十七章 「笑顔とハンカチ」

 踏切、雑居ビルなど私は幽霊に出会った場所に、再び行ってみようと思った。

 そこは私の大切な思い出の場所だから。

 私は今日はチェックのワンピースを着ている。

 もう母親にしばれる必要はないからだ。私は自由なのだから。

 今日はすごく晴れている。

 太陽を浴びるのは、なんだか久しぶりな気がする。

 幽霊がいなくなってから私はしばらく塞ぎ混んで、1人でただ毎日を過ごしていた。

 でも、それじゃダメだと思った。  

 私は生きているのだから。 

 まずは、生きることをやめることはもうしない。

 私はもう「死にたがりの杏奈ちゃん」じゃない。

 思えば、あのとき私は懸命に何かを見つけようとしていた。わからなかったけど、もがいていた。

 そして、幽霊のお陰で何度も死なずにすんでいた。

 生きることの大事さを幽霊に教えてもらった。 

 幽霊がもう生きられないと言ったこの世界で、私は生きている。 

 生きるってすごく難しいことだ。

 本人が望んでもできないことがあるのだから。

 命の重さを感じた。

 そんな中自分自身で命を絶とうとするのは、あの幽霊に失礼なことだ。

 私はまだ生きられるのだから。

 生きていればいいことは必ずある。

 そういえば、幽霊に初めて出会ったとき、幽霊は笑顔だった。

 あの笑顔にまた出会いたい。

 あの時、私が死んでいればこんなにも楽しいことを味わうこともなかった。

 私には幸せなんて訪れないと思っていた。 

 しかし、幽霊という名の光が舞い込んできた。

 私は今までの人生を再び思い返してみた。 

 そうするとあることに気づいた。

 今まで楽しいことが、なかったんじゃない。

 私が勝手に悲観的になり、楽しい瞬間を逃していただけではないだろうか。

 自分から幸せを遠退け、不幸を呼び込んでいた。

 心の声が聞こえるからこそできることがある。

 それは、人に優しくし、自分を大切にしてあげることだ。

 痛みがわかるからこそ、優しくできる。 

 人の汚い部分が見えるからこそ、自分はそうならないでおこうと考えることができる。

 自分のことをより大切に考えることができる。

 自分を大切にできない人は世の中にすごく多い。

 私もそうだ。

 でも、心の中にいる小さな私を救いだしてあげたい。

 それは幽霊も望んでいることだと思った。



 雑居ビルであの日のように夕日を眺めていると、安全柵に黄色の何かががくくりつけるれているのを見つけた。

 胸が高まった。

 それは、やはり幽霊がいつもしていたハンカチだ。

 ほどいてみると、そこには幽霊がいた。


「杏奈ちゃんへ

これを見つけた頃は、僕はもう杏奈ちゃんのそばにいないんだよね。ずっと一緒にいられなくてごめんね。そうだ、杏奈ちゃんに宿題だよ。僕は必ず杏奈ちゃんの近くで生まれ変わる。杏奈ちゃんなら僕がわかるはず。僕を見つけてね。

            幽霊の悠より」

 そこには、いたずらっけ満載の幽霊がいたのだった。

 私はとうとう泣き崩れたのだった。

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