第62話 剛剣ですね
レイナが第二騎士団達の肌トラブルを解決した後、バレンが剣術を見てくれる事になった。
バレンの剣術はサムエルとは違い肉厚の剣を力で振り回す豪快なものだ。
鍛えられた体から繰り出されるスピードとパワーに溢れる剣術はレイナが真似しようにも真似できないものだろう。
レイナは今まで学んできた事をバレンにぶつけるも、あっさりといなされてしまう。
「さ、流石に相手になりませんね」
「いや、そうでもないぞ。中々の上達ぶりだ」
「えっ、本当ですか?」
意外なレイナの上達ぶりにバレンは目を細める。
レイナとしては実感が湧かないだろうが今までの相手は全て格上の相手ばかりだ。
同格や格下の相手をした事がないのでレイナは自分に対する評価が低い。
一度自信を付けさせる為に相手を選んだ方がいいかもしれないとバレンはニコラとサムエルに助言するかと考えるも、まあ賢い二人の事だから分かっているだろうと改める。
それほどまでにレイナの剣術は上達していると言う事だ。
「そういえばバレン様はクリスティーナ様の事をどう思われているのですか?」
その言葉に合わせてレイナは足を払おうと剣を出す。
「おっと、なかなかズルい手を使うじゃないか?」
動揺を誘おうとしたレイナの攻撃は読まれ完璧にガードされる。
ここら辺のズルさは師匠譲りという事でレイナの本心ではないと言っておいた方が本人の為だろう。
「レイナ嬢こそ兄上とはどうなんだ? キスぐらいしたのか?」
「!?」
バレンの陽動に一瞬反応が遅れるレイナ。
その隙を狙いバレンは刀の腹で横凪する。
レイナは何とか自分の剣を体の間に滑り込ませるも、衝撃を受け止め切れずに飛ばされる。
「うぐっ!」
ゴロゴロと地面を転がり何とか立ち上がるレイナ。
「ひ、卑怯です! バレン様!」
「ははは、お互い様だろ! でどうなんだ?」
「セクハラですよバレン様!」
そんな事をお互い言い合いながら二人は何回も剣を交えた。
周りの団員達も声援をおくりレイナとバレンの戦いに歓喜する。
レイナの人気が更に上がったのは言うまでもない。
「バレン様、本日はありがとうございました」
「こちらこそ楽しかった。レイナ嬢は将来が楽しみだな」
結局、レイナはバレンに対して決定打は入れられずじまいだった。
それでも訓練の成果は出ているのでバレンが言った事はお世辞でもない。
このままレイナが訓練を続けて行けば、騎士団の一員になる事も可能かもしれないとバレンは本気で思っている。
レイナとしては自衛が出来ればいいだけなので騎士団に入ろうなどとは考えていないのだが。
「バレン様、魔物討伐の遠征はもうすぐですよね」
「ああ、来週には出発する予定だ」
「気をつけて行ってきてくださいね」
不安を口にするのが躊躇われてレイナは案ずる言葉だけをバレンに掛けた。
「おお。レイナ嬢が作ってくれた薬草で回復薬も出来るからな。心強いさ」
「そうですね。お役に立てていただければ嬉しいです」
「それで我々を実験台にした魔法はどうなんだ?」
「え、ええ。お陰様で実用の見通しが出来ました。ありがとうございます」
実験台と言うところには引っかかったが【キュア】の検証が出来たことは良かったとレイナは思う。
クリスティーナにもいい報告が出来そうだ。
「魔物討伐のご武運をお祈りしております」
言い知れぬ不安が頭の中に膨らんでいたが、それを振り払うかの様にレイナは頭を振り無事を祈った。
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