秋乃は立哉を笑わせたい 第8笑
如月 仁成
予告編 いい兄さんの日
~ 十一月二十三日(月祝) いい兄さんの日 ~
※
まあ、お兄さんだし。
ゼロってこともある。
向かって上手にそびえ立つは。
モンブラン。
「時期だからな」
そして下手で圧倒的な存在感を誇るのは。
マスカットムース。
「時期だからな」
さて。
そろそろ三十分。
いい加減、どっちにするか決めねえと。
「美味かった! カボチャプリン!」
「時期だからな」
「おにい考えすぎ。夏だととろけちまうよ? 今日は涼しいから平気かもだけど」
「……時期だからな」
たまにはゆっくり選ぼうと決めて。
それぞれの美点、欠点をいくつもあげ連ねているうちに。
決められなくなっちまった。
我ながら面倒な頭脳と性格。
でも、そんなことに悲嘆してる場合じゃなく。
ほんとにもう決めないと。
「パパが帰ってきたら、好きな方選ばせれば?」
「他山の石ってやつだ。それだとどっち選ばれても後悔する」
「でもさ、結局残った方食ってる姿見て後悔すんじゃねえの?」
確かにな。
親父、よっぽど楽しみで。
爆発しそうだからな。
凜々花がお菓子貰ったってメッセ送ったら。
大喜びでケーキのろうそく吹き消しそうとして頭を突き出して。
そのせいで導火線に引火して爆発した爆弾のスタンプ送りつけて来たから。
…………楽しみなのか?
「ちきしょう、親父にどっちかあげねばならんのか……」
「ひでえこと言い出した」
あいつになんか、せんべいで十分だ。
そうすれば俺は両方とも…………?
「おお、そうだ! 凜々花、このケーキ、どっちも三分の一ずつ食わせてやろう」
「まじぽん!?」
「その代わり、お向かいから封を切ってないせんべい貰って来い」
「おっけーホッケー5Kテレビ! 取って来る!」
ワンコ・バーガーの休憩室。
いつもお菓子が置いてあるからな。
それにしても5Kってなんだよ。
5Gと混ざって覚えたな?
だがこれで万全だ。
あとは親父が戻ってくる前に食い切っておけば……。
あれ?
随分早く戻って来たな?
「あがってって! 丁度いいもんあっから!」
……可愛い妹が釣り上げて来た。
仲良しな美人姉妹は。
好きな方のケーキへスプーンを入れるのに。
十秒とかからなかった。
「あれ? おにい。さっき約束した凜々花の分は?」
「……お向かいからせんべい貰ってきてやるよ」
「凜々花、せんべいよかカボチャプリンの方がうめえって思うな!」
「………………時期だからな」
若人よ。
人生短し。
迷うなかれ。
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