第2話 対価

死者と1度だけ会えるが、対価としてその人との記憶を裁ち切られ、記憶から亡くなってしまう。


それが、タチアイ人、通称裁ち会い人、日和見 タイカ(ひよりみ たいか)の仕事だ。


雑居ビルの2階、ブラウンの小さいテーブルには手のひらサイズの獏(ばく)の置物が1つに、パイプ椅子が二脚、窓は1つだけという簡素な場所。


死者と会えるが、その死者の亡くなった日が昔であるればあるほど報酬は高くなる。


1年まえなら、1万円。1年ごとに昔になれば報酬は1万円加算されていく。


1万で、短い長い想い出問わず、全ての記憶を対価で忘れる事に怯えて、10人に9人の依頼人は、日和見タイカの元を去る。


覚えて生きながら苦しむのか、1度再会して全てを忘れるのか。


人はいつだって、前者を選ぶ。

日和見タイカは、そんな人形、否、人間の気持ちが分からない。


「再会して、記憶を対価に忘れてしまえば良いのに、人間は苦しみを選ぶ。私には理解できない事だよ、そう思うだろ?」


日和見タイカは、誰もいない雑居ビルの2階で、獏(ばく)の背中を長い白い人差し指で撫でながら、静かに冷笑する。


撫でられた獏の置物の小さなつぶらな黒い瞳が少し動いた事は、ヒヨリミしか知らない。



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