第2話 旅の準備しなきゃいけませんね

「という事でレオンお兄様、私は王都を去ることになりましたわ」


 レオンはリーネの腹違いの兄でありリーネは結構可愛がって貰っていた。

 リーネもレオンのことは慕っていたので、ここを去る前に挨拶しておこうと思いここに来る。


「どうしてそんなことに。リーネが不貞など働くわけがないのに!」


 レオンはリーネがそんな事をするはずがないと信じている。

 それだけでリーネは心が少し軽くなる気がした。


「ありがとうございます。お兄様、追放されてしまいましたけれど、なんとか頑張って生きてみますわ」 

「くっ! 父上と母上は何と言っているのだ?」

「父上とお義母さまは殿下に婚約破棄され追放される者など、もう娘ではないと仰っていましたわ」


 リーネは妾の子であり母親がレオンとは違う。

 リーネの容姿は銀髪で赤い瞳をしている。

 親、兄弟達とは全然違うので母親似なのだろう。


 それもあってか義理の母からは愛情を与えては貰えなかった。

 父親も正妻である義母に気をつかいリーネを表立って可愛がってはくれない。

 他の兄弟たちも同様であり、唯一レオンだけがリーネの味方だった。

  

「なんてことだ……すまない。何も出来ない兄を許してくれ……」

「私は平気です。何とかやってみますわ!」


 とは言うものの正直困っており、リーネには行く当ても何もない。

 だが何とか生きていくしかないとリーネは自分に言い聞かせる。


「これからどうするんだ?」

「はい。とりあえず急いで旅の準備をしたいと思います」


 しかし16歳の女の子が一人で旅をするには中々厳しい世界だ。

 でも『神木れいな』は気付いた。

 転生の記憶を思い出した時にリーネの中に眠る能力を。


 リーネはなぜか昔から魔導具などをよく壊してしまっていた。

 その時は分からなかったが、記憶が戻った『神木れいな』としてリーネを見た時に理由が分かった。

 【拒絶と吸収】という能力のせいであるという事が。


 この能力の誤作動により魔導具が破壊されていたのだ。

 リーネは能力を知らなかったので上手く使う事が出来ていなかった。

 この能力を使いこなせれば、この世界を一人でも生きていけるかもしれない。

 急いで能力を解明しなくてはとリーネは思う。

 


「リーネ、お前王都を追放されるらしいな?」


 振り返ると一番上の兄がいる。

 長兄である彼とはリーネにはいい思い出はない。

 何かにつけてリーネをいたぶるサディスティックな一面がある人物だ。

 レオンと比べて、どうして兄弟でこんなにも違うのか。

 リーネも特に苦手としている。


「はい。お兄様……」


 無視する訳にもいかず、答える声が硬くなるのは仕方がない事だろう。


「ふん。気やすくお兄様とか呼ぶな! 貴様はもうこの家の人間ではない。これからはアルソフィ家の名前を語ることも許さん!」


 兄にそんな権限があるのだろうか?

 仮にも妹が追放されると言うのに気遣う言葉も無い。

 だけど、だからこそ兄に対して能力を使う事に躊躇しないで済むと、リーネは心を決める。


「わかっておりますわ。今後私がアルソフィの名を語ることはございません!」

「ふん、生意気な! とっとと失せるがいい」

「二度とお目にかかることはないでしょう。失礼いたします!」


(ふう、なんて兄だ)


 何とか気丈に振舞えたのはリーネの意地か、俯瞰で見ている『神木れいな』だからなのか分からない。

 でもリーネは何とか能力を使用する事に成功した。


 スキル【鑑定】を獲得!


 頭の中にこんな言葉が浮かぶ。

 獲得したスキルはレイナの兄が持っていたものだ。

 

 リーネの能力【拒絶と吸収】で得ることが出来た。

 何かが起こるだろうとリーネは思っていたが、能力を使用した事は正解だ。

 能力を奪ったのかコピーしたのかはリーネには分かっていない。

 兄に変化は無いので多分コピーしたってのではないかとリーネは自分の中で帰結する。

 

 でも分からないからこそリーネは一番上の兄に使用した。

 スキルを奪ってしまって兄が使えなくなっても、リーネとしては罪悪感がない。

 まさかリーネも【鑑定】スキルが吸収出来るとは思っていなかった。

 

「ありがたく使わせて貰いますね」


 少し嫌味を含んだ言葉を、リーネは兄に聞こえない様につぶやく。


 【鑑定】は物の価値が解る能力だ。

 これを使えば金が稼げる可能性が上がり一人でも暮らしていける。

 良いスキルを貰えてラッキーだとリーネは思う。

 これだけはお礼を言いたい、一番上の兄にリーネは初めて感謝した。

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