婚約破棄と追放をされたので不思議な能力使って自立したいと思います

第31話 聖女みたいですね

「クリスティーナ様！」

　声の方を向くと眉をひそめたクリスティーナがレイナ達の方を見ている。

　そんな仕草も美しいクリスティーナ。

　神は何物を与えれば気が済むのかと、場違いな考えをするレイナ。

　後ろにはイーサンとバレンもいる。

　美男美女達の競演。この世界、美形が多過ぎるのではとレイナは思う。

　絵になる三人を見ていると、そんな事をレイナは考えてしまう。

「クリスティーナ様、この方が、いきなりわたくし達に暴力を振るって来たのです！」

「そうですわ。わたくし達、何もしておりませんのに！」

　御令嬢達は矢継ぎ早に自分達の正当性を主張をした。

　先に暴力を振るおうとしてた事は無かった事になっている様だ。

　こういう時、二対一って不利だなとレイナは感じる。

　たとえ、それが間違っていても、声の大きい方に大勢が流されてしまう事はよくある事だ。

「レイナさんは何か言う事はないのですか？」

　黙っているレイナにクリスティーナは声を掛ける。

　御令嬢達の言い分を優先するのかと思ったのだが、クリスティーナはレイナの意見も必要だと思ったのか聞いてきた。

　外見だけでなく、中身も素敵な人なんだとレイナは感心する。

「私は暴力を振るってはいません」

　野菜が踏まれない様に足を払っただけで、暴力ではないと言いたいがそれが暴力と言われればレイナは仕方がないと腹を括る。

「嘘です。突き飛ばされてドレスを汚されましたわ！」

「そうです！　わたくしも見ていました」

　御令嬢二人はヒステリックに主張する。

　自分達がやろうとした事は、すっかり忘れている様だ。

　先に手を上げた事は無かった事になっている。

　まあ、頬に当たらなかったのは良かったとレイナは考える。

　あれが避けられたのだから訓練をした甲斐があったのだろう。

　訓練前の自分なら叩かれていたはず。

　ニコラとサムエルに訓練の成果を報告しなくてはと、レイナは的外れな事を考える。

「レイナには王家の影が付いているのだが、確認してみるか？」

「「えっ！」」

「！？」

　イーサンはフォローしてくれているのだろうという事がレイナには分かった。

　明らかに動揺する二人の令嬢。

　いつの間に影なんて人間が付いていたのだろうとレイナは驚くが、国を追放された娘なのだから監視は当然付く。

　もしレイナが王族の害になると判断されれば処理されるだろう。

　王宮を自由に歩かせて貰っている代償としてレイナは納得せざるを得ない。

　王族に仕える影は主に絶対服従であり忠義に厚い。

　そんな影の存在の発言は王族にとって疑いようの無い真実だ。

　一部始終を見ていた彼らが発言すれば、レイナ達が言っている事の正否は分かってしまう。

「お嬢さん達、嘘をついたなら早めに言った方がいいぞ」

「「！？」」

　バレンも続く。男性陣二人はレイナの言った事を信じている様だ。

「二人共、嘘を言ったのですか？」

　クリスティーナは悲しそうな表情を見せ二人を問いただす。

　言われた者が居たたまれない気持ちになってしまう、そんな表情をクリスティーナは令嬢達に向ける。

　敬愛するクリスティーナからそんな目を向けられれば令嬢二人も、渋々だが口を開くしかない。

「……あの娘がイーサン様に付きまとっていると聞いたので忠告しました」

「婚約者であるクリスティーナ様がいらっしゃるのに……」

「ですから懲らしめようと叩いて野菜を踏もうとしました」

　本当の事を令嬢たちは吐露する。

　クリスティーナの目を見れば嘘は付けないのかもしれない。

　彼女にはそんな威厳がある。

「そう……。分かったわ」

　そう言うとクリスティーナはレイナに近づいてきた。

「申し訳ありませんレイナさん。わたくしの友人達が大変な失礼を」

　そう言うとクリスティーナはレイナに頭を下げる。

「いいえ！　クリスティーナ様、頭を上げてください！？」

　突然の事にレイナは驚く。

「友人がわたくしの為を思ってやってしまった事です」

「わ、分かりましたから」

「許していただけるのですか？」

「は、はい。大丈夫ですから気にしていません」

「そうですか……ご慈悲に感謝いたします、レイナさん」

（もう、心臓に悪い）

　クリスティーナに頭を下げさせるなんてとレイナは恐縮する。

　申し訳ない気持ちになり冷や汗が出るのを感じる。

　令嬢二人もレイナに頭を下げる。

　レイナも殴られた訳でも無いので、それ以上どうこうしてもらうつもりも無い。

　躱せたし問題ない。

「レイナ、少しいいか？」

「はい」

　イーサンがレイナに声を掛ける。

　もしかしたら頼んでいた魔導具が出来たのかもとレイナは思うが、それにしては真剣な表情のイーサン。

　何かあったのだろとレイナは察する。

　レイナはイーサンに続き付いていく。