第89話:夢の館。


「まぱまぱ、かむろちゃんはどこに居ると思う?」

「問題はそれなんだよな。神出鬼没だけど会おうと思ってすぐ会えるかどうか……」


 でもその辺の対策は一応考えてある。


「まずはいろいろうろついてみようぜ」


 一歩踏み出すと、イリスが腕にぎゅっとしがみ付いてきた。


「どした?」

「えへへ~♪ まぱまぱとこうやって二人で行動するの久しぶりだなって思って」

「可愛い奴め」


 今日も俺の娘は可愛い。頭を撫でまわしてやろう。


「くすぐったい~っ」


 わしゃわしゃやっていると、髪の毛の中に埋もれた角が指にあたる。

 以前よりも大きくなってきている……。


『ドラゴンとして成長してるって事よ』

 イリスもやっぱりドラゴンなんだもんなぁ。


『今はある意味君もそうだけどね』

 なんのこっちゃ。


『自分の身体の変化もよく分かってないの? 定期的にステータス見る癖付けた方がいいわよ?』


 ステータス、か……。


 レベル:64

 種族:ドラゴニア

 職業:リベンジャー

 通常スキル:剣技レベル6

 上位スキル:隠蔽工作

 特殊スキル:復讐


 レベルはそのままか。

 ……ん、種族って確か不明じゃなかったか?


『君はもうほぼドラゴンって事ね♪』


 人間から不明になって最終的には竜人間か……。

 これって俺の肉体的の方に種族補正入ってるのかな?


『当然よ。普通の人間に殴られたくらいなら痛くもかゆくも無いと思うわ。それどころか多少の刃物なら皮膚を通らないんじゃない?』

 マジかよ……。


「ままと話してるの?」

「ん、あぁすまん。イリスも成長したなぁって話してたんだよ」

「なにそれ~♪ あたしは大きくなってもずっとまぱまぱの娘だよ☆」


 あぁ、マジでかわいいな俺の娘は。

『私達の娘よ♪』


 ……おい、爛れた関係に聞こえるからやめてくれ。

『あらあら、ざーんねーん。私これでも君の事結構認めてるんだからね♪』


 はいはい。じゃあ一緒に子育てがんばろうや。


「まぱまぱ、あっち見てみようよ♪」

「おい、一人で行くんじゃない」


 こちらに手を振りながら廊下を走っていくイリスを追いかけていると……。


「ねぇ、ここって……」

「ああ、ここが厨房か」


 ここに俺達が食っていた食事の秘密があるかもしれない。

 厨房へと足を一歩踏み込んだ所で……。


「厨房は女人禁制よ! 無断で入る不届き者死ぬよろし!」


 ごいんっ!!


「いでぇっ!!」

 なんだ? 何が起きた!? とつぜん脳天かち割られたような痛みが……っ!


「な、なんで死なないねっ!」


 チカチカする視界の中、小太りの小さいおっさんが見えた気がする。


「まぱまぱ虐めたらめーっ!」

「ぎゃあーっ!? 離すよろし! 離すよろし! 虐待禁止よーっ!」


 頭を振って意識を回復させる。


「ぶっころ」


「ま、待てイリス! 早まるな!」

「……わかった」


 イリスが今にも手刀をおっさんの腹にぶっ刺しそうだったのをなんとか止める。


「まぱまぱに感謝してね」

 彼女はそう呟いておっさんをぽいっとその辺に放り投げた。


「し、死ぬかとおもたよ……!」


 よく見るとそいつの身長は俺の腰くらいまでしかなく、ドワーフとかそういう類の小さい種族のようだった。


「おいおっさん、よくもやってくれたな……」

「ひぃっ! 厨房に、入ったら、ダメある!」


 ……まぁ、それもそうか。


「確かに勝手に入った俺も悪かったよ。すまん」

「わ、わわ分かればいいあるよ! じゃ、そういう訳で……」

「おい逃げんな。人の頭かち割ろうとしといてそれで済むわけねぇだろ」


 男の手にはバカでかい肉切り包丁が握られていた。アレで俺の頭をざっくりやろうとしたらしい。

 完全に殺す気満々じゃねぇか……。

 俺がドラゴニアじゃなければ死んでたかもしれんぞほんとに……。


『噂をすればなんとやら、って事かしらね♪』

 出来ればもうちょっと違う状況で実感したかったけどな……。


「で、おっさんはここで調理担当してんのか? 俺達は毎日何を食わされてたんだ?」


「い、言えないある!」

「まぱまぱ、ぶっ殺そうよ」

「夢の種よ!」


 あっさり白状するあたり好感が持てる。


「その夢の種ってのはなんだ?」

「言えないある!」

「やっぱりころ……」

「人の思考を読み取って自由に変化する食材ね!」


 ちょっと面白くなってきた。

 しかしそんな食材がこの世に存在するとは思えないのだが……。


「それは食っても問題ない物なのか?」

「勿論よ! 夢の種はそのままだと食用にはむかないね。私が責任もってしっかり下処理をして食卓へ送り出してるね!」


 おっさんは小さい身体で腰に手を当てふんぞり返る。

 料理人としてのプライドみたいなのはあるらしいけれど、実際出てくる料理が俺達のイメージで出来てるんだとしたらこいつは下処理くらいしかしてないって事にならないか……?

 まぁ小さいおっさんのプライドを傷つけないように突っ込まないでおいてやろう。


「よく分からんがその夢の種ってのは何処から仕入れてる?」

「それは……この屋敷で生産されてるね……」


 ほう、やっぱりここにはもっと深い秘密がありそうだな……。


「おっさん、脅すような真似して悪かったな。かむろがどこにいるか知ってたら教えてくれ」


「かむろ様は……ごめんある。それをいう訳にはいかないよ……」


「じゃあもう死んでいいよ」

「イリス、いいから行くぞ」


 イリスは殺そうって一度決めちゃうともう遠慮とかが無くなるからしっかり見てなきゃならない。

 まだまだ子供の精神なんだよなぁ。危ういったらありゃしないぜ。


「いいの? どこにいるか聞かないと」

「うーん、とりあえず俺達で出来る事は試してみようぜ」


 やっぱりかむろを呼び出すならあそこへ行ってみようか。

 勿論トイレに行ってからだ。必ずな。

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