの!? 今血がぶしゃーって、ぶしゃーって!!」
「大丈夫だよ。俺がちょっとやりすぎちまったのをアルマが治してくれたから。すぐ目を覚ますさ」
「そ、そうですのね……死んでしまったかと思って頭が真っ白になってしまいましたわ……」
ぽんぽこは少し俯きながら自分の身を抱き、プルプルと震えていた。余程怖かったんだろう。
「嫌なところ見せて悪かったな」
「……いえ、クイーンが無理を言ったのでしょう? ミナト様が自分からそんな事する人じゃないのは分っておりますわ」
……随分俺への評価が高くなったじゃないか。
あまり信頼され過ぎるのも目が曇る要因になるから好ましくはないんだが。
『馬鹿ねぇ……ほんと馬鹿。そういう事じゃないでしょうが』
じゃあどういう事だよ。
『ミナト君には分からないわよ。でも絶対にぽんぽこちゃんに今の事言っちゃダメよ?』
? なんで?
『絶対に悲しむから。そして私がミナト君の事ものすごーく見下す事になるからよ』
……そりゃおっかねぇや。やめとくよ。
俺達は倒れたままのクイーンを彼女の自室まで運び、ベッドに寝かせた。
血だらけだったのは引力魔法でクイーンやぽんぽこ、そして部屋に飛び散った血液をぎゅっと集めて固めて水晶みたいにしといたので大丈夫だろう。血で出来たインテリアなんて趣味が悪いので捨てて貰って構わないが。
「ん……わ、私はいったい……そうだ! 私は……」
「良かった。目が覚めましたのね! ミナト様とユイシス様に感謝なさい。きちんと治して下さったんですから」
目を覚ましたクイーンはぽんぽこの説明を受け、何が起きたのかをある程度理解したようだ。
「……なんというか、その……すまない。実力の差は痛いほどわかっていたのだが……だからこそムキになってしまった。そちらからしたら手加減するのが大変だっただろう」
「それは認めて貰えたって受け取っていいのか?」
「無論だ。……あの腕は、やはりそういう事なのだろう? アレが発現した途端ミナト殿の禍々しさが跳ね上がったのを感じた」
『禍々しいとか……しゅん』
「その禍々しいってのやめてやってくれ。イルヴァリースが凹んでる」
「そ、それは失礼した! しかしこれですっきりしたよ。私はもう疑わない。私を治してくれたというそちらの……アルマ殿も」
「私はユイシスですよぅ♪」
治したのはおめーじゃなくてアルマだろうがよ。
「一つだけ聞かせてほしい。ミナト殿もユイシス殿も、姫にとって仇名す存在ではないのだな?」
ベッドから上半身を起こし、クイーンが真面目な顔で見上げてくる。
「さぁな」
「……さぁ、とは」
「クイーン、ミナト様は基本素直ではありませんので言葉通りに受け取ってはいけませんわ」
『よく分かってるじゃないこの子。ミナト君、リリア帝国の王様になる気無い?』
馬鹿言うんじゃねぇよ! いきなり爆弾発言ぶっ込んで来るな!
「だとしても、この質問だけは真面目に答えて頂きたい。これだけ聞かせて貰えれば、私が納得する答えならば協力は惜しまない」
「……はぁ。さっきも言っただろ? さぁ、だよ。少なくとも俺はぽんぽこ……姫さんが獣人と分け隔ての無い国を作ろう、って頑張るなら協力はする。それが見せかけだけの物ならば敵に回る事もあるだろう」
『それもう敵じゃないって言ってるじゃないの……ほんとに君って人は……』
「ははっ、なるほど。姫が信頼するはずだ。確かにミナト殿はあまり素直ではなさそうだが、嘘をつく人ではないようだな」
『それはちょっと違うわよね? 嘘つきまくりだもの。主に性癖とか欲望とかについて』
うるせぇマジで黙ってて今大事なとこだからっ!
クイーンが「よっ」と勢いを付けてベッドから立ち上がり、自分の身体をあちこち確かめていく。
「ふむ……見事だ。完全に元通りになっているな……服以外は」
はじけ飛んだ部分の服はさすがに元に戻せなかったので適当な布を巻きつけて隠している。隠してないといろいろ見えちゃうから。
なのに、クイーンはパッとその布を解いてしまう。
「な、なな何をしてますのっ!?」
「姫? どうかしたか? 傷口がどうなっているのか確認したかったのだ。痕も一切残っていないとはなかなか……」
「それはいいから早くそのでかいのをしまって下さいましっ!!」
「何を慌てているというのか。ここには女性しか居ないのだからこれくらい構わないだろう?」
『だってさ』
俺に振るな。頼むから誰も今俺に話を振るな。何事もないままこの状況を終わらせてくれ。
『いい物見れたって思ってる癖に』
……それを思わない奴は男じゃねぇ。
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