普通に考えたら許されない行為 前編
「おーいせー? 誠一郎くーん?」
「……」
朝になって、昨日できなかった上の階の探索に行こうとせーを起こしているのだけど、もう20分は経つのに、どうしたのか起きてるのに起き上がろうとしない。
裸なら、昨日親にも見せたことないとこまで見せ合ったのに、今更何を恥ずかしがっているのか。
「ちょっとーいくら何でも倦怠期来るの早くな……え? 泣いてるのせー?」
「うっ……ひっく……ううっ……いいよもう、君の方が力強いんだし君が何でもかんでも全部一人でやればいいじゃない」
「ど、どうしたの?」
「うるさいよ!! 昨日僕が泣いて嫌がってもするのやめなかった癖に今更慰めんなボケ!」
……しまった。せーの男としてのプライドをついへし折ってしまったようだ。
だって仕方ないじゃない。こっちはせーと違って今まで性欲とか色々抑えてたし、ひどい時は求めたのに拒まれたんだから、やっと来た発散の機会で暴発してしまうの人の性と言わざるを得ない。
まぁ……我を忘れてしまったことは認める。しかし、そのおかげで今は頭がとても冴えている。黒板に書かれた問題を教師の前で模範解答できて褒められた時みたいだ。
「何いじけてんの。最後らへんアンタ自分から動いてたでしょ!?」
「……チッ」
舌打ちしたせーが毛布を頭から被って饅頭みたいになってしまった。昨日一応婚約はしたのに、もうこんなザマになってしまった。
しかし、我ながら今まで親が厳しいから彼氏も作れなかったし、援助交際なんかももちろんやったことなかったのに、どうしてか昨日は躊躇いもなくあんなことやこんなことをしてしまった。
そして、それを思い返したところで恥ずかしかったり後悔と言うような感情もない。
ただ、せーを弄んだ時の彼の嬌声で脳が痺れた時に分泌されたあの脳内麻薬による快楽だけはよく覚えている。
「ほら、いい加減にしてよせーがいないと私何もできないでしょ!」
「嘘です。僕なんか孫の手程度の値打もないと思ってるんでしょ」
「大丈夫よ。ボールペンくらいの値打ちはあるって! ほら着替えて!」
私は埒が開かないので、羽根布団をせーから剥ぎ取った。何か抵抗してるような手ごたえはあったけど、クソ弱かった。
「ほら最上階一緒に行って探索しよ? 何かすごいものあるよきっと?」
「寒いんですけど」
せーは毛布の中でインナーだけは着ていて、紅潮した頬に泣き腫らした目で私を睨んできた。
「……!」
おかしい。今までもせーを不細工だとは思わなかったけど、何故か昨日からせーがすごく愛くるしく見えてきた。こんな少年のように儚げであどけなくて弱弱しい顔してたっけ? また疼いて来た。
「いいわよ。昨日は君を守りたいとか言ったけど、僕なんかが君を守れるわけがなかったんのよ。むしろ僕なんかがいたら君の足手まといになるだけなのよ」
「何で急にニューハーフ口調に……」
相当せーを傷つけてしまったようだ。いや、むしろせーは私の前では大人っぽくかっこつけて振舞ってて、実は本性はこちらの方なのでは? 事実としたらめちゃくちゃかわいい。
私ってサディストかもしれない。
「いいから一人で行ってきなよ。僕みたいなもやしポークピッツチキン野郎なんか役に立たないよ」
「栄養価が偏ってるから芋も入れたら?」
少し時間を置いた方がいいのかもしれない。せーも一人で色々考えたいこともあるだろうし、怖いけどもうゾンビはいないだろうから一人で行くか。
「わかった。じゃあ一人で行くよ。もしかしたら私噛まれちゃうかもしれないから、一応お別れのあいさつはしとくね。今までありがとう元気でね! 愛してるわよ!」
私はそう言って毛布を投げ返して、ダウンジャケットを羽織ってリュックを背負ってベランダに出た。振り返っても、せーは再び毛布に包まるだけだった。
……やっぱり暴れるせーをねじ伏せて眼球舐め回したのは流石にがやりすぎだった。
「ホントマジで昨日こっち来るタイミング逃して不参加のゾンビとか残ってないよね……」
私はやたら揺れる頼りない梯子を登って上の最上階に向かった。粉々に割れたバルコニーのガラス戸の破片周りには血痕が点在していて、昨日押し寄せたゾンビの痕跡を生々しく示していた。
しかし、豪華な家だ。こっからは見えにくいけど2階もあるようだし、マンションとは思えない。
せーも金持ちの家ならこっちを借りれば良かっただろうに、残念ながら空きがなかったんだろう。
私も幼少のみぎりは豪邸に住んでみたいと思ってたけど、大人になって考えると掃除がめんどくさい。ゴキとか出てきて殺し損ねたらきっと夜も眠れないし。探し物するのも大変だ。
私はまず何をしようかと思って、リュックからドリルを出したのはいいけど正直怖くて中に入る勇気が出ない。自分を鼓舞しようにもそれができるような材料がない。困った……。
すると、真後ろの梯子から誰かが登ってこっちへやってきた。といっても一人しかいないけど。
「あれ? 寝るんじゃなかったの?」
「……だって、かなちゃんを一人にさせられないだろ」
すごい血色と決まりが悪そうな顔でせーが来た。なるほど、コイツ罪悪感煽られると弱いんだ。
「来てくれたのは嬉しいんだけど、やっぱりせー顔色悪いから戻っていいよ?」
「そりゃ昨日誰かさんに搾取されまくったからな」
そう言いながら立ち上がるせーは焦げ茶のスタイリッシュコートにマフラーを結んだ、これまたお洒落な格好だった。これも高いんだろうな。
「ほら、行くよ」
せーは私のダウンジャケットの裾を掴んでジッパーを上げたが、胸がつっかえてまた下に下ろした。何がしたいんだろう。
でも、やっぱりせーのこういう不器用だけど勇ましくて優しいところ好きだなぁやっぱり。
「ありがとうせー。私アンタのこと弟のように思ってたから今すごく頼もしく感じる」
「そうか、僕もかなちゃんのことを妹だと思ってた」
私とせーの間に電流が走った。
「……いや、昨日あんなに私に遊ばれてた子が何言ってんの」
「僕の前でみっともなく放尿と嘔吐をした子が何言ってんの」
「あ、その話蒸し返すの禁じたでしょ!」
「僕が言ったのは昨日のことだよ……おえっ吐きそう」
「えっ」
瞬間、なぜか記憶から抜け落ちていたあることが補完され、真っ青になった。とてもではないけどここに書くことはできない。何故私はあんな狂ったことができてしまったのだろうか。
狂ったようにスポーツドリンクをがぶ飲みするせーを見て、私は自分の中に潜む悪魔の存在に戦慄するのだった。
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