第96話:別れの館。
……なん、だって?
『だからカオスリーヴァはイリスの父親だって言ってるのよ。何度も言わせないで』
カオスリーヴァの事を語るママドラは珍しくイライラしていた。
ゲオルに対するイラつきとは完全に別種の、自分でもどんな感情なのか分かっていなくてそれに対してもイライラしているようなそんな感じ。
それにしても……イリスの父親、か……。
イリスの父親は自分だと思っていた。勿論俺とイリスは血が繋がっていないのだから本当の父親ではないし、どこかにはちゃんとした父親がいるんだろうという事は分っていたのだが……。
それでも実際に事実を聞いてしまうととても複雑な気持ちだ。イリスは俺の娘だけれど、俺の娘じゃない……。
『ごめんなさい。余計な事を言ったわ』
いや、事実なんだったらしょうがないだろ。
『でもこれだけは言わせて。今君は私なのよ? そして私は君なの。だから、イリスは私達の子よ』
……なんだ? もしかして慰めてるのか?
『……』
大丈夫だよ。イリスに本当の父親がいるのは分かり切ってたし、それがまだ存命かどうかは知らなかったけどさ。まぁそれは良いんだ。
ママドラがイリスを一人で育ててた時点で訳アリなのも分ってた。
だったらそのカオスリーヴァって奴は、どんな理由があるのかは知らねぇけどいい父親ではないって事だ。
『……そう、ね』
それに、イリスが誰の血を引いていようと俺は娘だと思ってるし、イリスが俺の事を親だと思ってくれてればそれでいいさ。
『そうね。あの子に外の世界の生き方を教えたのは君だもの。私よりよっぽど親してるわ』
そいつはどうも。
……さて、俺がごちゃごちゃ考えてる間にもあっちはなかなか大変な事になっちまってるみたいだな。
ゲオルがアリアを守ってくれてるから彼女も本気で戦えている。
ゲオルは完全にタンクタイプだろう。自分を盾にして味方を守る。
そのおかげでアリアは攻撃に集中できるわけだが……このタンクの難点は本人が意気揚々と殴りかかりに行ってしまう事だ。
「あぁ本当に鬱陶しい……これならどうです?」
ギャルンがまるで忍法でもするかのように片手を胸の前に置いて印を結ぶ。
すると、ゲオルの周囲の空間に小さな亀裂が沢山入り、その亀裂からランダムに三か所ほど鋭い棘が伸びゲオルを襲った。
それらは真っ赤で、ゲオルの身体に当たるとその場で霧散しすぐ違う亀裂三か所ほどから同じように棘が襲い掛かる。
「いでっ、テメェなんだコレはいでっ! 回りくどい事しやがって……頭来たぶん殴ってやるからこっち来やがれ!」
「見えない場所からの不意打ちも効きませんか……やはりその防御力はそういう能力、ではなく貴方が純粋に馬鹿らしいほどに硬質なだけのようですね」
視界に入らない場所からの攻撃でそれを確かめたかったらしい。
「だったらなんだテメェ!」
「ここから退場して頂きましょう」
『ミナト君! アレはまずいわ!』
ママドラからの警告と同時に、再びギャルンが印を結ぶと、再び空間に亀裂が入る。いや、亀裂というよりも小さな渦のような物が現れた。
おい、ここの空間に結界張ったんじゃなかったのかよ!
『しょうがないでしょ!? 相手がカオスリーヴァの分身だなんて思わないもの!』
要するにママドラの結界じゃ役に立たねぇって事かよ!
『そんな言い方しなくたっていいじゃない! 私だってこんなの専門外なんだもん!』
だもんって歳か。
『お゛ぉん!?』
っと、今はそんな事言いあってる場合じゃねぇだろうが。早くなんとかしねぇとゲオルが……。
「なんだこれっ!? うぉ、うあーっ!?」
『……手遅れだったみたい』
だったみたい、じゃねぇだろオイどうするんだよ。
『空間を操る術には空間魔法でしょ♪』
あぁ、なるほどね。もう一度アイツ呼び出せばいいって事か。それで何とかなるのか?
『……今より、マシ。的な?』
おいおい……。
でも現状それしか手が無いか。
イリスは相変わらずギャルンを眺めてぼーっとしてるし、俺がやるしかない。
「ゲオル殿をどうしたーっ!?」
アリアがマッスルコンバージョンを重ねがけして剣撃を繰り出す。
「おいやめろ! お前まで飛ばされるぞ!」
「……もう遅いですよ」
ギャルンがこちらをちらりと見ながら笑う。仮面のくせに笑ったような気がした。
「ひっ、ミナトど……」
目の前でアリアがにゅるっと渦に吸い込まれてしまった。
ゲオルなら妙な異空間に放り出されても大丈夫かもしれないが、アリアは普通の人間だぞ……?
「おい、アリアをどこへやった」
「……ふふ、私の術に取り込まれてまだ生きているとでも?」
「……あぁ、そうかよ……お前は殺すわ。イリス! やる気がないなら下がってろ」
少し語気が荒くなってしまったが今回は許してほしい。イリスまで巻き込まれてしまったら俺はもうどうにかなってしまう。
それにこいつはここから自由に出入りできるであろう事が確定してしまった。
なら逃げられる前に殺さなければ。
イリスは表情を変えず、首を軽く傾げてから後ろへ下がる。
「イリス……? この気配、まさか……イシュタリスですか?」
「ああ、【俺の娘】のイシュタリスだよ」
「俺の娘……? なるほどなるほど、ふはは、これは驚きだ。以前新たな魔王様が貴女に敗れた時、不思議でしょうがなかったんですよ。なぜ人間如きに、とね」
ギャルンはさも愉快そうに仮面に手を当てて身を震わせる。
「しかしそれならば説明がつく。ついてしまう。いやはや私ともあろう者があの時気付く事が出来なかったとは……」
「つべこべ言ってねぇで早くやろうぜ」
「あぁ愉快だ……なぁ、お前もそう思うだろう? 笑えよイルヴァリース」
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