第12話:レオンと結婚? 勘弁してくれ!




(あれ? そんな話あったっけ?)


 かつてレオン絡みの浮いた噂はキラだけだと思っていた。

 そのキラとも付き合ってるんだか、何だかわからない距離感なのだが。


 あの時点で正妃はいなかった筈なので、今回の話はお流れになるのだろう。

 それにしてもアンジェリカという名前は、この国に多くいて気にもとめなかった。

 もう少しレオンから恋愛話を聞いておくべきだったか……。


「……アンジェ。聞こえているのかい?」


 考え込んでしまったオレに、父は優しく呼びかけてくる。


「お断りしてください。お父さん」

「しかし……」

「レオン様はお優しい方です。わたしはあの方に相応しくありません」

「アンジェ。王家からの婚姻通達は断れないのよ……」


 母は泣いているようで。


「え……?」

「返事はイエスで返すしかないんだよ。アンジェ」

「え。でも……」


 あれ? 本当に何でだ?

 レオンに正妃なんていなかったよな?

 で、キラといい感じだったよな?


 自分の記憶に自信が持てない事ほど不安なものはない。


「すまない。私の力が足りないばかりに」

「お父さん……わたしレオンの正室になんてなれません!」


 オレはたまらず叫んだ。


「知ってるんでしょ? わたしが同級生のジン・ベイスに何をされたか……!」


 いや、本当に勘弁してくれ。

 ここで何とか断らないと、オレのいたあの場所はどうなるんだ?!


「アンジェ。落ち着きなさい」

「アルフィでなくても、わたしみたいな子と結婚するなんて嫌に決まってるでしょ! レオン様は優しいから手を差し伸べてくれるけど、そんなの駄目だよ! お断りして! お願い!」

「聞けばレオン王子が問題を解決したらしいじゃないか。先方は全て承知の上なんだよ……」


 絶望的な父の言葉を聞いて、オレは部屋を飛び出した。


「アンジェ!」


 背後で両親の声がした。

 途中、柱やら壁やらにぶつかるが、家を飛び出す。


「何やってる!」


 途中、ぶつかりそうになった馬車の御者に怒鳴られるが足は止めない。

 何も見えない。

 どこにいるかもわからない。

 自分が誰なのかもわからない。

 めちゃくちゃに走った先で。


「ジェシカ?」


 誰かに腕を掴まれて、ようやく足を止める。


「いつ、ここへ?」

「……」


 もう一欠片も体力は残っていなかった。

 高級そうな香水の香りのする紳士に倒れ込んで意識を失った。



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