友達との帰り道

@kazuwako

あくる日の夕方

 夕日が町を照らすころ、歩道に2人の小学生が歩いていました。2人の名前は咲希と真希。赤いランドセルが咲希で、水色のランドセルが真希です。2人はとても仲良しで、学校や登下校中はもちろん、休みの日もよく一緒にいます。

「私たちは一生の友達だよ。」

と言うほどの仲です。

 咲希が、真希に言いました。

「真希ちゃん、私、髪切ったんだけど、変じゃないかな?」

「変じゃないよ。短い髪も似合ってる。」

「そっか。良かった〜。でも、真希ちゃんの長い髪も素敵だよ。」

「そう?ありがとう。」

 すると真希が、思い出したように言いました。

「そういえば、今って逢魔が時だよね。」

「おうまがどき?」

「逢魔が時っていうのは、昼と夜とが移り変わる時間帯のこと。昔は電気が無いから、人々は真っ暗な夜を恐れていて、だんだん暗くなる時間帯、つまり夕方を、禍々しい時間だと感じていたらしいの。」

「つまり、何かが起きそうな不気味な時間帯ってこと?」

「そういうこと。」

「さすが真希ちゃん!そんな難しい言葉も知ってるなんて、やっぱり物知りは違うね〜。」

真希は、学年の成績で1位以外になったことがないのです。

「でも咲希ちゃんは、運動神経バツグンじゃない。」

一方で咲希は、体力テストで1位以外になったことがありません。

「これはたまたまだよ。真希ちゃんは努力で勝ち取った1位だけど、私は生まれつき運動が得意なだけ。」

「それでもすごいよ。だって、50m走7秒台でしょ?20mシャトルランは200回を達成して、みんなが驚いてたし。」

「真希ちゃんだってすごいよ。中学生になってから受験のために勉強を始める人ばかりなのに、今のうちから勉強に打ちこんで、成績は常にトップだよ。私なんか、別の意味で成績トップなのに。」

(ワーストだなんて自分で言うのもつらい…。)

真希は、そんな咲希の気持ちに気づいたかのように言いました。

「それでも、だんだん点数は上がってるじゃん。」

「そうだよね!あ、そういえば、今日返された漢字のテスト、29点だったよ。もうちょっとで30点だったのに…。真希ちゃんは何点だった?」

「私は100点だったよ。」

「さっすが!」

「すごいね…。」

「?…ねえ、咲希ちゃん、今、『すごいね。』って言った?」

「えっ、言ってないよ。真希ちゃんじゃないの?私は『さっすが!』しか言ってないし…。」

「私が言ったら、文章がおかしくなっちゃうよ。」

「あ、そっか。じゃあ今の声は?」

2人は、周りを見回してみました。しかし、誰もいません。それもそのはず、2人は委員会の仕事で遅くなってしまい、もう他の小学生はみんな帰った後なのです。

「なんか怖いね…。」

「うん…。ちょっと急ごう。」

2人は、小走りで進み始めました。

 やがて、3分ほどが経過し、真希が言いました。

「咲希ちゃん、私思ったんだけど…。」

「なに?」

「さっきからずっと、同じ場所を走ってる気がするの。」

「そんなわけ…。」

「だって私たち、学校から家まで歩いて5分でつくはずなのに、全然つかないし。それに、さっきからずっと、このポストを見てる気がするわ。」

「確かに…。」

「もしかして、迷子になったとか…。」

「いやいや!いつも通ってる道だよ。迷うわけがないよ!」

「だとしたら、今いったい、どういう状況なの…。」

「…ちょっと、休憩する?」

「うん…。」

2人は、そばにあったベンチに座りました。真希は公園の水を飲んで、喉をうるおしていました。咲希は不安なのか、辺りをキョロキョロと見回しています。

 ふいに、咲希が言いました。

「そういえば真希ちゃん、今って…えっと…『馬が時』?だったっけ?」

「『逢魔が時』。」

「もしかして、オバケのしわざなんじゃあ…。」

「オバケなんて、いないわよ。」

「そう…だよね。オバケなんていないいない!」

「ここにいるよ…。」

「へっ?」

幻聴かと思ったのでしょう。咲希は、目を見開きました。真希は、きをまぎらわすかのように、長い髪をいじっています。

 咲希は、言いました。

「ここも危ないかも…。そうだ!」

「何か考えがあるの?」

「近くの神社に行こうよ!ここからそう遠くないし、神社についたら、オバケは逃げるに違いないよ!」

「オバケなんていないと思うけど…。まあでも、道を変えたら家につくかも…。」

「早く行こう!」

咲希はそう言い、真希の手をとって、走り出しました。

「ち、ちょっと咲希ちゃん!速い!速すぎっ!」

 ようやく、神社に到着しました。咲希は言いました。

「真希ちゃん、ついたよ。ごめん、つい全力で走っちゃった…。ってあれ?」

咲希は、目をぱちくりさせました。それもそのはず、真希の姿がないのですから。

「真希ちゃーん!どこにいるのー?聞こえたら返事をしてーっ!」

「……。」

「真希ちゃーん!」

「……。」

咲希は、何度も真希の名前を呼びました。しかし、返事は少しもかえってきません。

(私のせいだ…。真希ちゃんに合わせたらよかった…。)

咲希はそう思いました。そして、もう一度、

「真希ちゃーーーん!」

と、叫びました。…やはり、返事はありません。

「そんな…。もう、真希ちゃんに会えないの…?」

そうつぶやいた途端、咲希のほほを、ひとすじの涙がつたいました。

 そこで、咲希は思いました。

(真希ちゃんは賢いから、待っていれば来てくれるかも…。)

咲希は、真希を待つことにしました。

 10分ほどたったでしょうか?日没がすぎ、辺りは真っ暗になっています。真希は…来ませんでした。咲希はこの10分間、そばにあった椅子に座っていました。暗くなっても真希が来ないので、咲希は決心しました。

「真希ちゃん、待ってて!」

そう言い、神社の外へ走り出しました。真希を探しに行ったのです。

 咲希は、あらゆる場所を探しました。学校の近く、公園の周り、交番、コンビニエンスストア…。神社にも一度戻りました。

 咲希は、ある2つのことに気がつきました。

 1つ目は、真希どころか、誰も道にいないということ。

 2つ目は、こんなにも走り回ったのに、一度も自分の家、真希の家を見なかったということ。

 疲れ果てた咲希は、道端に座り込みました。

「どうして…。」

ふいにそうつぶやきました。そして、涙が一粒、また一粒と、こぼれ落ちていきました。

「暗い…怖いよ…。誰か…真希ちゃん…。」

おそらく時計の針は、まもなく6時を指す頃でしょう。おまけに、今は冬。徐々に寒さが増してきます。それはまるで、恐怖を感じたときの寒気のように…。

 昼間は暖かかったので、咲希は上着を持っていません。寒さに震え、ついには動けなくなってしまいました。

「真希、ちゃん…。」

そして、咲希は倒れ込みました。


 バサッ。咲希の体に、何かがかぶさりました。暖かく、ふわふわしています。

「起きて。友達は、あなたのすぐそばにいる。」


 謎の声が聞こえてから、5分がたちました。

「…ちゃん。咲希ちゃん!」

(真希ちゃん…?)

咲希は、うっすらと目を開きました。そこには、真希の姿が。

 咲希は、こんどはしっかりと目を開きました。その姿は間違いなく、真希でした。

「あっ、真希ちゃん!」

「よかった、気がついた…。大丈夫?心配したんだよ?」

「それはこっちのセリフ!真希ちゃんが全然見つからなくて、ものすっごく心配したんだもん!」

「咲希ちゃん…。ごめんね。」

「えっ…?なんで謝るの?」

「実は私、咲希ちゃんのスピードについていけなくて、途中で手を離してしまったの。すぐに追いかけようと思ったんだけど、疲れて気を失っちゃって…。」

「そうだったんだ…。真希ちゃん、私こそごめん。」

「どうして?」

「私、あんなに探し回ったのに、真希ちゃんに気づけなかった。私が走り回ってる間に真希ちゃんが倒れたなんて、ちょっとも思わなくて…。」

「えっ?」

真希は、不思議そうに言いました。

「咲希ちゃんじゃないの?」

「なにが?」

「私が目を覚ましたら、そばにスポーツドリンクがあったの。咲希ちゃんが置いてくれたのかと思ってた…。」

「私はそんなことしてないよ。」

2人は、首をかしげました。すると、咲希は気がつきました。

「あれっ、上着…。」

咲希はいつの間にか、上着をはおっていました。

「真希ちゃん、私に上着をくれたの?」

「えっ?あげてないよ。私がここに来たときには、咲希ちゃんは上着をはおってたよ。」

「じゃあ誰が…?」

すると、トコトコと、足音が聞こえてきました。後ろから聞こえます。2人は体をピクリと震わせ、ゴクリとつばを飲み込みました。

「真希ちゃん、まさかこの音…。」

「そ、そんなはずないって…。」

2人は、おそるおそる後ろを見ました。そこには怪しい人影が!

「キャーッ!」

「キャーッ!」

2人は、声をそろえて叫びました。

「オ、オバケーッ!」

「イヤーッ!」

慌てふためいた2人は、近くに落ちている小枝や石ころを、オバケに向かって投げつけました。

「い、痛いっ!やめて、やめてよ!」

「どうだ!」

「当たったみたいね!」

「オバケめっ、かんねんしなさい!」

2人は、言いました。しかし、オバケは言いました。

「オバケ?私が?」

「えっ?」

「この声は…。」

「私よ!友紀《ゆき》!」

「ええっ、友紀ちゃん!?」

オバケの正体は、友紀だったのです。友紀は、咲希と真希の友達で、学校一の美人の女の子です。

「なあんだ。オバケは友紀ちゃんだったのか。」

「よかった。でも、どうしてここに?今日は家の用事で、学校を休んでたよね?忙しくないの?」

「撮影は終わったの。予定より早くね。来月には雑誌にのるらしいわ。っていうか、私のことがオバケに見えたの!?失礼じゃない!」

「いやー、実は…。」

2人は友紀に、ここまでのいきさつを話しました。友紀は分かってくれたようで、言いました。

「そうだったのね。それなら勘違いしても仕方ないわね…。」

「ところで、友紀ちゃんはどうしてここに?」

「撮影で疲れたから、コンビニにジュースを買いにいったの。ちょうどその帰りってわけ。」

「そっか。」

ふと時計を見ると、もう6時を過ぎていました。咲希は言いました。

「そろそろ帰らないと。」

「そうね。お母さんが心配しちゃう。」

3人は、手をつないで歩きだしました。

「そういえば、私に上着をくれたのは、友紀ちゃんってこと?」

「?」

「そうかも!ということは、私にスポーツドリンクをくれたのも?」

「友紀ちゃん!」

「友紀ちゃんのおかげよ!」

「ありがとう、友紀ちゃん!」

「え、えぇ…。」

(何を言ってるの?撮影が終わったのは、ついさっきのことなのに…。)

「そういえば、結局なんで迷子になったんだろう?」

「さあ?でも、なにはともあれ、何事もなくて良かったね!」

不思議な夕方も終わり、3人は共に歩きました。

「ここにいるよ…。私はいつも、2人を見てる…。」

 オバケに追われていることもしらずに…。  


 

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