第37話:汚物は消毒ダァーッ!


「ぎにゃーっ!! 大きくて黒光りしてて気持ち悪いーっ!!」


「すごーい! おっきーい!」


 毛を逆立てて大騒ぎしているネコとは真逆にイリスはきゃっきゃと大喜びだった。


 巨大なゴリーブを見てもそんな反応が出来るなんてこの子はやっぱり大物になりそうね。


「二人とも下がっててね。私がちゃっちゃとやっつけちゃうから」


 二人を下がらせて巨大ゴリーブと向き合う。

 まだ苦しんでいるらしくゴロゴロと転がっているけれど多分このまま死んでくれはしないだろう。


 さて、どうしようかなぁ……今の私じゃこいつにトドメさすのは難しい気がする。何かないかな?


『そうね……じゃあ一度今の二人を引っ込めて違うので行きましょうか』

 そうね。その方がいいかも……出来れば破壊力あるやつでお願いね♪

『はいはい任せておいて♪』


 ちょっと悩んでママドラが私に与えた記憶は……。


『どう? 今までと系統が違って面白いでしょ?』

 確かにこれは新しいタイプね。


 魔法ではなく異能という力を振るう事が出来るサイキック少女の記憶。


 でもあまりいろんな種類の攻撃が出来るタイプじゃないみたい。


「ぐぅおぉぉ……ジジジッ!!」


『ほらほら、ゴリーブも大分弱ってるみたいだけど、私達の仕業だって気付いたみたいよ』


 巨大なゴリーブがよろよろしながらもこちらにその気色悪い腕を振り下ろした。


 私は足の裏の摩擦をゼロにする事で地面を滑るように後方へかわす。


「……さて、どうしてやろうかしら」


「シャーッ!!」

「うわっ!」


 私を追いかけるようにゴリーブが物凄い速さで走り寄る。

 慌てて地面を蹴り、横へ飛ぶと、そのままゴリーブは周辺に生えている木に突っ込んで何本か薙ぎ倒していく。


「うわぁ……やっぱりでっかくてもゴキブリは素早いわねぇ……」


「ごしゅじーんがんばれーっ!」

「まぱまぱがんばってーっ♪」


 うちの女性陣から応援されちゃったら頑張らないとね。


 今の私が使える能力は摩擦を操る事、炎の剣を作って切りかかる事、後は電撃を放つ事か……。


 直接剣で切りかかるのはダメ。あんなのに肉弾戦挑みたくないし気持ち悪いからヤダ。


 そうなると電撃で攻撃する……あっ。


『どうかしたの?』

 良い事思いついちゃった!


 電撃使いなら一度はやってみたい事がある。

 この記憶の持ち主はやった事が無いみたいだけど、きっと大丈夫!


 私はその辺の石の中から出来る限り強度の高そうな鉱石を拾い上げ、電撃の準備をする。


『何をするのかしら?』

 いいから見てて。きっと面白い物が見れるわ。


 私はそれをポイっと空中に放り投げ、落ちてくるタイミングに合わせて能力を解放。


「いっけーっ! レールガン!!」


 ごろん。


 ……鉱石が足元に落ちた。


『……えっと?』


「こ、これは何かの間違いよっ! おかしい、多分これであってるはずなんだけどっ!!」


 突進してくるゴリーブをかわしながら考える。

 何が足りない?

 適当に電撃纏わせてぶっ放すんじゃだめなの?


 ママドラ! もう一回あの科学者呼んでっ!!


『えぇ……? 別にいいけど……』


 私の中に再びあの科学者の記憶が……ってなるほど!


「イヒヒヒッ! こんな簡単な事にも気が付かないとは愚か愚か愚かァァァァッ!!」


 電撃を操る能力、素晴らしい!

 これが出来るのならばレールガンの構造を再現する事は可能!


「問題なのは……弾丸の質だよォォ!」


 金属の成分を含んだ弾丸を用意しなければならない。

 だとしたら、この中の鉱物から探すのも手ではあるがパッと見ではそれを判断する事が出来ぬ。

 ならば、一番身近な物を使うのが……。


 ボクは硬貨を取り出そうと腰に付けた小型のバッグに手を突っ込む。


「なんだァこれはァっ!! 全部札じゃないかね!!」


 そうだったこの世界では硬貨は存在しないんだった忘れていたよ。


「落ち着け、取り乱すなんて私らしくも無い」


 それならばこの鉱物の中から探し出せばいいだけの事。


「おあつらえ向きに電撃を操る事が出来るのであれば磁力を発生させて引き寄せればいいだけの事だよヒヒヒッ!!」


『……君、ちょっと怖いよ……独り言多いし』



 黙れ。ドラゴンなどという非科学的な存在に文句を言われても何も響かないよ。ボクの考えはボクにしか理解出来ないしボクだけが分かっていればいいんだ!


『あ……うん』


 地面に転がっている石へ向けて磁力を放つ。


 うわわっ!! そうか、こういう可能性も考えるべきだった!


 鉱物を探そうと磁力を放ったら金属の成分を含んだ砂が大量に吸い寄せられてしまった。


「しかぁぁぁし! ボクは失敗を成功に変える女ッ! この砂で石を包み込んだら立派な弾丸の完成ダァッ!!」


『私こいつ苦手かも……』

「うるさいぞメスドラァっ!! 黙って見ていろ!!」


 金属成分を大量に含んだ砂で石をコーティングし、それを弾丸として再び……!


「ヒーッヒヒヒッ! 食らいやがれクサれゴキブリ野郎ッ! レールガン!!」


 こちらへ向けて突進してきたゴリーブの頭部に、轟音を響かせる弾丸が目に見えぬ速さで放出され、一瞬で身体の三分の二が消し飛んだ。


 しばらくの間ジタバタと残った部分の足がもがいていたが、やがてそれも力を無くし動かなくなる。


「ケッ、下等生物如きがボクに歯向かうからそうなるんだ。汚物は消毒ダァーッ! イーッヒヒッ」


『あの、そろそろお帰り下さい……』





――――――――――――――――――――――――――


もはや準レギュラーと化した科学者さんのおでましでした。

ミナト君がやろうとしたのは勿論記憶の中で見た事のあるどこかのビリビリさんの影響です(笑)

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