第61話 お肌のトラブル解決ですね

「そんな訳でこちらにお邪魔する事になりました」

「おいおい、どんな訳だよレイナ嬢」


 突然そう切り出したレイナに第二騎士団の団長であるバレンは困惑する。

 

「つまり私の魔法が肌に効果があるのか確かめたいのです」

「ああ」

「しかしそれには肌に問題がある人の方が確認しやすいと思いまして」

「ああ……」

「そこで普段から過剰に太陽に当たられていそうな第二騎士団の方達なら適任かと思いまして」

「……」

「実験にお付き合い願えないかと」

「うーん。確かに毎日の様に日光には当たっているし俺達の中に肌を気にするような奴はいないけどな」

「はい。是非協力お願いします!」


 お前らの肌は汚いから実験台にさせろと言っている事にレイナは気付いていないのかバレンは苦笑いをするしかない。

 当然バレンの返事も曖昧になる。


「まあ、女性と比べれば肌質は悪いかもしれんな」


 レイナとしては日の光に毎日当たっている人間の方が肌のダメージが多いのではないかと思っただけなのだが。

 しかしレイナは以前から回復魔法要員として来ているので、ここでのレイナの人気は高い。

 第二騎士団の団員達は実験台になる事を快く引き受ける。


 ここに来る時のレイナの格好は茶髪に茶色の瞳でメイド服だ。

 最近は銀髪と赤い瞳が人に見られてもいいかなとレイナは思い始めてはいるが、王宮内では気を付ける様にしているので、この出で立ちとなった。

 強くなるまでは仕方がないだろう。


「それでレイナ嬢、我々はどうすればいい?」

「そうですね。並んでいただいて顔を見せて貰ってもよろしいでしょうか?」


 いきなり顔かとも思うが【キュア】の魔法自体、人体に影響のないものだ。

 レイナもそこら辺を考え、顔にすることに決めた。

 どうぜなら分かりやすい方がいいだろうというのがレイナの理屈だ。 


 並んだ団員達にレイナは近づいていく。

 髪と瞳の色は変えているがレイナの美少女っぷりは隠せていない。

 自分の前に来て顔を見上げるレイナの近さに、顔が赤くなる団員がいるのも仕方がない事だろう。

 

 そんな事はお構い無しに団員の顔をレイナはまじまじと見つめ、あーでもないこーでもないと言っている。

 若い団員には刺激が強い。


「しゃがんでいただいてもよろしいですか?」

「は、はい」

「少し触らせて貰いますね」

「!?」


 選ばれた団員はよく日焼けして精悍な顔立ち。

 しかし日に焼け過ぎたのか顔には赤みと出来物があった。

 実験には丁度いいとレイナは判断する。


 緊張で体が固くなっている若い団員。

 そんな団員にレイナは優しく声を掛ける。


「直ぐに済みますので我慢してくださいね」

「は、はい」


 レイナは団員の顔に触れ魔法を唱える。


「【キュア】!」


 毒素やダメージを抜く様なイメージで魔法を行使。

 ニコラが魔法はイメージだというのを思いだしレイナは実践してみる。

 更に肌細胞が活性化するイメージを追加。

 現代人であったレイナならではの【キュア】の使い方が奇跡を生む。


「終わりました」

「「「おおっ!」」」


 皮膚のダメージが無くなり赤みも治り明らかに肌がつるつるになったのが周りから見ても分かる。


「成功ですね!」


 この結果を受け、結局全員に魔法を掛けることになりレイナは大忙しとなる。

 しかし魔力的には余裕があるのはニコラに鍛えられたお陰だろう。


 実際には【キュア】だけでなく【ヒール】の要素も含まれていたがレイナとしては肌が綺麗になったのだからどちらでも良いだろうと言う結論に至る。


 途中から顔に直接触れなくてもいけるのでは無いかとレイナは思ったが、団員達は頑なに拒んだので仕方がなく顔に触れて【キュア】を掛け続けた。

 見目麗しい女性に男なら触れて欲しいと思うのは仕方がない事なので許して欲しい。


 レイナとしても無理を言ってお願いしているので団員の意見は尊重しようと思った様だ。


「お疲れさまレイナ嬢」

「ご協力ありがとうございましたバレン様。お陰様で自信がつきました!」

「それは良かった。しかしレイナ嬢は色々とやるんだな」

「そうなんですよね」


 メイドに魔法、剣術、薬草、野菜作りと、この王宮にやって来てからレイナは色々な経験をした。

 そしてそれに関わる人々とも仲良くなれた事がレイナは一番嬉しいと感じている。

 あのまま追放されなければ、この人達に会えなかったと思うとレイナは不思議な気持ちになった。


「薬草も問題無かった様じゃないか」

「はい。無事に納品出来ました」

「今頃回復薬として精製されてる頃か?」

「そうですね」

「まあ、レイナ嬢の薬草が材料なら間違いないだろう」


 その時何故かレイナは言葉には表せない嫌な感じを受けた。

 バレンからでは無く予感の様な何かを……。

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