第32話 安心してしまいましたね
イーサンに連れられて部屋に入る。
客室なのだろう豪華な造りだ。
王宮にはこんな感じの部屋がいくつもある。
メイドとしてレイナが担当していない場所。
先輩たちが管理している部屋なのでレイナは初めて入った。
部屋にはレイナとイーサンの二人。
他の人間は先程別れたので部屋に二人きりだ。
レイナは少し緊張している。
でも影と呼ばれる人がいるのかもしれない。
もしいるなら、その人は透明になれる魔導具とかスキルを使用している?
レイナが見回しても特に違和感はなく、他に誰かいるなんて感じはしない。
自分のレベルでは探知出来ないのかもしれないとレイナは諦める。
部屋の中をキョロキョロと見ているレイナを不審に思ったのか、イーサンは声を掛けてくる。
「他には誰もいないよ。俺達二人だけだ」
「そうなんだ。今も見張られているのかと思って」
「すまない。一応レイナは要注意人物だからね。多少の監視は許してくれ」
メイドが仕事以外で王族の方達と頻繁に会える環境なんて普通考えられない。
周りの人間からしたら監視するのは当然な事だ。
下手な事をしたら直ぐに追い出されてしまうのは間違いない。
気を付けなければ。まだ自分には力が足りない、レイナは気を引き締める。
「はい。大丈夫です。それぐらい当然ですよね」
「理解して貰えて助かる。今日呼んだ理由は二つある。一つは頼まれていた魔導具が完成した」
「ありがとう。流石はイーサン、忙しいのにごめんね」
「いや、久々に趣味での魔導具作りは楽しめたよ。キッチンに設置したので後で確認してみてくれ」
「うん、見てみるね。楽しみ」
趣味でない魔導具はどんな物なのかレイナは疑問を感じた。
以前に兵器も製造しているって言っていたので、そういった類の物なのかもしれない。
楽しんで作る様な物じゃないなと、レイナは複雑な気持ちになる。
「それで二つ目の用件はなんなの?」
気兼ねなく話すのも慣れてきた。
完全に友達口調。公の場では絶対にしてはいけない。
「ああ、クリスの件なんだが」
「はい」
クリスティーナ様の事を話すのに、そんなに真剣になる事なのだろうかとレイナは不思議な感覚を覚える。
クリスティーナの事を親しい人間はクリスと呼ぶ様だ。
愛称なのだろうとレイナは少し羨ましくなる。
「クリスとは幼い頃からの知り合いで一緒に育って来た。仲が良かったので親同士が婚約を決めた」
「ええ、とても素敵な女性なので良い縁談だと思います」
ニコラから聞いていたし、先程の御令嬢達も言っていたからレイナはクリスティーナがイーサンの婚約者であることは知っている。
クリスティーナは公爵家の令嬢なので家柄も申し分ない。
良縁と言って間違いないだろう。
「ああ。クリスは素晴らしい女性だ」
相思相愛なら良かった。何も問題ないとレイナは思う。
イーサンは続けた。
「だがクリスはバレンの事が好きなんだ」
「えっ! バレン様をですか!」
相思相愛論が一瞬で崩れた事にレイナは驚きを隠せない。
イーサンはどちらかと言うと知的な感じである。
勿論、男性であるし体も鍛えてるのでレイナから見たら体格は大きい。
しかしバレンの方が実戦経験が多いせいか体が大きく筋肉質だ。
クリスティーナはワイルドなバレンの方が好みの様だ。
「ああ。そしてバレンもクリスに好意を寄せている」
(えっ、こっちが相思相愛!)
「そうなんですね」
「そう言う事だ。だから婚約と言っても形だけの物だ」
「でも家同士の約束事なのではないの?」
貴族同士の婚約なら正式な物なのだから履行されるべきだろう。
レイナもそこに疑問を感じる。
「最終的には本人同士で決めろと言われている。俺としてはクリスはバレンと結ばれて欲しいと思っている」
「そうなんだ」
だったらイーサンじゃなくてバレンと婚約すれば良かったような気がするだがと、レイナはそこら辺をイーサンに確認する。
「まあ対外的な物もあるので王族の婚姻となると色々と複雑な問題がある」
「そう。何だか簡単では無さそうね」
貴族の婚姻は一般人と違って好き嫌いだけじゃないって事は多々ある。
幼少の時に好きでもない相手との婚約を親同士が決めてしまうなんて事はざらだ。
貴族は政略的な事を優先する。
今回の場合の様に、最終的には本人たちの意思に任せると告げられる事は珍しい。
政治的な事を考えれば力のある公爵家の娘であるクリスティーナを娶るのは王家にとって必要な事だ。
しかしそれがイーサンであろうがバレンであろうがどちらでも構わないと言うのが本音だろう。
どちらにしても公爵家との縁は出来る。
だからこそイーサンにはその様に伝えられたのだ。
「話はそれだけだ。またな」
「えっ、う、うん。魔導具ありがとう」
そう言うとイーサンは部屋から出て行った。
何故いきなりその様な話をしたのか唐突感がありレイナは不思議に思う。
でもレイナはクリスティーナがバレンの事を好きと聞いて自分がほっとした事に気が付く。
そう、安堵したのだ。
「それってつまり私がイーサンの事を……」
残された部屋で一人、レイナはそんな事を考える。
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