追い出し鑑定士、天職(人形師)につく!(打ち切り)

山鳥 雷鳥

第1話 辞令


「リトル……お前、今日からクビな」

「………………………………え?」


 目の前で言われたのは、急な『追放クビ』宣言。

 半ばあり得ないと思いながら、僕は彼、勇者タケルの顔を見る。


「な、なんで?」

「なんでって、そりゃあ使えない奴をいちいち給料なんて払えるわけねえだろっ‼」


 タケルはそう言いながら僕の体を蹴り飛ばす。

 僕の身体は宙に浮き、地面につく頃には腹部から全身にかけてまでとてつもない程の激痛に襲われる。

 

 くっ、タケル。スキルを使ったな‼

 

 そんなことを思いながら、僕は蹴られた腹部を抑え、痛みに耐えるかのように体を丸め込む。だが相手は勇者。スキルを使用した勇者の蹴りは、僕の体に激痛を走らせ、蹴りの痛みも嬲るかのようにずっと続いている。


「どっ、いう意味?」


 痛みを耐えながら僕はタケルに向かって必死に話しかけてみる。

 だがタケルの瞳はまるで僕の事をゴミか何かを見るかのように蔑むような瞳で僕のことを見ていた。


「はぁ~、よく聞こえなかったんですけど~?」


 挑発じみた口ぶりでタケルは僕にそんなことを言ってくるが、タケルはその瞳で僕を見てくることをやめない。


「なん、で……こんな、こと……を……」


 そんな瞳に耐え、痛みにも耐えながら僕はその苦しい腹から声をひりだしていくが、痛みは徐々に強くなるだけ。

 こうなると、まともに喋れなくなってしまう。


「はぁ~? き・こ・え・ま・せ・ぇ・ん・?」


 下卑た視線とげらげらと笑う口先が僕の心を傷つけていく。

 そんなことも知らないタケルは更に僕を踏みつけてくる力を強める。


「ねぇ、もう一回言ってくれる? そうしたらさ、答えてあげるよ」


 僕の頭を堂々と踏みつけているくせに、一体、何を言っているんだ。

 口を動かしたら土が口の中に入り、声を発しようとしても満足に空気が体の中に入ってこない。それなのに、このタケルは僕に今一度、話をしようというのだ、無理がある。


「そこまでですよ。勇者様?」


「あ? なんだ、ラフアじゃないか?」


 すると僕の顔が土に塗れる中、急にタケルは踏むのを止める。

 視界の半分以上が地面が映される中、僕はゆっくりと視界を回すと、そこには一人の少女がやって来ていた。

 その少女はラフアと言いながらも、白い修道衣を身に纏い、その手には一本の杖が目に入る。静かな森の中では特に目立つきらきらとした杖だ。


 そんな彼女が来た瞬間、タケルはいつもと同じような紳士的な振る舞いと共に猫撫で声に近い話し方に戻り先程までの下卑たような話し方はしなくなった。


「えぇ、貴方様のラフアです。で、一体、何をされていたのでしょうか?」


「あ? あぁ、そこの無能をクビにしようかなと思って」


「それはいいですね‼ 是非、私にもご協力をさせてください‼」


 タケルはラフアの姿を現した瞬間、先程までの下卑た話し方をせず、丁寧で女性のことを敬うかのような話し方をし、野蛮的な振る舞いから紳士的な振る舞いにへと変わり、声音も猫撫で声へと変わった。

 だがそのような紳士的な振る舞いの中にも僕のことを馬鹿にするようなことを止めようとはせず、ラフアをまた、タケルの発言に修道女とは思えないほどの元気よく、はきはきとした声で僕の事を追い出すことに賛同していた。


「それにしても、なぜそのような状況に?」

「こいつかなんか喋ろうとしていてね。何を話しているのかわからないからこうやって聞いているの」

「そうなんですかぁ。それなら大丈夫ですよ。先程から聞いていましたから」


 聞いていたのなら助けたりしろよ。それでも聖堂教会の聖女か‼ と内心、そんなことを思いながら僕はラフアの事を眺める。

 ラフア自身は、僕のことを劣等種族、ゴミを見るような視線で嘲笑い、口元に浮かぶ嘲笑はまるで呪いかと言わんばかりに変化していた。


「ん? じゃあ、なんて言っていたんだ?」

「『こんなか弱い僕がなんで、勇者様とお供になれないのでしょうか?』ですよ」


 だがタケルの前では、いつもと同じ彼に向ける聖女らしさの表情を向けていた。


「はっはっはっ、そんなことか‼」


 そんなこと言っていない‼ なんて、そんな事を言えやしない。

 行った所で内心、無駄であると理解している分、あいつらは、なんてめでたいお耳をしているのか、とそんなことを思う。


 それにしても僕の口からはそんな長い言葉は一つたりとも出てはいない。ただ『何でこんなことを?』と言おうとしただけだ。

 なのに、なぜ、彼らはそのようなことに聞こえているのか? 僕には全く理解できない。


「ははは、あー、笑った。なら答えてやるよ。『無能』。お前をクビにする理由なんて簡単だよ。使えないからだ。鑑定しかできないお荷物なんて誰がいるかよ‼」

「がっ!」


 そう言いながらタケルは思いっきり僕の背中を踏みつける。

 体の内側からはポキポキッとあまりよろしくは無い音が聞こえ始め、鋭い痛みが全身から感じられる。


 痛い、そんな言葉でさえ、既に話す気力が失せていた僕にとっては諦めるようなことだった。


「戦闘には参加できない。ほかの事をやらせるにもどこか失敗している。そんな奴にこのパーティに残る理由なんかあるか⁉ ねぇよな⁉」


 徐々に酷くなっていく言葉の羅列にさえも僕は徐々に神経が擦り切れられる。

 もともと非戦闘員でも参加できるといったのはそちらだし、失敗したくて失敗したんじゃない。全てそこのラフア腹黒聖女が仕組んだことじゃないか。

 陰で僕の事を笑っていたのは知っていたぞ。


 だがそのような思いは口にせねば彼らに届くこともなく、ただぎすぎすとした空気が流れていくだけ、そのせいで一緒に入ってきた幼馴染とは喧嘩しちゃうし……何でこんなことになるのかなぁ?


「それにお前さえいなくなれば、このパーティには男は俺だけになるだろう? だから、必要ないってわけ」


 それが本音だな。

 この男、さんざん、僕の事をイジメてきた理由はそんな理由も含まれていたな。それ以上語らずとも、僕はバカではない。物を鑑定する鑑定士である以上、僕は物だけでは無く、それに伴い商いの常識や基本など嫌というほど知っている。


 単に、僕とタケル以外は女の子だらけのパーティに僕を追い出せば、ハーレムになれるという考えだったんだろう? 安直的でしょうがない。さすがに察しの悪い奴でもわかる。


「だからさ、出て行けよってこと」

「さすが勇者様‼」


 既にぼろぼろの体に気力が出てこない精神に追撃してくるのは勇者の一言と恋に盲目になった聖女の言葉。これ以上効くものはあるだろうか? ないな。


 誰ともつながりそうな勇者相手に繋がりにくそうなただのちっぽけな鑑定士。そんなものが一体、どちらがいいというのか。よくわからなくなる。

 あぁ、ということは僕はもう必要ない人間ということか……はぁ、


「分かった」


 残り僅かの体力と気力を使い、そう宣言すると、勇者と聖女はどことなく驚いたような表情を見せながら、すぐに下卑た笑顔を見せ、僕に向かって笑い声を上げながら出ていけと言ってくる。


 あぁ、出ていくとも、出ていくとも、これ以上、この場所にいる必要なんてない。

 そんなことを考えながら、僕は勇者からけれら踏みつけられ痛んだ体を必死に動かし、僕の持てる分の荷物だけを持ちその場を去った。


「あ、てめぇの持ち物は俺らの共有財産だから」

「…………」


 やっぱ、持っていく必要なんてなくなりそうだった。

 持っている荷物を全て置いていき、ほんの少しのお金と荷物だけを持ってその場を去った。

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