第6話 出会いは突然ですね

 気が付くとそこは知らない天井だった。


(えっと、ここはどこ? というか私どうしたんだっけ……)


 盗賊に襲われて毒の矢にやられた事をレイナは思い出した。

 がばっと起き上がった瞬間に右肩に激痛が走る。


「くっ、痛たた……」


 右肩を押さえてレイナはうずくまる。

 痛みが残っているが傷跡が無いので誰かが治療してくれたのだろうとレイナは理解する。

 矢が刺さった傷がこんなに綺麗に治る事にレイナは感動してしまう。


「やあ、気が付いたかい。傷は塞いでおいたけど痛みは残るからね。無理して動かない方がいいよ」


 声の方を向くと盗賊から助けてくれた人物が、心配そうにレイナを見ていた。

 そんな顔も絵になるなとレイナは考える。


「あ、ありがとうございます。助けていただいた上に……、解毒と治療までしていただいて……」


 しかしお礼を言わねばならないと言葉を絞り出す。

 レイナ一人だったら危なかったのは間違いない。

 リーネは解毒剤も【インベントリ】に入れていた。

 でもあんな状態で自分に毒の治療をするなんて出来ないだろう。

 解毒剤を持っていても使えなければ意味が無いなと、レイナは解毒して貰った事の感謝を、助けてくれた人物に伝える。

 

「こちらこそ助かったよ。君が矢の射線上からずらしてくれなければ、俺も危なかったかもしれない」

「ずらす? ああ……」

 

 何かが光った時にレイナが彼を突き飛ばした事だ。

 レイナとしては、とっさにやったことなのでよく覚えていないが、矢が当たらなくて良かったと安堵した。

 あんなのが背中に当たっていたらと思うと、レイナはぞっとして寒けを感じる。


「君が助かって良かった。でもね解毒剤は使っていないんだ」

「えっ? 使っていない? 毒矢じゃなかったのですか?」


 おぼろげな意識の中でそんな風に聞いた気がしたのだが自分の勘違いだったのかもしれないとレイナは思い直す。

 

「いや結構強力な毒が塗られてたみたいだ」

「はあ」

 

(だから解毒剤を使ってくれたん……ですよね?)


 自分では解毒剤を使っていない。

 それは間違いないので彼に言われた事は理解できず、レイナの頭には疑問が広がる。

 そんな強力な毒に解毒剤を使わなかったら、いま普通に話せるのはおかしい。

 もっと寝たきりになっているとか死んでいるかのどちらかだろう。


 だからレイナは曖昧な返事を返してしまう。

 そんなレイナの疑問を察したのか彼は続ける。


「解毒剤を使おうとしたら、もう治っていたんだよ。これは【鑑定】出来る者が診たから間違いない」

「治っていた? ……どういうことでしょうか?」


 もやもやするが、レイナは次の彼の言葉を待つ。


「あの時、君の体が光ったんだ。その時に治療されたんだと思う。多分、君が自分で治したんじゃないかな」

「治療? 私がやったというのですか?」


 確かに、あの時毒はいらないとか言っていたのは覚えている。

 しかしそれが影響したのかと言うとレイナは首を捻ってしまう。


「だけど【鑑定】の結果、君は解毒のスキルを持っていない。だから不思議なんだ」

「そうなんですね。不思議ですね」


(たぶん【拒絶と吸収】が毒を中和してくれたって事かな?)


 自分の持っている能力では他に考えられないのでこれだろうと、レイナは正解に辿り着く。


 そしてレイナの能力【拒絶と吸収】は他人からは【鑑定】スキルを使っても見えないという事だ。

 よく分からない能力ね、とレイナは思う。


 その時、銀色の髪がサラッと流れた。

 レイナは気が付き髪に触れて髪を見る。


「あれ、私……」


 胸に手を当ててレオンに貰ったネックレスを触ろうとしたが無い。

 

「ああ、ネックレスならそこのテーブルに置いておいたよ。それ認識阻害の魔法が込められているね」


 凄い、見ただけで分かるんだ。

 自分が見ても只のネックレスにしか見えない。

 彼のスキルか何かの能力なのかもしれないと、レイナは自分を納得させる。


「はい。銀髪と赤い瞳が目立ってしまうから隠す為に、兄が魔導具を持たせてくれました」

「そうなのか」

「私の故郷ではこの色は忌み嫌われていました。だから隠していたのですけれど……」


 髪を触りながらレイナは言う。


「そうなのか? 綺麗な髪色だし俺は今の姿も素敵だと思うけどな」


(くっ、このイケメンさんは恥ずかしげもなくサラッとそんなことを言う!)


 何人の女性を骨抜きにしてきたのか。

 そんな事を考えつつレイナは疑問をぶつける。


「こ、この容姿が気持ち悪くないのですか?」

「ん? とても綺麗だと思うよ」

「そうですか……ありがとうございます」


 彼にはレイナが住んでいた所の人達の様な偏見は無い様であり、レイナは自分が認められた様で嬉しい気持ちになる。


「そういえば紹介がまだだったね。俺はイーサン・イブラインと申します」


 少しおどけた感じで彼は名乗った。


「し、失礼いたしました。私は……レイナです。レイナといいます」


 病み上がりとはいえ、助けて貰っておきながら自分から名乗りもしない失礼さにレイナは自分を恥じる。

 どもってしまうのは仕方がない事だろう。

 でもリーネと本名を言わなかったところをみると、レイナは意外にも冷静だった。


「レイナかいい名前だ。よろしく」

「今回は色々とありがとうございました。イブラインさん」

「ふふ、イーサンで構わないよ」

「じゃあ、イーサンさん?」


 何だか言いにくい名前だが、さん付けは必要だと思いレイナは言う。

 疑問形なのは愛嬌だ。


「はは、イーサンで大丈夫だよ」


 その時、レイナのお腹がグーと鳴る。

 

(ひぃー、私のお腹空気を読んで欲しい! は、恥ずかしい、恥ずかし過ぎるよ!)


「ふふ、食事を用意させよう。少し待っていてくれ」

「あ、ありがとうございます」


 羞恥に悶えていたレイナは、礼を言うのが精いっぱいだった。

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