12話


次の日、メリダはいつもより早い時間に研究室を訪れていた。昨日、ロンドに話を聞いてもらい自身の中でシルヴィアに向ける“尊敬”と“憧れ”の気持ちの折り合いがついたからだろう。


「あの…シア…」


「め、メリダ?」


昨日までよそよそしい態度を取られていたシルヴィアは、驚いた。自分からメリダに踏み込むべきかどうか未だに決心はついていなかったし、もし踏み込んでも彼女は逃げてしまうと思った。だから彼女から話しかけられるとは思ってもいなかったのだ。


(でも、メリダから来てくれた…それなら私もちゃんと彼女に向き合わないといけませんね。)


「メリダ…どうかしましたか?」


シルヴィアは優しく微笑んでメリダに聞いた。


せっかくメリダから歩み寄ってくれたのだ。それなら自分は、彼女が話しやすいように落ち着いて話を聞こうとシルヴィアは決めたのだ。


優しく微笑むシルヴィアにメリダは強く手を握りながら向き合った。視線は真っ直ぐにシルヴィアに向けられているが、唇はかすかに震えている。それでも彼女は逃げなかった。


そしてまたシルヴィアもメリダから視線を外すことなく彼女が言い出すのを静かに待っていた。



◇◇◇



2人が向き合って数分が経った。メリダは未だに言い出せないでいる。


(ど、どうしよう…ロンド君からアドバイスを貰ったけど…)


目の前には今まで自分が探していた“例の人”でもあり、自分の“憧れ”である人がいる。


(“例の人”に会ったら絶対に言うって決めていた言葉があるのに…緊張しすぎて忘れちゃいましたっっ!!!)


「…」


自分から声をかけた手前「やっぱり、何でもありません!」とは言えない。それに…


(ちゃんと言いたい…)


メリダは「昔、助けてくださってありがとうございました!」と言うべく震える唇を開いたが


「その…ごっ、ごめんなさい!」


全く別な言葉を発し、謝罪と共に頭を下げていた。


「えっ?」


「ふぇっ??」


(や、や、やっちゃったぁぁぁぁぁ!!!!)


「そっ、そのぉ、えっと、あのぉぉ」


メリダは焦りパニックになっていた。


(ごめんなさいから何て言えば、、あ、ありがとうも言わないと、、え、でも、ごめんなさいって言っちゃったし)


アワアワと焦りだしたメリダを見てシルヴィアはクスっと笑ってメリダに聞いた。


「もしかして今までの挙動不審な態度ですか?」


「は、は、は、はいっ!!」


焦るメリダが面白くてシルヴィアは少し意地悪したくなった。だから悲しそうな表情でメリダに尋ねた。


「私、メリダの…嫌なことをしてしまいましたか?」


「ふぇ、はっ、えっ、あっ!ち、違います!!!!」 


「違うの?」


「は、はい、!!!シアは、、、私の王子様ですっ!!!!」


「王子様…?」


「…ふぁっ……」


(あっ、あ、い、ぃぁあぁぁぁぁあやぁぁぁぁぁぁ!!!!)


焦るあまりメリダは2度の失態を犯したのだった。



◇◇◇



「うぅぅ、ずびっ、ぐすっ」


「まだ痛いですか?大丈夫ですか?メリダ」


「は、はぃ、ずびっ、大丈夫ですぅ」


あの後、パニックになったメリダはその場に蹲ったが、蹲る際に机に頭をぶつけてしまったのだ。


(少し、意地悪をしてしまったのがいけなかったのでしょうか…)


シルヴィアはメリダの頭に水魔法の派属性である氷魔法を使い冷やしていた。


「あ、あの…シア?」


「?どうしたの?メリダ」


「あの、、さっきの王子様ってね…違うの」


「う、うん」


涙目になりながらもメリダは必死に説明した。


自分は小さい時に町を襲う魔獣によって死ぬはずだったこと。


死ぬ覚悟をした時に、黄金の光が温かく町を包み込んだこと。


とある中級魔法士のおかげで助かったこと。


「それは…」


「うん。私…シアのおかげで助かったの」


「まさか、メリダが…私が中級魔法士になって初めて当たった任務で助けた人だったとは…思いませんでした…」


「そうだね。だから、シアは私の命の恩人なの…ありがとう。助けてくれて…私に魔法士という夢を与えてくれて…」


メリダは、はにかみながらシルヴィアにお礼をいった。そんなメリダを見てシルヴィアは照れながら言った。


「メリダ…私の方こそありがとう。」


2人は学園の時のように笑い合った。




それから数分後、ロンドがやって来た。


「シアさん!おはようございます!!」


「あっ!ロンドくん!!昨日はありがとう!」


「ロンドくんおはよう」


未だに腫れが引かないメリダの頭のたんこぶにシルヴィアは氷魔法で冷やしながら挨拶をした。


「あ、メリダも居たのか…おはよう。あれ?お前頭どうしたんだよ…」


「あははは、ぶつけちゃいました…」


「気をつけろよな…」


「うん!でも、今シアさんが氷魔法?で冷やしてくれてるから大丈夫だよっ!!」


「氷魔法?」


「メリダさんも氷魔法について知らなかったけど…もしかしてロンド君も知らない?」


「はい…氷魔法なんて存在してたんですね…」


「氷魔法は、水魔法の派属性魔法なの。水魔法の派属性魔法といっても別属性って考えた方がいいですね」


「別属性ですか?」


「水魔法の適性があっても氷魔法は使えないからです…氷魔法の適性者は希少なんですよ」


「ふぇー、、」


「そうなんですね、、」


「他にも火の派属性魔法の炎、風の派属性魔法の雷、土の派属性魔法の地、光の派属性魔法の聖、闇の派属性の呪があります。派属性魔法の適性者は火、水、風、土、光、闇の適性がない人が多いと前に師匠から聞きましたね……あっ」


「ふぁっ」


メリダとシルヴィアは何かに気づいてロンドを見た。


「ん?」

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