第38話:あーあ、言っちゃった。


「うにゃぁ、なんだかまたごしゅじんの様子がおかしいですぅ……」

「まぱまぱー、よしよし」


『ほら女性陣が慰めてくれてるんだからそろそろ元気出しなさいよ』


 はぁ……自己嫌悪が半端ない。複数の記憶を頭に流し込む事がいけないのか、それともあの科学者がヤバいのか分からないけど私が私じゃなくなってる時の感覚が残っていてつらい。


『確かにアレは私も苦手だけどさ、ほらちゃんとゴリーブ倒せたんだし良かったでしょう?』


 まぁそれはそうなんだけどね。自分の言動っていうか、さっきまでの事を考えるともう恥ずかしすぎて顔が真っ赤になっちゃうのよ。


『うん……アレは結構に特殊なタイプの人だもの気にしなくていいと思うわ。早く忘れちゃうなり慣れるなりしないと今後きついわよ?』


 ……はぁ、分かったわよ。


「じゃあ二人とも、依頼は達成したって事で、オリオンに報告しに行きましょうか」


 採掘所に来る時は一人だけだったけれど、帰りは三人一緒でちょっと嬉しい。

 きっと来る時もママドラは後ろの二人に気付いてたんだろうけれど。


 帰り道は平和なものだった。特に魔物に襲われるような事もなく小一時間も歩けばデルドロまで帰って来る事が出来た。

 帰るなりネコがデルドロ焼きが食べたいと騒ぐのでオリオンの館へ寄る前にデルドロ焼きを人数分購入し、腹をある程度膨らませてから報告へ。


「……随分帰りが早いが経過報告に戻ったという事だろうか?」


「冗談でしょう? もうきっちり全部ぶち殺して来たから安心しなさいよ」


 オリオンは私の言葉に驚いていたが、どちらかというとその結果よりも気になる事があるみたい。


「そ、そうか……その仕事の速さには脱帽なのだが……それよりも、君はミナト君……でいいのだろうか?」


「勿論ミナト・アオイよ? 気になってるのは髪の色? それとも性別?」


 普通さっきまで話してた男が急に金髪の女の子になってたら不思議に思うわよね。


「うむ……その全部、と言いたいところなのだが、まぁ強いて言うのならば性別であろうな」


「詳しく話すつもりは無いけれど、私は特殊な体質で力を使うとこうなっちゃうのよ。どっちも私だから特に気にする必要は無いわ」


 オリオンは納得は出来ていない様子だったけれど、「う、うむ……そうか」とそれ以上は聞かないでいてくれた。


「では本題に戻るのだが、採掘所の魔物を全て始末したというのは本当だろうか?」


「そうね、かなりキツい毒撒き散らしておいたから卵があったとしても死んでると思うわ。女王も始末したからこれ以上増える事も無いし」

「待ってくれ、毒だと!? それでは採掘所が汚染されてしまったのでは……」

「その心配はないわ。時間が経てば空気に溶けて拡散しちゃうタイプの毒物だから。一日も置いとけばもう無害よ」


「そ、そうか。それならいいのだが……繰り返し聞くが本当に大丈夫なんだな?」

「勿論。なんだったら明日一緒に確認しに行ってもいいわよ?」


「……そう、だな。再び鉱夫を雇うにせよ安全は確認しておかなければ。では明日お願い出来るだろうか?」

「ええ、勿論。アドルフ達の情報は今でも明日でも構わないわ」


 オリオンは少し悩んでから、「いや、依頼は既に完了しているようだしこちらも約束は守ろう」と目を瞑り頷いた。


「勇者一行はこの後ルイヴァルの遺跡に行くと言っていた」


 ルイヴァルの遺跡……?


「デルドロから南東の方角へ馬車で半日ほどの場所にある遺跡で、王都に管理されていて誰も近付くことが出来ない場所だよ」

「……なんでそんな場所に?」

「確か噂では特殊なヴェッセルが眠っている場所だとかなんとか……」


 あいつらはそれを目当てに遺跡へ向かったって事かしら? でも立ち入りが出来ない場所になんて……。


『君は馬鹿かい? 相手は勇者ご一行なのよ?』

 あぁ、そうか……勇者ってだけでそんな場所にも出入り自由ってわけか。


「しかし王都は今まで勇者にルイヴァルの遺跡への立ち入りを許可した事は一度も無い筈なのだが……何か特別な理由でもあるのだろうか?」

「……へ? 今までの勇者は誰も許可されていない場所なの?」

「うむ。私の知る限りでは、だがね」


 ……だそうよ?

『知らないわよ。勇者でも入れない場所なんてある物なのね』


 ママドラはただ長生きしてるだけで世間の事に詳しい訳じゃないものね。

『私がババァみたいに言わないでちょうだい!』

 誰もそんな事言ってないわよ。


 年齢の事を言われて気にするのは大体歳を気にしてる人だけよ。

『それは私が自分の事をババァだと思ってるって言いたいのかしら!?』

 だから私はそんな事言ってないわよ。気にしなければいいのにいちいち反応しちゃうからドツボにハマるんじゃない?

『キーっ!!』


「ミナト君?」

「えっ、な、何??」

「いや、なにやら先程から表情がころころ変わっていたので何かあったのかと」


「まぱまぱはパパでママだからっ!」

「……??」

「イリスちゃん、オリオンさんが困惑してますよぉ。あのですね、ミナトさんは自分の頭の中にイリスちゃんのママを飼ってるんですよ」


『飼ってるとは何よこの馬鹿ネコ!!』

 いつもはネコに対して甘いのに……初めて馬鹿ネコ呼ばわりしたわね。

『言っていい事と悪い事があるのよーっ!』


「頭の中に……ママ……??」


「ネコ、飼ってるって言い方にめっちゃ怒ってるから謝っておいた方がいいわよ」

「うにゅ? そうなんですかぁ?」


 ネコは実際どういうふうに認識しているのか、私の顔を不思議そうに見つめた。


「ごめんなさいっ!」

 ぺこりと大げさに礼をするネコを見てママドラは『可愛いから許しちゃう♪』とか甘々だった。


「許してくれるってさ。良かったわね」


 この一連の流れをオリオンが眉間に指をあてて必死に整理しようとしている。


「あー、ほんと気にしないで。こっちにもいろいろ事情があるのよ」

「う、うむ……そういう所が普通の冒険者では無い所以なのであろうな……」


「ごめんね? いろいろ訳アリだから聞かないでくれると助かるかな」


 私の言葉にオリオンはふっと表情を柔らかくして笑った。


「不思議な人達だ……ノインが私に勧めるはずだよ。実に面白い。今夜は食事を用意させてもらうからゆっくりと休むといい」


「やったーっ♪ ごはんですよごはんっ! お腹いっぱい食べますよーっ!」

「ネコは少し加減して食べなさい」

「いやいや、是非ともお腹いっぱいになるまで食べて行ってくれたまえ」

「ごしゅじん聞きました!? 今の聞きましたかっ!? お腹いっぱい食べていいらしいですよーっ!!」


 あぁ……きっとこの後オリオンは自分の発言を後悔する事になるんだろうな。

 ご愁傷さまです。

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