席替えボッチの俺が転生して最強になった

棚狭 杏丞

第1話 席替え、後、死す。

「まーた、やらかした…」


 これでもかと晴れた空。そんな空とは対照的に、机の上で頭を抱え、絶望していた。


 Q.学校生活において、必要なものと言えば?


 ……A.友達である。


 勘違いが生まれそうなので一言申し上げておくが、俺には友達がいない訳ではない。


 じゃあなぜ、絶望しているかって?それは席替えでハズレを引いたからである。


           △


 俺は、佐藤遥陽(さとうはるひ)。S◯Oが大好きな高校一年生だ。


「今日、席替えあるってさ」

「マジかー、後ろがいいなー」

「でも窓側の一番後ろは嫌じゃね?」

「あー、古典めっちゃ当たるんだよなー、そこ。」


 俺の友人の工藤優馬(くどうゆうま)だ。こいつもS◯Oが好きで、いつも『ユー◯オ最高!』とか、『ユー◯オしか勝たん!』って言ってる、俺と同じS◯Oオタクだ。そんなオタク同士で、よくある下らない会話をしていると、担任の先生が入って来た。

 

「よーし、席替えするぞー」


 その一言で四隅の人達によるジャンケン大会が始まった。うちのクラスの席替えは、いわゆるクジ引き形式だ。いつもこうやって四隅の人がジャンケンをし、勝った隅から順に引いていく。そして俺はその四天王の一人としてジャンケンに臨んだ。


「おーし、じゃあ佐藤から引いてけー」


 その大会を制したのは、俺だった。つまり、俺が一番最初に引くことになったわけで。俺は先生の持つ紙袋へと手を伸ばす。たまーに番号が見えそうになるので、真面目くんな俺はちゃんと袋から目を背ける。


 ————————君に決めたっ!


 そうして俺は、紙袋から一枚の紙切れを直感で取り上げる。


「えーと、佐藤は九番だな」


 俺が引いたのは、おみくじで言うところの小吉だった。つまりは、反応に困る微妙な席だった。後ろから二番目の列で、廊下側の二番目の列。


「遥陽そこかよー!」

「遠くなる気がすんなー」

「ま、俺はどこでもいいけどね」


 俺の友人達がそれぞれ感想を言ってくる。俺は正直、友人たちと近い方がいい。だが、そんなわけにもいかないので、せめて男子が一人でも近くにいればいい。そう思った。


「あー!俺ここかー!」

「俺そこだわ」

「あー、あそこかー」


 順に引いていって、段々と決まって行く。


「よーし、じゃあこの席で決定だから、明日からこの先に座れよー」


 言い忘れていたが、このクラスでは、帰りのSHRに席替えをするのだ。


 そして俺の周りの人はだろだろうか?


「………」

「…………」


 ————————————え?


 おいおい、嘘だろ。俺の周りに友人誰一人としていないんだけど!?それどころか、男子すらいないんですけども!

 誰だよ!俺の確率操作したやつは!!?


 いくら嘆いても無駄だった。友人たちはなぜか俺とは微妙に遠い、声がギリギリ届かないところに固まってしまった。


 しかも、俺はあまり女子に対する免疫はない。なのに周りには女子しかいない。それはつまり、学校生活における、いや、人生における【詰み】なのであって。俺の心は叫んだ。


 ————あーもうやり直してえええぇぇぇ!!


 そんなこんなで俺は、栄えある席替えボッチへと昇格したのだった。


          △


 という事があって今に至る。今日はその翌日、新座席実装日だ。つまり席替えボッチとしての一日目というわけ。俺は一人頭を抱えつつ、なぜ、この称号を得たのかを必死に考えていた。


(やっぱ俺の思いは神に届かなかったのかな…)


 俺は、なす術がなかったことに気づき、席替えの神様を一人崇める新興宗教を創り出した。席替え教とでも言っておこうか。ふっ、戯言だな。


「おい、トイレ行こうぜ」

「おう」 「おけ」


 友人たちは休み時間になると俺を置いてトイレに行ってしまう。なぜなら俺はいつも机に突っ伏していて、寝ていると思われているからだ。…と予想する。


 よくあるだろう。今までよく話していたのに、席が離れた瞬間に、綺麗に話さなくなってしまうこと。それが今起こっている。


 喋りかけてくれよー、全然いいんだぞー?軽い話題とか振ってきたり、寝てるとこちょっかいとかかけても。


 だが、誰もかけてくれない。なぜなら席替えボッチだからだ。


 あー、早く席替え来ねえかなあ…


          △


 地獄の後の帰り道。俺は地域の体育館へと向かっていた。というのも、俺は小学校から中学校にかけて、バスケをしていた。だが、高校進学をきっかけに辞めてしまったのだ。しかし辞めても体は疼くので、こうやって週に一度体育館に足を運び、バスケを嗜んでいるのだ。


 ああ、やはりバスケは楽しいなあ、心が洗われるようだ。いい汗をかいたあとは、ソシャゲをしながらS◯Oを読む。これがたまらない。


 いい感じに一汗かいたので、体育館を後にする。雨が降っていたので歩いて来たが、もう止んでいるので、傘は差さずにバス停まで行くことにした。


 ああ、これからどうしようか…。いっそ真面目になってやろうかな…。


 なんて考えながらブルー◯ゥースのイヤホンで音楽を聴きながら、ソシャゲをしつつ、バス停へと足を運んでいる。今はとてもじゃないが、楽しめる気分ではない。せめてソシャゲをして気を紛らわそう。そんな考えが俺にあったせいか、俺はソシャゲに夢中になっていた。

 

 そして俺はまだ気づかなかった。今横断歩道の上に歩いていること。そして、その信号が青ではないことに。


「よっしゃ、◯極達成だ!」


 俺の中でのミッションを達成し、清々しい気持ちで周りへと注意を配る。


「———————え?」


 そして今更気づいた。自分が三途の川を渡っていることに。


「う、うわあああああああああ!!!!!!」


 俺は、どうやら死んでしまったようだ。随分ベタな死に方をしたもんだな。


 でもまさか、ニセマ◯オカートに引かれるとは、なかなかできない経験だったなあ。先頭の赤色の車のデ◯ズニーの着ぐるみを着た人に、


「オー、ゴメンナサーイ!ダイジョブデースカー?」


 って言ってるのを聞いて、死んでいったんだよな…


 いやあ、でももう何も後悔はないなあ。なんだか外が騒がしいな…俺の死体に興味を持って近づいてきたのか?


 ——テンテケテンテケテンテンテテンテン♪


 あ、やべ。起きなきゃ。

 リンゴマークの携帯の目覚まし音楽が聴こえてきた。もう朝か…今起きるから待ってろ。


「——————————は?」


 目を覚ますと、そこは布団ではなく石畳みの道に寝転がっていた。周りの建物は木組みの二階建てが連なり、西洋劇に出てきそうな人達が賑やかに市を開いていた。


「なんだここは!?」

「確か俺、バス停に向かってて…」

「あれ、俺の名前って……?」


 エマージェンシーだ。自分の名前が思い出せない。名前以外は全て覚えているのだが、それだけが何も出てこない。これもベイカーベイカーパラドクスになるのだろうか?


 確か…さ、さ、さ…とう!サトーだ!名前は思い出せないが、多分苗字はサトーだ、うん。


 やっと名前を少し思い出し、パニックから解放されてきた。よかった、危うく、『俺の名前は、キ◯ト!』って言っちゃうとこだった。どうせこの世界ならわからないだろうが。


「なんだ、このいかにもボロい服…」


 そして今の俺は、いかにもレベル一みたいな服装だった。腰には木を削った小さな剣を携えている。


 色々と目や耳からの情報量が多すぎて、パニックになっていた。そこへ…


「やあ!そんなとこに座り続けて痛くないかい?その服装から見るに…君は、この街の人ではないみたいだね。もしかしてお客かな?」


「あ、ああ…ってお前、優馬か!?」


「誰だい?そんな人僕は知らないね」

「僕は、クドー。この街に住む冒険者…になろうとしている者さ!」

 クドーとか…どっかで聞いた名前だな…。しかも顔も似ているし。


「俺は、サトーだ。(多分)駆け出しの冒険者だ。よろしくな」


 格好からなんとなく会話に繋がるように嘘をついてみる。


「冒険者!?すごいなぁ。是非そのギルドに僕も入れてくれよ!」


 ギルドって、なんかそれっぽいな。


「でもまだ、冒険者じゃないんだろ?なら無理なんじゃ—————」


「大丈夫だって!見てよ!この蒼薔薇の剣!かっこいいでしょ?これならゴブリンだって一撃さ!」


 蒼薔薇の剣、なんか青◯薇の剣に似てるなあ。なんか本当に遥陽に似ているな…。


「まあ、わかった。ギルドを組もう」


「そうこなくちゃ!じゃあ早速ギルド編成本部に行こう!」


 そうして俺たちは、ギルド編成本部とやらに向かうことにした。


「(ユー◯オ…)」


 ———ん?今なんかクドーが言ったような……




 

 






 




 







 

 

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