第15話:髑髏とハート、あと桜。
「オネーサン! もうすぐシャンティアが見えてくるネ!」
ママドラの力を使った弊害か、眠気が酷い。
ウェアウルフと戦ってから半日以上馬車に揺られていたから眠気が襲ってくるのも当然かもしれないが。
うとうとしているところにおっちゃんの声が聞こえて、目を開けると……。
「うわぁっ!」
めちゃくちゃ至近距離に馬鹿ネコの顔があった。
「な、なな……何してんだお前……」
びっくりしたびっくりした! キスされるかと思った。
「にゃ~? キスでもされるかと思いましたぁ~? 顔真っ赤ですよぉ」
馬鹿ネコはニヤニヤしながらそんな事を言いだすが実際そう思ってしまった。死にたい。
いや、もう死にたくはないけれど……。
『ミナト君は初々しいねぇ』
うっせー!
「で、お前は何やってたんだよ」
「実際ごしゅじんが男の子なのか女の子なのか確かめようかなって思って~♪」
「……確かめるって、どうやって……?」
「いろいろ方法はあると思いますけど、見た感じ胸はあるみたいなので後は……」
チラチラと俺の下半身の方に視線を向けている馬鹿ネコに目つぶし。
「ぎゃーす!!」
馬車の中でゴロゴロと転げまわりながら「目がぁぁっ! 目がぁぁーっ!!」と騒ぐユイシス。
「ひっ、酷いですぅぅ!! まだ何もしてないのにぃぃ!!」
「何かする気満々だったろお前」
「それはそうですけど怒るならしてからにして下さいよぉ……」
何かされてからじゃ遅いだろうが……。
「それに俺は男だ。訳あってさっきみたいに力を使うと身体が女になっちまうんだよ。そういう体質みたいなもんだとでも思ってくれ」
「はぁ……そうなんですねー」
目を真っ赤にしながら馬鹿ネコは起き上がり、思ったよりもあっさり俺の言葉を受け入れた。
「信じるのか?」
「……? じゃあごしゅじんは嘘ついてるんですか?」
「いや、嘘は言ってないけど……」
「だったらいいじゃないですか♪ 私はごしゅじんの事は信じてますよ? だって私の恩人ですし、なんだかんだ優しいですから♪」
「誰が優しいだって……?」
褒められるのは慣れてない。自分が優しいなんて思った事も無い。
記憶の中に、唯一同じような事を言ってくれた女の子が居たがもう会う事も無い。
勿論キキララの事じゃないからな。
「まぱまぱー、にゃんにゃん、見て見てーおっきな街が見えてきたよー♪」
「こらイリス、危ないから顔出すんじゃないよ」
危ないのでイリスの身体を後ろから掴み、落ちないように固定する。
外を見るのを辞めないので仕方なくしばらくそうしていると、やがて馬車のスピードが落ち、止まる。
外からおっちゃんの話声が聞こえたと思ったらそのまま門の中へ馬車ごと通る事が出来た。
商人としてシャンティアでそれなりに信頼があるのだろう。普通は荷物の検査とかがあるし、同行者がいるなら全員調べられるはずだ。
よくよく考えたら俺と馬鹿ネコはまぁいいとして、イリスはまずいな……。
何せ身分を証明する物が何もない。俺は冒険者として登録しているのでそれを示すカードを持っているし、馬鹿ネコだって神官ならばそれなりの身分証を持っているだろう。知らんけど。
しかしイリスはドラゴンの巣から連れ出したばっかりだからな……どこかの家からさらって来たとか言われてもいい訳できない。
場合によっては本当に俺の子供としての証明書を発行しなきゃいけないかもしれない。
「オネーサン達、ワタシはこのままちょっと行くところがあるヨ。街の東側にある野良猫亭という宿で合流ネ」
街に入り俺達を降ろすなり、おっちゃんはそう言ってどこかへ行ってしまった。
去り際に、「西ブロックには近付かない方がいいヨ。治安が悪いからネ」と言い残していった。
「ごしゅじん、これからどうするんです?」
「とりあえず……換金所を探そう。俺も手持ちを増やしたいし、馬鹿ネコの分を換金出来ればここでおさらばできるし」
「ちょっと待って下さいそんなに私の事置いて行きたいんですかぁ?」
ほっぺたをぷくーっと子供のように膨らませて馬鹿ネコが俺を睨んでいるが、童顔のせいか全く威圧感を感じられない。
「置いて行きたい」
「正直すぎて辛いですぅぅ……」
「私はにゃんにゃんの事好きだよー♪」
「イリスちゃんっ!」
どうやら俺が馬車で寝てしまった間ずっとイリスの相手をしていてくれたらしく、かなり仲良くなっていた。
子供から人気があるというのは本当なのかもしれない。
イリスに街の中を見せるついでに取引所を探しつつ練り歩く。
途中出店のダッコ焼きとかいうジャンクフードに目をきらめかせていたので、手持ちと相談しつつそれを買って一つを三人で分ける。
本当は二人で分けようと思ってたんだが馬鹿ネコの奴が涙目でよだれをたらしながら見てくるから仕方なく食わせてやった。本当にその辺のネコに餌あげてる気分だな……。
しかし味も見た目もまんまたこ焼きである。異世界でも似たような文化は生まれるものだなぁと感心した。
もしくは、俺と同じくこっちに転生した奴が微かに前世の記憶があって似たような物を作った、という可能性もあるか。
「ねーねーまぱまぱ、ちょっとあれ見たいな」
イリスの手を引いて歩いていると、アクセサリーの店が気になったらしく立ち止まる。
露店形式のアクセサリー屋で、主に細かい雑貨メインのようだ。
「これかあいい!」
イリスのお眼鏡にかなった商品は……と、
「……ふむ、髪留めか……これくらいの値段だったら買ってやるよ。でもほんとにこれでいいのか? あまり可愛く……」
「かあいいよ?」
「そうだねめっちゃ可愛いね!」
俺は即掌を返し、それを購入。その場でイリスの髪に付けてやった。
クリップタイプの髪留めで、二つセット。一つは髑髏マークが真ん中についており、もう一つはハートだった。
確かにその髑髏もよく見れば愛嬌があるかもしれない。
「にへへー♪ どう? にあう? にあう?」
「めっちゃ似合ってるし可愛いよ。マジで天使!」
「ごしゅじん、私もこれ欲しいんですけどー買ってくれたりしませんかぁ?」
「良い良い、今は気分がいいからお前にも買ってやろう。高いのは無理だぞ」
ただでさえ手持ちが少ないんだから千ジャイル以上の物は無理だ。
ユイシスが手に取ったのは千二百ジャイルという微妙な値段。生意気にもイリスに買ってあげたのと同じ値段だった。
「……もしかしたらこの街でお別れかもしれないんですからお願いしますよぅ」
……それもそうか。確かに取引所で換金が終わればこいつともお別れだ。
「いいぞ。買ってやる」
「ほんとですかやったーっ♪ 私にも付けて下さい付けて下さい♪」
そう言って俺の方に頭を突き出してくる。
……こいつ、ほんとに頭の中五歳児と変わんねぇな……。
「ほらよ」
馬鹿ネコが買ったのは中心が星型、その周りに桜の花びらのような物が付いた髪飾りだった。
この世界に桜は無いが、似たような花があるのかもしれない。花びらなんて大体同じような形だしな。
「にゃっははー♪ 初めて男の人から贈り物されちゃいましたよぐへへへ♪」
……頭の中五歳児と言ったがそれは撤回しよう。
こんな穢れた五歳児が居てたまるか。
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