第24話:真・娘が出来ました。
「にゃー見て下さいごしゅじんすっごく大きなお屋敷ですよーっ♪」
「おっきーい!」
女子達は元気でいいなぁ。俺はいったい何の話をされるのかと気になってしょうがないってのに……。
「オニーサン、心配いらないヨ。ノインさんいい人ネ。それに、きっといい話ヨ」
おっちゃんは話の内容をある程度知ってるっぽいな。
信じていいんだろうか……?
おっちゃんは馬車でそのまま屋敷の敷地内まで乗り上げる。
どうやら外でメイドさんが馬車を誘導してくれていたらしい。
俺達が馬車から降りると、メイドの一人がぺこりと一礼して「こちらへどうぞ」と俺達を屋敷の中へ案内してくれた。
室内も豪華な装飾が施されており、昨夜のスラムが嘘のようだ。とても同じ街とは思えない。
部屋へ通され、応接間に入ると、広い部屋の中に大きなテーブル、そしてその上には様々な料理が用意されていた。
「うにゃ~っ! ご飯です! ご飯ですよごしゅじんっ!」
「黙れ馬鹿ネコ」
「まぱまぱー、すごいご飯だねー!」
「そうだね、とても美味しそうだ」
「だから私と反応違いすぎませんか!?」
そんな俺達の様子を見て、既に上座に着席していたノインが「はっはっは!」と豪快に笑った。
「いや、すまんあまりにも君達が楽しそうでこちらもつられてしまったよ」
「……それで、話っていうのは?」
ノインは顔の前で指を組みながら真面目な顔になり、「まぁ座りたまえ」と着席を促す。
メイドの指示に従いそれぞれ着席すると、馬鹿ネコとイリスは美味しそうな食事を前に我慢できなくなったのか、分かりやすくそわそわしていた。
「遠慮しなくていい。好きなだけ食べてくれ」
「いっただっきまーっす!!」
「いただきまーす♪」
二人は本当に遠慮など全くせずにもふもふと目の前の料理に食いつき出した。
商人のおっちゃんはニコニコしながらお上品にスープなぞ飲みだした。
俺はこの状況で食事が喉を通る気がしなかったので飲み物を一口飲んで、本題に入る。
「気にしなくていいから話ってのを聞かせてくれないか?」
「……気付いているとは思うが、昨夜のギュータファミリー壊滅の件で君を呼ばせてもらった」
やっぱりそれか……。あの時真っ先に逃げだした男あたりから情報が漏れたんだろうか?
「どうやってそれを知った? 一応気を付けていたつもりなんだが」
「なぁに、簡単な事だよ」
そう言ってノインは笑い、パンパンと手を叩いた。
すると、ノインの背後にあるもう一つのドアが開き、中から……。
「先日は本当にありがとうございました」
見覚えのある女性が現れ深々とお辞儀をする。
「……そういう事か」
「ああ、実は私の娘達がさらわれ、身代金を要求されていたんだ。あいつらの仕業なのも分っていたが武力解決をするには戦力が足りなくてね。手を出せずにいたわけだが……そんな時君がやってくれたという訳だ。この街を代表して、そして……二人の父親として君に礼を言わせてほしい。この度は本当にありがとう」
ノインはその場に立ち上がり、娘と同じく深々と頭を下げた。
「やめてくれ。貴族連盟のシャンティア代表がこんな冒険者に頭なんて下げるもんじゃないぜ」
俺は元々素行が良い方ではないので人から感謝されるのはむず痒いというか慣れてないので困ってしまう。
「俺は知り合いが捕まってたから助けに行っただけだよ」
「だとしても、だよ。特に下の娘は本当に危ない状況だったと聞く。身体に憑りついていた病魔の退治までしてくれたというじゃないか」
「成り行きだ。……もし感謝の気持ちがあるというなら一つ聞きたい事がある。赤毛の冒険者と線の細い女冒険者の二人組を知らないか?」
……我ながら抽象的な言い方をしてしまった。これでは分かる物も分らないだろう。
もう少し詳しい情報を伝えようとした時、ノインが難しい顔をしながら口を開いた。
「その赤髪というのは……もしやアドルフとかいう男ではないだろうな?」
思わず今飲んだばかりの飲み物が逆流しそうになった。
「な、何か知ってるのか!?」
ノインは憤怒の表情で頷いた。
「……この街に訪れる冒険者に娘の事を依頼した事がある。スラムに関わる事なので大抵の冒険者は嫌がって断っていくのだが……そんな中唯一、一組だけ条件を提示してきた奴等がいた」
それがアドルフとエリアルだった……?
「奴等はなんて?」
ノインは怒りがぶり返したかのように眉間に皺をよせ、大きく深呼吸してから先を続ける。
「要求された身代金の半分と、助け出した娘を一人差し出せと」
「バカじゃねぇのか!?」
あの馬鹿、本当に腐りきってやがる。俺を殺しただけじゃ飽き足らず今度はそんなバカげた事までやってるのか……?
それとも前から依頼の安請け合いはしたくなかった? まさかそれで俺が邪魔だったのか??
確かに俺が受けた依頼にアドルフが下らない仕事だとブツブツ言っていたことがあったが……。
そんな事で俺を殺したのか?
『まだ続きがあるようだから聞いてあげなよ』
あ、あぁ……ちょっとヒートアップしすぎた。
「バカな、と私も思ったよ。故に断った。断腸の思いではあったが……仮に助けられた所で娘の身をこんな奴に差し出すのか、と考えたらとても首を縦に振る事は出来なかった」
ノインはチラリと娘の顔を見て、辛そうに言葉を吐き出す。
「私は、もう身代金を渡すしかないと思っていた。……突然娘が返ってきて昨夜の出来事の話を聞いた時は本当に驚いたよ。……改めて礼を言わせてくれ。出来る限りの事はさせてもらう。何なりと言ってくれ」
本当なら特に見返りなんて考えてもいなかったが、これはいいチャンスかもしれない。
「だったら頼みたい事が二つある」
ギュータファミリーのほとんどはギュータに騙され借金をし、チャラにする代わりに身体に爆発物を埋め込まれて従わされていた。
俺はそれを説明し、出来ればそいつらを許してやってほしいと頼んだ。
「しかし、事情があったとしても……いや、そうだな……ちょうどスラムにも手を入れたいと思っていたところだ。それならあちらの整備、改修についてはあちらの人々に協力してもらう事にするか」
それは奴等の希望があれば雇用すると言う事だ。
「しかし私達の言葉など聞いてくれるかどうか」
「それなら子連れアサシンに頼まれたって言ってやれ。多分それで通じるから」
「こ、子連れ……? う、うむ。分かった」
完全に【なんだそれ?】って顔に出てたが、追及はしてこなかった。
「もう一つは?」
「娘に、イリスに身分証を作ってほしい。身分やその他の情報は適当でも構わない」
「……なるほど、訳アリかね。それを詮索するのは無粋だろう。よし、そんな事でいいなら協力させてもらおう」
なんだかノインの中で俺がどういう人物像になってるのかとても気になったが、こちらも触れない方がいいだろう。
俺も余計な事を語る気は無いから誤解を大きくするだけだ。
「君の娘、でいいんだろう? 名前を教えてもらえるかい?」
「俺はミナト、この子はイシュタリスだ」
「良い名前だ。そうと決まれば早速取り掛かろう。今日一日は時間をもらうよ? その間この屋敷でゆっくりするといい。レイラ、彼等をよろしく頼む」
「分かりましたお父様」
どうやらこの娘の名前はレイラというらしい。
しかし……イリスの身分証が完成したら俺は名実共に子持ちになっちまうなぁ。
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