12月の贈り物2

渋谷かな

第1話 12月の贈り物2ー1

「ゲームするぞ!」

 俺の名前は高橋蓮。ゲームが大好きな男の子。しかしゲーム以外の勉強や運動は大嫌い。当然、現実のリアル世界で女子にモテるはずもなかった。

「蓮! 頑張るのよ!」

 親が「ゲームなんかしないで勉強しなさい!」と言っていたのは昔の話だ。

「もっとゲームしろ!」

 バブル崩壊、リーマンショック、コロナウイルス。9割の大人は仕事を失った。もちろん我が家も父親が失業し生活保護をもらっていた。

「次の大会でも優勝だ! 金だ! 金が全てだ! おまえは自慢の俺の息子だ!」

「今度はブランドバックを買って、世界一周旅行よ! キャッハッハー!」

 ゲームはeスポーツと呼ばれ、大会の賞金は1億円を超え、勉強? プロのスポーツ選手? ユーチューバー? はゴミとなり、一番お金持ちになりやすい方法はゲームになった。


「蓮! おはよう!」

 漣が学校に向けて歩いていると、一人の少女が笑顔で走ってくる。

「なんだよ。結奈。朝っぱらから元気だな。ふわ~あ。」

 少女の名前は田中結奈。お隣さんの幼馴染で同い年。同じ高校に通っている。 

「もう、欠伸なんかして。どうせ徹夜でゲームでもしてたんでしょう?」

「仕方がないだろう!? 父さんと母さんが次の大会の賞金で世界一周旅行に行くって言うんだから。」

 意外と親孝行な蓮。

「次の大会のゲームは、ヴァーチャル・リアリティ・ワールドよね?」

「そうそう。ゲームの世界が現実の世界で好きなだけ相手を倒し、好きなだけ街を破壊しまくっていいゲームだ。」

 通称、VRW。オンラインゲームの王道のゲームだ。

「面白そう! ストレス発散に私もやろうかな?」

「無理無理。結奈が今からやっても経験値を積ませてあるプレイヤーには勝てないよ。」

「そうなんだ。初心者の部とかないの?」

「あるけど、おまえ本当にやる気かよ!?」

「やるわよ! 私だって自分のお小遣いくらい自分で稼ぐもん!」

 この時代。アルバイトをするよりゲームをして賞金を得た方が稼ぎが良かった。

「そのうちに蓮も倒すんだから! そして優勝するのは私よ!」

「無理無理無理無理。あり得ねえ。」

「そうだ! あり得ない!」

 そこに一人の男性が二人の会話に割って入ってくる。

「伊藤!?」

 現れたのは同級生の伊藤陸。こいつもゲーマーだ。

「次の大会で優勝するのは俺だ!」

「よく言うよ。こないだの大会で俺に負けたくせに。」

「あれはワザとだ! おまえとの対戦成績は100勝、100敗だからな! 今度買った方が本当の勝者だ!」

「はいはい。」

 高橋と伊藤はいつも同じ会話をしている。

「そんなことより、結奈ちゃん。ゲームをやるんだったら俺が教えるよ! こんな無愛想な奴よりジェントルマンの俺の方が優しく教えられるよ!」

「はあっ!? 回復役に爆弾を仕掛けたり、モンスターに強力な魔法を装備させたりする、おまえのどこがジェントルマンなんだ。」

 疑問点がいっぱいだ。だが、それぐらいのスキルが無ければゲーム大会で優勝はできない。それぐらい優勝賞金の金額に比例して、プレイヤーのレベルも高くなっている。

「ごめんなさい。漣はお隣さんだから裏切れないの。アハッ!」

 笑って断る結奈。

「クソッ! 俺も結奈ちゃんみたいなカワイイ幼馴染が欲しかった! うおおおおおおおー!」

 発狂するしかない伊東。

「アホはほっといて学校に行こうぜ。遅刻しちまう。」

「待ってよ~、蓮。」

 伊藤を置き去りにして俺たちは学校に向かった。


「今度の大会は和モノか。妹が鬼になって兄が助ける毀滅とかいう侍ものが流行っていたからな。」

 VRWの次回の大会のテーマは、侍、忍者、刀、剣術、鬼、妖怪などの和モノである。

「さあ、修行でもするか。今日は滝を斬り、水の流れを逆流させてみせるぞ。」

 漣はスマホでVRWを立ち上げる。


「良い滝だ。」

 俺は東京にはろくな滝がないので、和歌山県の那智の滝までやって来た。立派な高さのある日本一の滝である。移動はスキルで一度行ったところは移動できる。後はゲームの中で新幹線、飛行機、電車やバスに乗って移動するしかない。運賃はゲームの中のお金か、課金して料金を払う。ゲーム制作会社が儲かるVRWは恐ろしいゲームである。

「はああああー!」

 刀に手をかけ構え気合を集中する。ゲーム用語でいう所のチャージだ。

「我流奥義! 真義!」

 昔、真義というお坊さんが般若心経を読んだら滝の水が逆流したらしい。そこから技の名前を真義と名付けた。俺はひたすら刀を振ってレベルを上げたので師匠はいない。

「ゴゴゴゴゴゴゴ-!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」

 俺の一振りで滝の水が斬れて止まったかと思うと逆流し始めた。

「やったー! 滝の水を逆流させたぞ!」

 俺は飛びあがって喜んだ。


「おい、いい度胸だな。高橋。今は授業中だぞ。」

「は、はい。」

 そして俺は授業中にゲームをしていたので先生に思いっきり怒られた。

 つづく。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る