第66話 婚約パーティーですね

 後日、バレンとクリスティーナの婚約パーティーが行われた。

 バレンは第二騎士団が魔物討伐に向かう前にクリスティーナとの婚約を発表したかった様だ。

 婚約発表は国内の貴族をはじめ近隣諸国の来賓を迎える大々的なものであり、多くの人が訪れる事となった。

 レイナもメイドとして参加、準備と対応に忙しい。


 クリスティーナはイーサンとの婚約は破棄してバレンと新たに婚約した。

 現代では考えにくいが、政略結婚が多いこの世界では意外にもこういう事はあるようだ。

 王家としても大貴族であるアルティアーク家の力は必要でありクリスティーナとの婚姻は重要な事だ。

 只それが第一王子のイーサンでも第二王子のバレンでもどちらでもいいというのが正直なところだ。

 両家とも関係が維持されるのであれば良いと納得している。


 本人達も好き合っている仲なので問題はないのだろう。

 婚約が無くなったイーサンとしては微妙な立場だが、家同士の約束事で大々的な発表をしていなかったのが救いだろうか。

 レイナはこれでイーサンは私と同じ婚約破棄組ね、などと思ったり思わなかったり。


 イーサンとしては二人の気持ちを知っていたので、これで良かったと思っている様だ。

 レイナの事を抜きにしても弟であるバレンが幸せになるのはイーサンとしても嬉しいのだろう。


「クリス様、綺麗ね」


 レイナは給仕をしながら幸せいっぱいのクリスティーナの微笑みに嬉しくなる。

 この人は私の友人であると周りに誇りたくなってしまうぐらい、レイナにはクリスティーナが輝いて見えた。

 偉丈夫なバレンの横で寄り添う美少女クリスティーナ。

 絵になるなとレイナは美女と野獣、いや美男美女カップルに感動する。


「失礼、お嬢さん」


 その時、自分の方に向かってきた男性にレイナは声を掛けられる。


「はい。どうぞ」


 レイナは持っていたお盆からグラスを一つ取り、その男性に差し出す。

 メイド長、私メイドの仕事ちゃんとしていますと、レイナは心の中でアピールする。


「ありがとう」


 グラスを受け取った男性は直ぐにその場から離れずレイナの前に立ちレイナを見つめる。

 

「何か問題がありましたでしょうか?」


 粗相があったのではないかと思いレイナは確認する。


「いや、君と少し話がしたくてね」


 そんな事があるのだろうかと、レイナは不思議に思う。

 この婚約発表の場には国の未来を担う人物達が揃っている。

 声を掛けるならそんな人物達の方が有意義であり意味があるだろう。

 一メイドに話しかけるものだろうかと、レイナが戸惑いの表情を浮かべるのも無理はない。

 そんなレイナの戸惑いを感じ取った男性は続ける。


「美しい女性に声を掛けるのは男として当然の事ですよ」

「あ、ありがとうございます」


 ナンパなのだろうかと疑ってしまうが、最適解が見つからずレイナはとりあえずそう答えた。

 だが、自分より煌びやかで美しい女性はこの場には沢山いる。

 声を掛けるならやはりそう言った女性からなのではないだろうかとレイナの疑問は膨らむ。


「銀色の髪と赤い瞳の女性を初めて見たもので、不愉快だったら申し訳ない」

「!?」


 レイナは髪の色を確認するも茶色に見えている。

 認識阻害のネックレスが機能しているのは間違いない。

 この男性は魔導具の力を越えレイナの本当の姿を看破したのだ。


 レイナはこの男性に対する警戒心を一段階上げた。

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