第7話 先が見えないって不安ですね

 あれから数日が経ち肩の傷も癒えた。

 動かしても痛くない。

 結局、ずっとイーサンのところで世話になっているとレイナは反省する。


 自立すると言って意気揚々と出て来たのに、この有様じゃあ自分が情けない。

 何とか生活費ぐらい稼がなければならないだろうとレイナは思う。


「やあ、だいぶ傷は良いみたいだね」

「あっ、イーサンさ……イーサン。お陰様でよくなりました」

「そうか。それは良かった」


 イーサンって呼ばないと睨まれるのでレイナは呼び捨てにする。

 どうかとは思うのだが本人の希望なのでレイナは甘えることにした。

 呼び方はどうであれ、彼に感謝する気持ちは変わらない。

 レイナは自分に言い聞かせる。


「何かお礼に私が出来る事はないでしょうか?」


 面倒を見て貰っているのだから、レイナがイーサンの為に何か役に立ちたいと思うのは当然だろう。


「レイナはどこか遠い国で商売でもやりたいって言っていたね」

「はい」


 イーサンには婚約破棄された事、自分の国を追放された事を話している。

 レイナは命の恩人に嘘を言うのが忍びなかった。

 だから本名がリーネ・アルソフィであることも伝え、名前を変えてレイナとして生きていることもイーサンは知っている。

 全ての事情を初対面の人間に話してしまうのもどうかと思うけれど、イーサンには不思議と何でも話せてしまった。


 ただ、【拒絶と吸収】の能力は話さなかった。

 よく分からない能力なので、自分でももう少し確認出来たら言おうとレイナは考えている。


 婚約破棄された理由の不貞行為はなかったとイーサンは信じたのでレイナは安堵する。

 商人になって自分で稼ぎたい事も伝えており、自立を目指すとレイナは息巻く。

 そんなレイナの宣言にイーサンが水を差す。


「しかし、商人になるとしてもレイナは余りにも弱すぎるな」

「ぐっ! 確かに……」


 盗賊に襲われてあたふたしていたら商売なんか出来ないだろう。

 この世界治安が悪いという事は身をもってレイナは経験した。

 買い付けなどで遠出する場合、毎回護衛を雇えればいいが、今回の様に護衛がやられてしまう場合も有る。

 自衛手段、せめて逃げ切れる力は必要だとレイナは思う。

 

「しかも追手に追われているのかもしれないのだろ?」

「うん。私の思い過ごしかもしれないけれど……」

「いや、そのローラン王女の立場からすれば、レイナを亡き者にしたいというのは可能性的に高いと思うぞ。追手を放っていてもおかしくはない」


「ううっ」


 そんな自信満々に言わないで欲しいと思うが、しかし可能性はあるかもしれないと、頭のどこかでレイナは理解してしまっている。

 だけど自分を殺しに来る相手がいるなんて考えたくもないと、レイナは頬をひくつかせて嫌そうにイーサンを見た。


「もしかしたらこの前の盗賊達もレイナを追ってきた人物かもな」

「もう! じゃあどうすればいいのよ」


 やけくそ気味にレイナはイーサンに八つ当たりをする。

 そんなレイナの怒気も軽くいなしてイーサンはある提案を投げかけた。


「そうだな。うちでメイドをやりながら強くなれる様に訓練してみるっていうのはどうだ? もちろん給金は出すよ。訓練の費用はそこから引かせてもらうけど」


(えっ、給金出るんだ! さらに訓練させてもらえるなんて)


 好条件かもしれないとレイナは考えを改めイーサンの提案を深堀していく。


「メイドってこの家でやるのですか?」

「いや、ここは仮拠点だからね。本国の家で仕事をしてもらおうかと思っている」

 

 イーサンはメイドを雇うぐらいだから生活に余裕があるのだろう。

 騙されて売り飛ばされたりする可能性は低いかもしれない。


(危なかったら逃げ出せばいいかな?)


 そんな考えがレイナの頭の中を巡る。

 だからレイナは、つい聞いてしまう。


「イーサン、私に変な事しないよね?」


 イーサンはレイナの言葉に目を丸くする。

 まさかそんな事を言われるとは想像していなかったのだろう。


「ふふ、レイナは面白いな。はっはは」

「そ、そんなに笑わないでよ! ほら、私にとっては死活問題なんだから!」


 先日も盗賊に襲われたレイナにとっては重要な事だ。

 必死になるのも仕方がない。


「ああ、すまない。君に酷い事をしないと誓うよ」

「本当に?」

「ああ、本当だ!」


 じっとイーサンの目をレイナは見つめる。


(うわっ綺麗な瞳! 吸い込まれそう!)


 見てもイーサンの真意は分からないが、瞳が綺麗なのは分かったと的外れな事をレイナは考える。

 解決できるいい案がないので選択肢は一つしかないのだろう。

 

「分かりました。よろしくお願いいたします。お世話になります」

「ああ、よろしく」


 レイナはイーサンの提案に乗る事にした。

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