第7話:ミナトの秘密。


 それから俺はママドラと身体を共有という意味不明な状態に慣れる為に身体のバランスってやつを整える修行を続けた。


 ママドラ曰く、バランスが取れるようになれば元の身体に戻れるとの事だったから俺は必死だった。


『なるほどねー。ミナトの秘密がなんとなく分かってきたわ』

「……秘密?」

『君は自分で不思議に思う事は無かった?』


 ……不思議に思う事? そんなのいくらでもある。この状況がその筆頭だが、多分ママドラが言ってるのは……。


「記憶……?」

『そう、それよ。よくよく考えたらたかだかレベル26の剣士にあんな解呪魔法が使えるわけないわ』

「それは俺も気になってた。古代文字が解読出来たり、初めてみる魔物の弱点を知ってたり……」


 あれはいったいどういう事なんだろう? てっきり神様が特殊な力をくれたんだと思ってたけど……。


『ミナト、君は……前世って信じる?』

「信じるよ」

『即答? もしかして何か思い当たる事があったりするのかしら?』


 思い当たるも何も……キキララの奴を思い出すからあまり考えたくはないけど、確かに俺には前世の記憶がある。


『へぇ、前世の記憶があるのね。珍しいタイプの人間よ貴方』

「俺はこの世界でも一度死んでるんだよ。死の間際に前世の事思い出したんだ」

『死んでるって……蘇生したの? 人間が? どうやって?』


 俺はママドラに前世の話と、崖から落とされて死んだ事、神様との約束の事など簡単に説明した。

 ママドラはしばらく黙って考え事をしていたみたいだが、何かを確信したらしい。


『君は百万回死んでいる……そうよね?』

「あぁ、さっき言った通り。信じられないかもしれないけどな」

『私は神様の魂運用法なんて分からないけれど、確かにそれだけ生まれ変わりを繰り返せば魂はすり減って欠片も残ってないはずよね。でも逆に言えば貴方がそれだけ特別って事』


 特別と言われてもあまり実感はわかない。

 俺自体が特別とかどうかよりも今こんな事になってるほうがよほど特殊な状況だからなぁ。



『君の中には百万回分の人生が眠っているわ』

「俺に分かるようにかみ砕いて話してくれよ」


『頭悪いのかしら……? まぁいいわ。貴方は今までに百万回死んで転生を繰り返してきた。その人生はほとんどが平々凡々な人生だったでしょうね』

「余計なお世話だ。それがどうした?」

『やっぱり察しが悪い。だからね……貴方が今まで生きてきた人生の中には特殊な鍵開けの知識を持った者もいたでしょうし、ハイレベルな神官も居たんでしょうね』


 ……そこまで言われれば俺にも分かる。


「全部、俺の記憶だっていうのか?」

『そういう事になるわね』

「でも俺は思い出そうとしても一つ前の人生以外全く思い出せないんだが……」


 俺の中にそれだけの人生が詰まっているのなら膨大な知識、戦闘経験などが自分の意思で引き出せたってよさそうなもんだろ。


『あのね、人間の脳みそには記憶容量の限界ってものがあるのよ。百万回分の人生全部思い出してごらんなさい。今すぐに頭が爆発するんじゃないかしら』


 こわっ!


「え、じゃあどうしても必要な時に必要な情報だけが降って来たって事か?」

『多分ね。貴方の魂にはそれだけの記憶が焼き付いているもの。私も馴染んできてやっと分かるようになったわ。確かその神様っていうのは転生ではなく生き返らせるのは規則違反って言ってたのよね?』


「……そう言ってたな」

『推測でしかないけれど、君が通常のプロセスではなくなんらかの無理を通してこの世界に生き返った時に、強度の高い魂に焼き付いた記憶を認識できるようになっちゃったんじゃないかしら?』


 俺の魂に焼き付けられた今までの人生の記憶を認識できるようになった……?


「もしそうでも自由に思い出せないっていうのも不便だな……」

『こらこら少年、私はいったい誰かな?』


 頭の中でママドラがドヤ顔しているような気がする。いや、絶対してる。


「……伝説の六竜イルヴァリース」

『そのとーりっ♪ 貴方の記憶の管理は私に任せておきなさいっ! 必要な物をきちんと選んであげるから』


 ……そんな事できんの?


『私なら出来るっ!』


 なんだその自信は……。でも確かにいざって時にスムーズに必要な知識や技能を引き出せるのであればかなり便利だな。


『私程の存在ならばこの程度の記憶容量どうって事ないわ。そして貴方の魂は今や私の魂でもあるの。参照出来て当然でしょう?』


「例えばどんな人生があったんだろう?」

『パッと見ただけでもいろいろあるわよ。聖騎士から大僧正、詐欺師から大泥棒、チンピラに一般人にロリペド犯罪者に……』


「ストォォォォップ!! なんだかあまり知りたくない過去が聞こえたんだけど」

『だから貴方は昔ロリペド犯罪……』

「分かった分かったからそれ以上言うな!」


「まぱまぱぁ~?」


『声を出さなくていいと言っているのに君が騒ぐからイリスが起きちゃったじゃないの』


 うぅ……脳内会話にも早く慣れないとなぁ。

 街中でこの状態だったら独り言喋ってるヤバい奴だと思われてしまう。


『分かっていると思うがロリペドのミナト君、イリスに何か良からぬ事をしようものなら……』


 俺はそのロリペド野郎とは違うんだって!

 ……いや、それも俺なのか。ヤバい、反論のしようがない。


「まぱまぱってば~っ」


「はいはい、どうしたのかな?」


 奥の部屋からとてとてと歩いてきたイリスのわきの下を持って俺の顔の高さまで持ち上げる。


「わぁ~い♪ まぱまぱ好きーっ♪」


 ちなみに、まぱまぱというのは、ママとパパが一緒になったからまぱまぱなんだそうだ。


 いや、俺はママドラの旦那ではないんだけれども。


『私の旦那じゃないけれどイリスの父親ではあるわけよね』


 ……ぐぅ。まぁ、確かに? イリスはめちゃくちゃ可愛いから親代わりくらいなってもいいけどさ。


『可愛いからって性欲の捌け口には……』

 しねぇよバカ!


「あれ、まぱまぱお髪が黒くなってるよー?」


 えっ? イリスを地面に降ろし自分の身体を確認する。


「おぉ! 胸が引っ込んだ! って事は……ある! あるぞぉぉぉっ!!」


『……モノが復活したからと言ってイリスに……』


 お前もしつけぇなオイ。


 しかしこれでやっと外に出れるぞ! 俺は早く外にでてあいつらを追いかけなくてはならない。

 必ず追い付いて……。


「まぱまぱが悪い顔してるー」

「そ、そんな事ないよー? 俺はイリスに変な事したりしないからねー?」

「変な事ってなぁに?」

『……おい』


 ママドラからの圧がすごい。


「ねぇ変な事ってなぁに?」


「な、なんだろうねぇー?」



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