第20話 僕の同居人は天才
「ねえ、瑞樹。約束が違うんじゃない?」
「えっ、何で? ちゃんと日曜日には家に帰ったよ」
確かに日曜日の夕方に一回家に帰ったね。で、月曜の晩(つまり今日)には家に来てるのは何でだ。
「えっとね。日曜日に家に帰ったんだけどね、私がお父様が浮気してるって家を飛び出したでしょ。そしたら今度はお母様との喧嘩が始まったみたいで。お母様が実家に帰っちゃったのよ。お父様もお母様を追っかけて行ったから家に誰もいなくなっちゃたの。だから仕方なくまたここにご厄介になりに来たのよ」
まさか、電話の時はお取込中だったのか?
「ちなみにお母さんの実家って?」
「ラトビア」
何処?
調べたら、バルト3国の真ん中の国だった。上からエストニア、ラトビア、リトアニア。首都はリガと言うらしい。
「瑞樹ってハーフ、若しくはクォーターなの?」
「全然。生粋の日本人よ」
「お母さんの実家が海外なのに?」
「なんかね、ロシア系美女を求めておじいちゃんはラトビアに移住したらしいんだけど、結局言葉が通じないから現地の大使館で働いていた日本人のお婆ちゃんと結婚したんだって」
なんじゃそりゃ。先に言葉を覚えてから行こうよ。おじいさん。僕とは違ってすごい行動力をした方だな。
「で、ご両親はラトビアに行ったと」
「うん。暫く帰って来ないと思う」
ヨーロッパの方だもんな。移動だけでも結構かかるだろうし。
「でもね、前は仕方なく泊めたけどさ、ここには未成年しかいないから、長期間泊めることはできないよ」
瑞樹はお嬢様だから、誘拐とか何か起こると危険だしね。セキュリティがしっかりしたご実家の方が安心安全だと思う。
「優弥がそう言うのは予想済みよ。チャン」
「はっ。ここに」
僕たちの背後に突然、スーツを着た男性が現れた。
「えっ、いつからここに」
「最初からおりましたよ。気配を絶っておりますゆえ、お気づきにならなかったのかと。南雲様、先日はお嬢様が大変お世話になりました。お初にお目にかかります。セバス・チャンと申します。気軽にセバスチャンとお呼びください」
呼んでほしいんだ。でもセバスチャンさんって滅茶苦茶言い辛いからチャンさんだな。
「チャンさん、初めまして。今日はどうして?」
「セバスチャンって呼んでは頂けないのですね。私もお嬢様の身の回りのお世話のためにご厄介になろうかと思いまして。私の部屋は二階ですか? ご案内お願いいたします」
泊める前提で話を進めないでください。
「もう空いてる部屋ないですけど……」
「私も男性との同居はちょっと嫌だわ」
「チャン。という事らしいわ。外で寝なさい」
瑞樹、外は駄目だって。凍死しちゃうから。
「お嬢様、少々お時間を頂戴いたします」
そう言って、チャンさんは家を出て行ったが小一時間ほどで戻ってきた。
「お嬢様、解決いたしました。お隣の山田さんのお家を買い取らせていただきましたので、私はそちらから通わせていただきます」
「よくやりました。チャン。相場の倍をきちんと支払いましたか?」
「緊急のため3倍をお支払いし、新しい土地と家を提供させていただきました」
「いいでしょう。私の会社に費用請求しておいて」
「承知いたしました」
ヤバいぞ。ツッコミ所が多すぎる。どこからツッコめばいいのか。
「じゃあ、水瀬さんもそっちに住みなよ」
奈菜、それ言ったら戦争だよ。
「そうするつもりよ。私がここに住んだら、後々問題になりかねないからね」
あれ、一緒には住まなくてもいいんだ。それは助かった。
「でも食事は一緒にしたいから、準備お願いしますね」
「はっ。何で私があんたの食事を準備しないといけないのよ」
「一食千円のバイト代を食費とは別にお支払しましょう」
「雇用契約を準備して」
奈菜、折れるの早っ。
「えっと1日3千円だから月9万。デカいわね。チャン、あんたの食事は?」
「では、私も同席させていただきます」
「よし、月18万ゲット」
ちょっとした会社の初任給位になってないかそれ。奈菜の料理天才的に上手いからな。そのくらいの価値はあるか。僕も支払った方がいいのか。
「ほらよ。今日の晩ごはんのメインは回鍋肉だよ」
うわっ。やった。奈菜の回鍋肉旨いんだよね。野菜嫌いだから前までは食べた事も無かったけど、奈菜の作った料理を残すとリバーブローの刑を食らうから嫌々食べたら、意外な事に旨かったんだよな。
瑞樹とチャンさんも先ほどから無言で食べ続けている。いつも良いものを食べているであろう二人でもこうなのだから、瑞樹の腕は既にプロ級なのだろう。
「七瀬さん、貴方どうやってこのレベルの料理を作れるようになったの? 師は誰?」
「えっ、単に漫画のクッキングママ読んで覚えただけよ。料理なんてあれ読めば大体作れるようになるわよ」
ならないよ。あれは漫画にしては詳しく書いてるけど、結構端折っている所もあるんだからな。
「何よその顔は、大体の事は漫画読めば何でもできるでしょ?」
「いいや。漫画は単なる娯楽道具だよ。そりゃあ、ちょっとした雑学程度の勉強にはなると思うけど……」
「私、学校の勉強も漫画だけなんだけど?」
それは逆にどうやってるんだよ。
「国語は日本語の漫画でしょ。英語は英語版の漫画。これを見比べれば自然と分かるでしょ。物理と化学はミスターストーンで分かるし、数学は勉強しなくても日常生活で使うから自然と理解できるでしょ」
分かった。奈菜が超絶天才だということが分かった。こいつを僕たちと同じ存在だと思ってはいけない。
「この間、ネット喫茶で家建てる漫画読んだから、材料があれば家も建てられるわよ」
誰か、この子に常識を教える漫画を描いてください。お願いします。
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