第14話



 結局のところを言えば、全ての問題を解決する手段と呼べるものは暴力のみである。


 ことに、生き物の間で起こる諍いについては、後先を考えなければ最も簡単な解決策であると言っても過言ではなかった。


 ……理性と知恵を得た生き物であるならば。

   会話で解決したほうがよいと思う気持ちもないではないが。


 その会話にしても、暴力というものが背景になければ始まらない。


 会話による解決を望む状況とは、だいたいにして暴力による解決が割に合わないとあらかじめわかっているから発生するものであるし。


 仮に人間がよく口にする法という仕組みで考えるにせよ、それすらも暴力によって成り立っているのだからどうしようもない。


 法の中で暮らす生き物は、法によって定められた罰を強いるものの暴力に勝てないがゆえに従っているのだから。


 ……まぁそういう場所で生きてきたから、という刷り込みがないとは言わぬがな。


 ともあれ、最終的に力を示さなければ話し合いにも持ち込めない、ということは疑いようのない事実である。


 ……特に、相手がこちらを舐めくさっている場合はそうなる。


 明らかに強そうだと思える相手にわざわざ喧嘩を売るような生き物はいない。

 何かをやってやろうと手を伸ばすものもいない。


 その行いが善意によるものであろうとも、悪意によるものであろうとも。

 誰かが何かと関わろうと思うときには、必ず、相手が自分より下であるという認識が隠れている。


 ……いやまぁ、本当に何もわからないから手を伸ばせるだけだという場合もあるかもしれないが。


 要は完全に見えていないか、見えている部分については問題ないと思い込んでいるかのどちらかだという話であり、今回の件に関しては後者となる。


 ……相手がこちらを下に見ている、ということだ。


 相手は最初から勝っていると思い込んでいて、だから多少融通してやろうと声をかけている状態であるのだから、気に入らないと感じる返答は受け入れてもらえる余地がない。


 ――見た目はそこまで強そうでもないし、実際に強くないから生贄を求めるような状況に陥っている。


 そう思い込んだ上で、一対多数。数は自分が上という状況であれば、そのような思考に陥るのも無理からぬ話ではあった。


 そこまで考えが至ったところで、


 ……思えば、我輩が喧嘩を売られたのはそのあたりが理由だったのかもしれぬなぁ。


 ふと、そんな思考が頭を過ぎった。


 次の瞬間に思い返したのは過去にあった出来事だった。





 生まれた直後、最初の人間に襲われたときは、まだ充分に力を扱うことはできないだろうと判断されていたに違いない。


 ――倒せるほどに弱いと思われていたわけだ。


 生地から去った先で生贄を捧げられてしまったときは、獲物を血眼になって探さなければならないほど弱っていると看做されていたのだろう。


 ――すぐにでも腹を満たさねば止まらぬ弱い生き物に見えていたわけだ。


 そして今現在、そのふたつの話が繋がって、我輩は弱きものとして助けが必要な存在であると見くびられているわけである。


 ――付け入る隙がまだあるのだと、そう考えられているわけだ。





 過去を顧み、現在の状況を鑑みて、


『本当に、はなはだ不本意な勘違いをされてきたものであるな』


 思わず音に出して言葉を作ってしまうほどに落胆した。


 ……我輩は弱く見えるのか。


 ただ、周辺環境に対する影響を考慮して、可能な限り穏当な結果となるような選択肢を選んでいただけであるが。


 そうしていたから、軽く見られるようになったのか。


『そうか』


 ――だから関わる輩が後を絶たぬというのなら。 

 

『今後関わる気も失せるように、我輩の本気を見せてやるとしようか』





 問題の解決方法として最も簡単なものは、暴力に訴えることである。


 そうすることによって更なる争いを巻き起こし、後に禍根を残すことになろうとも、己の実力を示すことには意味がある。


 身の程を知らないものに、彼我の差を認識させることができる唯一の方法が。

 それしか存在しないのだから。

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