第11話 メイド服はテンション上がりますね

「まあ、割と似合っているかも」


 レイナは一人で着替え終えてから鏡に映る自分の姿を眺める。

 白と黒を基調とした服装はザ・メイドという感じだ。

 茶髪と茶色の瞳のメイド服姿の自分にレイナは新鮮さを感じる。

 元が美少女のリーネだから、この服装でも似合っているとレイナはリーネに感謝する。 


 メイドの仕事は色々とやる事が多い。


 挨拶やお辞儀、お茶の入れ方から始まり炊事、洗濯、掃除に給仕、部屋の模様替えや花の交換、照明魔導具調整等々、覚える事ばかりだ。


 メイド長は厳しい人物だが根は優しい人で丁寧に根気よくレイナに指導した。


 覚えることが沢山あり、あっという間に数日が過ぎる。


「レイナ、少しは仕事に慣れてきた様ですね」

「はい、メイド長。皆さん優しく教えてくださいますので助かります」


 先輩達には始めイーサンとの関係を色々と聞かれたが、家を追い出されて盗賊に襲われている所を助けて貰ったと伝えると皆、納得した様だ。

 ここにいる先輩達にも事情は色々あるので、それ以上深くは追及されなかった。


「イーサン様ってかっこいいわよね」

「ええ、素敵よね」


 メイドの先輩達はよく噂をしている。

 イーサンはメイド達からの人気も高い。

 まあ、あれだけのイケメンなら仕方がない事なのだろうとレイナは納得する。


 しかも文武両道で第一王子という隙の無さ。

 人気が無い訳がない。


 婚約破棄に追放されたレイナから見たら、世の中は不公平なんじゃないかなとレイナは嘆く。

 実際はその通りであり生まれながらに不平等はある。

 それでも生きていかなければならないのは世知辛いなとレイナは考えてしまう。


「レイナ、その恰好似合っているじゃないか」

「あ、ありがとうございます」


 だからイーサンに、そんな風に笑顔で声を掛けられたらレイナは困ってしまう。

 先輩たちのイーサンに向けられていた熱い視線が、冷たい視線となりレイナに向けられる。

 視線で穴が空くのではないかと、レイナは本気で考えたぐらいだ。

 しかし服装を褒めに来た訳ではなかったらしい。


「今度、ニコラの面倒を見てもらいたい」


 他に会いに来た理由があったようだ。

 先輩達にも申し開きが出来るとレイナは少し安心する。

 

「ニコラ様のですか?」

「ああ、そうだ」


 ニコラはイブライン王国の第五王子でイーサンの弟だ。

 11歳になったばかりであり、年齢よりも大人びた印象がある。

 年齢的には子供だがなかなかの人物だ。

 その人物の世話をレイナは言いつけられた。


「メイド長には話は通してある。詳しくは聞いてみてくれ」

「かしこまりました」


(うーん、なんだろう。ニコラ様のお世話って。新人の私でいいの?)


 レイナがそう思うのも無理はない。

 普通なら王族に付く使用人が新人などあり得ないはず。

 教育された人物が付くのが同然だろう。

 とりあえずメイド長に話を聞いてみないと分からないが、レイナとしては雇用主の意思に逆らえるはずもない。


 一般的に王子からメイドに直接声を掛けられることは稀だ。

 だから、その後先輩たちから羨ましがられて、もみくちゃにされたのは仕方がない事だろう。


「ええ、依頼は受けています。貴女には明日からニコラ様の担当になっていただきます」

「はい。メイド長、でも新人の私でよろしいのでしょうか?」

「イーサン様からの御指示ですからね。それに身の回りのお世話だけですし、今まで覚えたことをやればいいだけです」

「分かりました。やらせていただきます」


 疑問は残るが身の回りの世話だけなら何とかなりそうだと、レイナは覚悟を決める。


「しかし貴女は一体何者なんでしょう? イーサン坊ちゃんがこれだけ目をかけるなんて初めての事ですよ」

「何者と言われましても。えっ、坊ちゃん! ですか……」


 メイド長がイーサンの事をそんな風に言う事に違和感を感じレイナは質問する。


「ええ、わたくしは生まれた時からお世話させていただいていましたからね」

「さ、流石ですメイド長様!」


 そんなに前からこの家に仕えていたのかと驚くレイナ。

 若々しい容姿なのでメイド長がそこまで年齢がいっているとは思っていなかった。


「ですからわたくしには分かるのですよ。坊ちゃんがこれだけ女性に興味を持ったのは初めてかもしれません」

「そ、そうなのですか」


 そんなこと言われても困るのだがレイナとしても理由は分からない。

 ただイーサンが良くしてくれているのはレイナでも分かる。


「ふふ、まあいいでしょう。明日からお願いしますね」

「はい。承知いたしました」


 イーサンの為にもニコラのお世話を頑張ろうとレイナは自分を鼓舞した。

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