トラックに跳ねられ異世界へ――は行けなかったけど、美少女が住み込みで毎日マッサージしてくれるようになりました

間宮翔(Mamiya Kakeru)

1章 僕の世界が変わった日

第0話 僕の日常は変化した

「ちょっと、その線からこっちには入らないでって言ったわよね」


 ちょっとトイレに行く為にリビングに引かれた僕の陣地と彼女の陣地を分ける境界線を跨いだだけでこれだ。

「仕方ないだろ、ここ通らないとトイレに行けないんだから、それに跨いだだけで入ってないじゃ無いか」

「だったら一声かけなさいよ。私が武器を持つ時間が必要でしょう」

 なぜ、そんな事が必要なんだ。僕を何だとお思いですか? 七瀬さん。

「だから、何もしないってば。それに僕の方が君よりも弱いじゃないか」


 僕はガリガリのモヤシ君だからね。体重も40キロしかないし。口に出して言えないけど、多分、君の方が体重も多いよね。そんな立派なものをお持ちなんだから。


「そ、そんなこと無いわよ。私は、か弱い女の子だもん」

 嘘だ。目が泳いでる。現に先日もリバーブローで僕は悶絶させられている。実に立派な角度で僕のお腹に突き刺さった。素人に打てるパンチではなかった。折角、退院できたのにまた病院へ直行するところだった。

 まあ、僕が悪かったんだけどね。ん。悪かったのかな? 今思えば、別に悪いことはしていなかった様な気もする。

 買い物から帰ってきたら、リビングでお腹を出して寝ていたのでガーゼケットをかけてあげようとしただけだ。そりゃ、そのために境界線を越えないとかけられないから、ちょっと入ったけど……。それ以来、ちょっとでも境界線を越えようとするとこんな感じだ。

 トイレくらい自由に行かせてくれよ。一応、この家の所有者は僕だよ。君は部屋を借りてる賃借人じゃないか。しかも、リビングの60%くらい君の陣地になってるっておかしくない?

 いかん。トイレに行きたいんだった。


「待って!」

 トイレに行こうとした僕をまたも彼女が引き止める。

「トイレはさっき私が行ったから5分は使用禁止よ」

 こっちは漏れそうなんだよ。消臭スプレー買ってやっただろ。当然使ったんだからいいじゃないか。

「何でだよ。君は僕の使った後でも直ぐに入るじゃないか」

「私は女の子よ。分かるでしょ」

 そういって、顔を赤らめる。

 お、おう。そうだね。僕が悪かった。女の子の後のトイレには入ってはいけない。

理解しました。

「それと私が入ってる間は、トイレに近づかないでね」

 どんだけ制限かかるんだよ。僕、ずっと部屋に籠もってないといけないのかな。


「今日お風呂はどうするの?」

 夕食を1時間かけてゆっくりと済ませて、リビングで体操をしていると彼女から声をかけられた。基本的に家事は彼女がしてくれることになっている。僕の入院する前は家事全般得意だったんだけど、今は体が自由に動かないからね。

「今日はシャワーで済ますよ」 

「先生は筋肉を解すためにも、湯には浸かった方が良いって言ってたわよ」

 まあ、そうなんだけどね。分かってはいるんだけど、面倒くさいよね。湯船に浸かるのって。お風呂は5分以内に済ませたいんです。

「私はちゃんと浸かるわよ。だから私が後に入るからね。残り湯は使わせないわよ」

 分かってますよ、そんなことは。

「覗かないでよね」

 それは、振りでしょうか。彼女に限ってそれは無いな。

「はい、はい。分かってます。部屋で大人しくしております」


 部屋に戻って、見ていなかったアニメを再生し、暫くすると、彼女が部屋へやって来た。

「さあ、始めるわよ。ベッドに横になって」

 いつも思うけど、良いのかな。こんな美少女にこんな事を毎日してもらっても。そう思いながらもパジャマの上を脱ぎ、肌着になってベッドに横になる。

 彼女はベッドで横になる僕の上にまたがってくる。

「どう、気持ちいい?」

「すごく、気持ちいいよ」

「そう、もう少し続けるわね。ん、んん」


 一生懸命、頑張ってくれているのだろう。彼女の湯上がりの顔は赤く火照っている。僕の手を握っている彼女の手の温度がとても熱くなっている。

「もういいんだよ、毎日こんな事しなくても」

「契約だもの、続けるわよ」

 そこまで、律儀に守らなくても良いんだけど……。まあ、僕は気持ちいいから最高なんだけどね。


「もういいよ。ありがとう」

「そう、満足した?」

「うん。今日の疲れもしっかり取れて、体のコリもほぐれました」

「そう、良かったわ。全快には時間がかかるって先生も言われてたし、焦っちゃだめよ」

 彼女を住まわせて、苦労することも多いけど、このマッサージで帳消しだよね。家事もしてくれるし。

「それじゃ、部屋に戻るわ。おやすみ」

「ああ、ありがとう。おやすみ」



 あーよく寝た。マッサージのおかげで、最近はすこぶる寝つきがいい。寝起きも良くなり、毎朝が快調だ。

 さて、朝の散歩に出かけるかな。


 部屋を出ると、廊下で彼女とすれ違った。

「おはよう」

「トイレは5分使用禁止よ」

 また、ですか。

「はい」


 はあ、これだからな。ついこの間までは悠々自適な一人暮しだったんだけどな。

 やっぱり失敗したかな。彼女と契約したこと。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る