第3話 名残惜しい人もいますね

「早く旅の準備をしないと」


 リーネは手当たり次第に必要そうな物を【インベントリ】に入れていく。

 【インベントリ】はリーネが持っている能力だ。

 収納出来る量は多いのでどんどん入れていく。

 食べ物や洋服、食器、テーブル、ベッドありとあらゆる物を。

 悩んだら入れてしまう。


 動きやすい服装に着替えて玄関へと急ぐ。

 するとレオンが待っていてくれた。


「リーネ、餞別だ。これを持っていけ」

「ありがとうございます、レオンお兄様」


 短い剣とネックレスそして金貨が数枚。


「このネックレスは?」

「それは認識を阻害する魔導具だよ。リーネの綺麗な髪と瞳は目立つからね。それで隠して行きなさい」


「ありがとうございます」


「でもリーネは昔から魔導具を壊してしまう体質だからな。気休めにしかならないかもしれない」

「それなら大丈夫ですわお兄様。時間が無いので詳しい事は省きますけれど、私の能力のせいだと言うことが分かりましたの。ですからもう壊す事はありませんわ」

「能力? そうなのか」


 レオンはリーネを抱きしめて言う。


「道中気を付けてな」

「はい。レオンお兄様もお元気で……」


 名残惜しいけれど、急がなければいけない。

 リーネの中で警鐘が鳴る。

 嫌な予感が。

 王都から一刻も早く離れ、違う国に行かなくてはならないと。


 この時王太子からの刺客がリーネを亡き者にしようと準備をしていた。

 将来、必ず私が邪魔になるからと、ローラン王女にそそのかされて準備していた様だ。

 リーネはこの時、知る由もなかったが嫌な予感は的中していた。



 何とか荷馬車に乗ることに成功する。

 結構な距離を進んだのでリーネは一息つく。


「ふう」


 ずっと緊張していたのも仕方ないだろう。

 リーネはとりあえずは街を目指して、そこから違う国に行く計画を立てた。

 隣国はまずいのでもっと遠くで大きな国。

 王太子達の目が届かない所へ。

 自由に生きていける場所を探そうとリーネは決意する。


「お嬢さんは冒険者なのかね?」


 荷馬車に乗っていた老人が声を掛けてくる。

 旅人の格好をしていて剣を装備しているリーネを見てそう判断したのだろう。

 

「いいえ、旅をしている者です」

「そうですか。私は商人をしております、ノートンと言う者です」

「ええっと、私はリー……レイナといいます」

 

 これからは新しい自分として、リーネではなくレイナと名乗る事にした。

 政略結婚をさせられる令嬢としてではなく一人の自立した人間として。

 それが第一歩だとリーネ改めレイナは心を決める。

 

 生きていく上で商人はいいかもしれないとレイナは思う。

 【インベントリ】と【鑑定】の能力があるなら出来る職業だろうと。

 

「レイナさんは何処に行かれるのですか?」

「とりあえずは隣街まで行こうかと思ってます。ノートンさんはどこか良い宿をご存じですか?」


 女性に野宿は厳しいから出来れば宿に泊まりたいと思いリーネは商人に確認する。


「ええ、私が贔屓にしている宿で食事も美味しい。よろしければ、ご紹介いたしますよ」


 ノートンは旅に慣れているのか、間髪を入れずレイナの問いに答える。


「本当ですか、是非お願いします!」


 商人が泊まる部屋が高いのか見当も付かないが、レイナには全く当てがないのでノートンの提案をありがたく受ける事にする。


「それからこの薬草は売れますか?」

「ああ、アンブロウ産の薬草でしたら他国なら高く売れますよ」

「そうなんですね」


 薬草は以前にリーネが保管していた物が数多く【インベントリ】に入っている。

 お金に困ったら売ってしまおうとレイナは決める。

 

 その老人は商人ということもあり物知りだった。

 この品物はあちらで買ってこっちで売る等。

 街に着くまで有益な情報をリーネは教えて貰う。


 レイナの旅は上々の滑り出しに見えた。

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