3章 僕の世界の崩壊
第28話 僕の進級
今日から高校2年生が始まる。といってもクラス替えとかは無いから、教室が変わるのと、1年生の後輩が入学してくるくらいのものだ。
昨年までならば関係ないと割り切っていられたが、ラノベ同好会が部に昇格した以上、部員の募集をしなければならないので、無関係と割り切るわけにはいかなくなった。今日の放課後も校門前で部員募集のビラを配る予定になっている。
ビラ自体は春休みの間に作成済みだ。僕の押し作品である『世話役獣人は出ていかない』のキャライラストを利用した募集チラシである。結構本気で作成したので、まあまあの出来ではないかと思う。営利目的ではないので、ビラへのイラスト利用は大目に見て貰いたい。
そして、1年の時と同じく奈菜と一緒に玄関を出ると、すでに瑞樹もスタンバイ済みであった。
「おはよう、優弥」
「おはよう、瑞樹」
そして、何時もの様に俺の手をとる瑞樹。既に慣れてしまって、何の違和感も感じていなかったのだが、学校に近づくにつれて、新1年生であろう生徒達に好奇の視線を向けられるのだった。
美女と手を繋いで登校している――ここまではまあ、あり得る事だろう。しかしながら、僕の場合は、奈菜に鞄を持ってもらっている。周りから見ると、女の子に鞄を持たせて、女の子を侍られている男子だと思われた様だ。先ほどからひそひそと話をしているのだが、僕の耳が良いのか、相手の声が大きいのか、結構聞こえている。
「あの人何者なんだ。美女を侍らせてるぞ」
「全くイケてないのにな」
「周りにいるSPみたいなの何だ」
「あの人、おっぱいでけぇ。揉みてぇ」
最後の奴の顔は覚えておく。今晩呪いをかけないといけないからな。
二人は聞こえていないのか、全く気にした素振りは無い。いや違うな。この二人はこうやって周りに騒がれることに慣れてるんだ。僕の様な小物とはそもそもが違うんだ。
そんな事を考えていると、こちらにかけてくる女生徒がいた――が辿り着く前にサングラスをかけたスーツ姿の男たちに拘束されてしまった。瑞樹の見守り隊だ。彼らの動きが休み前よりも精錬されている。拘束までの一連の流れが見えなかった。
ところであの女生徒は誰だろう。お姉様助けてと叫んでるんだけど……。瑞樹を見ると瑞樹も疑問符を浮かべた顔をしている。
「
奈菜がぽつりと呟くのが聞こえた。
「奈菜、知り合いなの?」
僕が訪ねると、はっとした顔をして、
「知らないわ。早く行きましょ」
明らかに知っていますという反応をしたのだが、女生徒とは何だか関わりたくなさそうなので、その場は見守り隊に任せて教室に向かう事にした。
「待って、お姉様。お兄様は後悔されてます。もう一度話し合っていただけませんか。お願いします」
見守り隊に取り押さえられながらも、必死に訴えてきた。奈菜はそれでも無視していた。
「奈菜、いいの?」
「いい。私にはもう関係ない」
でもな。うちの制服着てるんだから、無視してもまた来ると思うんだけど……。何か訳ありなのかな。気になるけど、聞いて欲しくなさそうだし……。
登校初日からそんな事がありつつも、校舎に辿り着いた。奈菜はあれから考え事をしているのか何も喋らない。瑞樹は瑞樹で気にも留めていないのか、俺と腕を組んで離してくれない。
既に教室の目の前である。
「瑞樹、もう教室なんだけど。瑞樹は3年だから上の階でしょ」
「ふふふ」
瑞樹は不敵な笑みを浮かべたまま、僕の指摘を全く無視して2年1組の教室に一緒に入ってくる。
「優弥と一緒に居たかったから留年したんだ。私はもう一度2年生よ」
「……」
呆れて何の声も出せなかった。そこまでするのか。留年なんてしたら進学の時にマイナスにしかならないというのに。瑞樹の場合は関係ないかもしれないが。
「今日からまたクラスメイトだね。よろしくね。優弥」
「あ、ああ。こちらこそよろしく」
「おはようございます。朝からお熱いですねお二人とも」
教室に入るなり一条君が声をかけてきた。
「おはようございます。一条君、今日からはクラスメイトとして宜しくね」
「はい、お話聞こえておりました。こちらこそよろしくお願いします」
「七瀬さんも、本日もお美しく――って七瀬さんどうされたんですか?」
様子がおかしい奈菜に気がついたらしく質問をしてきたが、僕にも理由までは分からないので、朝の経緯を軽く伝えておく。
一条君はこっそりと伝えてくれた。
「その子が何者なのか調べておきますね」
それはありがたい。交友関係がほとんどない僕では調べようが無い。奈菜が話してくれるのを待つしかなかったのだが、一条君は友達も多い。あの子の素性くらいは調べてくれるだろう。
「頼むよ。一条君、ありがとう」
「気にしないでください。その代り、今度お家に遊びに行っていいですか」
一条君はまだあきらめて無かったのか。まあ、普段からお世話になっているから家に来るくらい別に構わない。
「いいよ。いつでも来てくれて」
余談だが僕は友達という存在を家に呼んだことが事が無い。だから家でどう接したらいいか分からないが、彼の申し出を拒否するつもりは無かった。
僕も少しは成長していかないとな。
「やった。今度遊びに行きます」
「うん。どうぞ」
奈菜に許可を得ずに決めてしまったが良かっただろうか。尤も、今の奈菜には何を言っても聞こえてないだろうけど。
何だこの、関係者ばかりを集めましたと言わんばかりの席の配置は。何者かの意志が介入しているかのようだ。
僕の右となり、瑞樹。左となり、奈菜。前、一条君。後ろ、二宮君。三枝君は一番前の席か。彼だけ離れてしまったな。落ち担当らしい末路だな。
始業式中もHRが始まっても奈菜は考え事をしているままだった。帰ったら聞いてみようかな。今日は新学期初日のため授業は無くこのHRが終われば帰宅時間だ。担任は変更なく有栖川先生だ。とても癖の強い先生だが、皆にその本性はバレていない。普段の先生は素晴らしく綺麗で美しく、とても仕事の出来る先生だ。一条君も先生の実年齢を知って腰を抜かしていた。実は彼も惚れていたそうだ。まさかの40近いとは誰も思うまい。
1年生は自己紹介等あるため、今日のHRに時間がかかるが、2年生、3年生は連絡事項を伝えて直ぐに終わる。1組にも新メンバーとして瑞樹が増えたが、留年しての増加のため、あえて自己紹介などは無かった。そんなものをしなくても、瑞樹を知らない学生は居ないので問題もない。
HRも終了したので、ビラ配りの時間だ。部室に向かおうとした所で、一条君達からチラシは彼らが運ぶので先に場所取りをしておくように言われた。確かに僕が行っても、重いものを持てる訳も無く、役に立たないだろう。
奈菜と僕は一条君達と別れ、校門前の場所を取りに行くことにした。図らずも奈菜と二人きりになったので朝の少女の事を聞いてみることにした。
「奈菜、歩きながらでいいんで、教えてくれないかな。朝の女の子とはどんな関係なの?」
お兄さんがどうとか言っていたので、他の男の姿が見え隠れするため、僕の心中も穏やかではいられなかった。端的に言うと気になって仕方が無い。これまで特定の男性と仲良くしている姿を見たことが無かったのだが、遂に恐れていた事態が発生してしまった。
そして、奈菜からの返事は……。
「優弥には関係ないわ」
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