第3話 謎を呼ぶ香織の相談
放課後、真一は実習服から制服に着替えて、化学実験室前に行った。すると、香織が待っていた。
香織「堀川くん」
真一「山下さん、ゴメン遅くなって」
香織「大丈夫やで」
真一「カギ開けるわ」
真一が化学準備室に入り、化学実験室のカギを開けて、中に入った香織だった。
真一「ええっと、用って何やったかいなぁ?」
香織「堀川くん、この前電車で助けてもらって、なんとお礼を言ったら…と思って」
香織「あぁ、気にしなくてもかまへんよ(いいよ)」
香織「それでね、ちょっと厚かましいんだけど、堀川くんに相談したいことがあって…」
真一「相談? 何やったやろ…」
香織「私が電車で倒れたときに、堀川くんがたまたまとなりの席やって、同じ高校の同級生や…ってこともあって、あの時、私が探していたものを探して欲しいんや」
真一「探し物か?」
香織「物ではないけど、人なんや」
真一「誰を探してるん?」
香織「それが…文通相手なんや」
真一「文通相手?」
香織「うん…。正確に言えば、小学校の時の同級生なんや」
真一「同級生か…」
香織「うん」
真一「それで、同級生の文通相手を探すんか?」
香織「そうなんやけど、ちょっと…」
真一「…?」
香織「実は、文通相手がいつも手紙を送ってきてくれるんやけど、消息不明なんや」
真一「消息不明?」
真一は、香織から聞いた話の内容が少し意味を理解するのに苦労していた。
真一「ちょっと話を整理したいんやけど、山下さんの文通相手が小学校の同級生で、今も文通してる…と」
香織「うん」
真一「それで、その文通相手が消息不明やと」
香織「うん」
真一「今、文通相手がどこにいるのか知ってるんやなぁ?」
香織「手紙の住所が出雲になってるんや」
真一「出雲?」
香織「うん。でも昔は松江やったんや」
真一「松江? 山陰やなぁ…」
香織「それで、松江から出雲に移った理由が分からなくて…」
真一「うん…。その文通相手とはどういう経緯で文通することになったん?」
香織「小学校1年の時、違うクラスで私がこの前みたいに倒れて、助けてくれたんや。それで…」
真一「…………?」
香織「私の初めて気になった男の子なんや…。あ、誰にも言わんといてな」
真一「…うん」
香織「それで、彼が小学校1年が終わる時に家の都合で転校することになったんや」
真一「うん」
香織「それで、別れ際に住所を教えてもらうように頼んで、私の住所を教えたら、しばらくして彼から手紙がきたんや」
真一「うん」
香織「その時は住所が松江だったんだけど、最近になって住所が松江から出雲に変わってたんや」
真一「そうか…」
香織「松江の時は『元気か?』『元気だよ。元気にしてるの?』って、話し言葉で文通してたの。手紙の中で私、彼に癒されてたんや…」
真一「そうか…。彼が転校してから会ったことあるの?」
香織「一度だけ会ったんや。中学校の時やったかな…。それ以降会ってないんや…」
真一「そうか…」
香織「松江から出雲に移ったのが、彼が中学校の時やったみたいで、最後に会ったとき、出雲の住所で届いてて、彼に引っ越ししたのか聞いたんだけど、返事がなかったんや…。何か言いづらそうにしてた」
真一「そうか…」
香織「それでこの前、私が電車の中で体調不良になって、堀川くんに助けてもらった日に彼と会う日だったの」
真一「どこで会う予定やったん?」
香織「
真一「山口丹? 山下さんって、山口丹から来てるの?」
香織「途中町。昔は山口丹にいて、小学校6年生の時に途中町に引っ越したの」
真一「けどなんで山口丹で待ち合わせなん?
途中町ではアカンの? 」
香織「山口丹駅って、無人駅やんか」
真一「うん」
香織「昔、彼と夏休みに遊んでて、山口丹駅の待合室とかで涼んだり、冬に駅前の広場で雪遊びしたりして、2人の遊び場になってた。彼が転校する時、『再会するときは山口丹駅にしよう』って約束してたの。だから、今もわざわざ山口丹で会うことにしてるんや」
真一「そうやったんか…」
香織「うん」
真一「それで、彼が消息不明っていうのは?」
香織「彼が出雲に住所があるのに、出雲におらん(いない)っていう噂を耳にして、彼に手紙で聞いても答えてくれないから、少し不安になってて…」
真一「そうなんや。出雲とか松江には行ったことあるの?」
香織「行ったことあるけど、そこの住所はずっと留守で、会えずじまいやったんや」
真一「そうかぁ…。なんやそれも変な話やなぁ…。それでオレにどうしろと…?」
香織「彼を探して欲しいんや」
真一「『探す』言うても、出雲で探すしかないんと違うん?」
香織「そうなんやろうけど、実は彼のおばさん(母親)が亡くなって、おじさん(父親)もその後亡くなったって聞いて…。親戚もいるかいないのかわからないの」
真一「ええっ…、またややこしい話やなぁ…」
香織「多分、彼しかいないのよ」
真一「手がかりになるもん(物)は手紙くらいか?」
香織「そうやなぁ…。あとは彼の写真かな…」
真一「写真あるの?」
香織「といっても、プリントシールだけどね」
真一「写真は加工してあるんか?」
香織「ノーマルのやつも撮ってるから、ちゃんと写ったものがあるよ」
真一「けど出雲行かな、どないもならんやろ?」
香織「それで、友達とかに相談したくても、ちょっと重たい話やから…」
真一「それで、なんでオレに?」
香織「私、見たんや。堀川くんって、ゆうちゃんと仲が良いんだよね。でもゆうちゃん、彼氏できたらしいやんか?」
真一「らしいなぁ」
香織「何とも思ってへんの?」
真一「別に…」
香織「なんで仲が良かったのに、最近ケンカしたの?」
真一「してないよ」
香織「じゃあ、なんであんなに仲が良かったの?」
真一「普通やで。山下さん、知らんのかいなぁ…。オレと優香さん、幼稚園の時の同級生なんや」
香織「え❗ じゃあ、幼なじみやん。高校で再会したの?」
真一「うん」
香織「そうなんや…。ねぇ堀川くん、春休みになったら、一緒に出雲で彼を探して欲しい。お願いします」
真一「えーっ…」
香織「無理を承知で話してる。でも頼れるのは、堀川くんしかいないのよ。お願いします」
真一「えー…、急に言われてもなぁ…」
香織「返事待ってるから…。私の気持ちを汲んでほしい…」
真一「…わかった。少し考えさせてもらえんかなぁ?」
香織「わかった…。待ってるね。それと、この話は誰にも内緒にしてほしい」
真一「…わかった。ただ、場合によっては鈴木先生の仁義を通さなアカンことがあるときは、鈴木先生に一言断り入れるけどかまへんか?」
香織「わかった」
香織は化学実験室を後にした。真一は一人残ってどうするか考えていた。
真一(なんや、けったいな話やなぁ…。山下さんって、体が弱いんやなぁ…。この前倒れたときも、今もあんまり顔色良くなかった。病み上がりとはいえ、なんか無理してるんやろか…。こんなんで(こんな状態で)出雲行けるんかいなぁ…)
そして、真一は夢から覚めた。
真一(なんやなんや、夢の中でも相談に乗ってるやんか…。何してんねんオレ…。だんだんドラマみたいな夢になってきてるやないか…)
その夜、いつものように真一とみつきは布団に入って寝る。みつきは布団に入るとすぐに寝ついた。真一は中々寝られない。夢が気になっていた。
真一(今日も見るんやろか? よりによって続きとか…。ここ最近、どうなってんねん。『コロナ』対策で家にこもってるから、余計に調子が狂うなぁ…)
そして、真一も寝ついた。そして、真一の予想通り、夢の続きを見た。
(夢の中)
香織の体調を気にしながら、出雲へ行く準備を検討していた。
ある日の昼休み、高校の校舎内に放送が入る。
(ピーンポーパーンポーン)
鈴木先生「生徒の呼び出しをします。2年5組加島優香さん、2年5組加島優香さん、工業系職員室の鈴木のところまで来て下さい」
それから10分後、また放送が入る。
(ピーンポーパーンポーン)
鈴木先生「生徒の呼び出しをします。2年3組堀川真一くん、2年3組堀川真一くん、すいませんが工業系職員室の鈴木のところまで来て下さい」
これを聞いた図書館にいる真一以外の面々が話す。
森岡「なんでアイツ(優香)と堀川の呼び出し方に扱いが違うんや?」
白木「なんで堀川がよりによってパソコン学科の鈴木先生に呼ばれるんや?」
藤岡「何かしたんか?」
村田「わからんなぁ…。あ、ゆうちゃん」
優香「………」
村田「ゆうちゃん、さっきの鈴木先生の放送聞いた?」
優香「聞いたよ」
森岡「なんでお前と堀川の扱いが違うんや?」
優香「わからんなぁ」
滝川「何かあったの?」
優香「知らない」
加藤「まだ堀川くんと話せてないの?」
優香「会ってもいないよ」
加藤「えー❗」
滝川「同じ高校にいるのに、顔も見てないの?」
優香「うん……」
村田「もうあれから2週間やで」
優香「会わないから、仕方がないやん」
村田・滝川・加藤「………」
森岡は心の中で笑っていた。真一から優香を奪ったことに優越感に浸っていた。
一方その頃真一は、工業系職員室にいた。
真一「鈴木先生、オレに何か用ですか?」
鈴木先生「あぁ…。お前、うちのクラスの山下知ってるんか?」
真一「最近ですね…」
鈴木先生「何や、加島ではアカンのか?」
真一「はぁ?」
鈴木先生「いや、お前、加島と幼なじみなんやろ?」
真一「まぁ、そうですけど…」
鈴木先生「加島がおるのに、なんで山下と仲良しやねん?」
真一「先生、何か勘違いしてませんか?」
鈴木先生「勘違い?」
真一「ゆ…加島さんは幼なじみですけど、森岡いう彼氏が居てますねや」
鈴木先生「え❗ そうなんか?」
真一「知りまへんのか?」
鈴木先生「えー、そうなんや…。てっきりお前かと…。そらぁ、すまんかった」
真一「ほんで、本題は何ですの?」
鈴木先生「いや、ワシとこのクラスの山下がな、お前に『自分が今日休んどることを言うといてほしい』って今朝電話がかかってきたんや」
真一「そうですか…。わかりました」
鈴木先生「おい、ちょっと待て。何や、お前、山下とできとるんか?」
真一「先生、先生のスモーキングタイム(喫煙)はおまへんのか(ないのですか)?」
鈴木先生「何や、ワシにタバコ吸えってか?」
真一「ええ」
鈴木先生「しゃあないなぁ…生徒に『吸え』って言われたら吸うしかないなぁ…。しゃあないなぁ、吸うたるわ」
真一「すんません」
鈴木先生「お前は吸うなよ」
真一「吸いますかいな。家帰ったら親父というヘビースモーカーがいてますわ」
鈴木先生「そうか(笑)」
鈴木先生と真一は職員室のベランダにある喫煙コーナーに行く。
鈴木先生「おう、タバコ吸うたったぞ。何や、話って…?」
真一「先週末なんですがね…」
鈴木先生「うん」
真一「電車で京都へ行く途中に、オレの横にいた乗客が体調不良で倒れましてね、救急車に担ぎ込まれたんですが、オレも病院まで付き添わされて、お母さんが来られてから病院出たんですけど…。そしたら昨日の中休みの時ですわ。廊下で出会い頭にぶつかって、よう見たら、先週末電車で倒れた子やって、それが山下さんやったんですわ」
鈴木先生「へぇー、あ、そう…」
真一「それで『放課後に相談したいことがあって…』って相談に乗ったんですが、なんや妙な人探しをせんなんみたいなんです」
鈴木先生「人探し?」
真一はベランダで鈴木先生にこれまでの経緯を伝えた。
その頃、優香も鈴木先生に用があって、工業系職員室に来ていたが、ベランダで鈴木先生は真一と真剣な顔で話しているのを見ていた。
優香(何か、真剣な眼差し…。何かあったんやろか…。出直そうかなぁ…)
その真剣な眼差しで話し合う真一と鈴木先生は…。
鈴木先生「そうかぁ、アイツ(香織)がなぁ…。そうやったんか…」
真一「ちょっとつかぬことをお尋ねしますが…」
鈴木先生「なんや?」
真一「山下さん、元々体が弱いんですか?」
鈴木先生「どう思う?」
真一「なんとなくですが…そう(体が弱いと)思いました」
鈴木先生「そうか…。ここだけの話にしてくれ。オレも詳しくはわからんのやけど、何かそんな感じみたいや」
真一「ということは、保健室行って大川先生に聞かんと…ってとこですか?」
鈴木先生「大川先生に連絡しとく」
真一「放課後行きますわ」
鈴木先生「わかった」
真一「先生、そこで大学進学希望の幼なじみが待ってまっせ」
鈴木先生「行ってくる」
真一「先生、くれぐれも…」
鈴木先生「わかっとる。誰にも感づかれんようにする」
真一「よろしくお願いします」
鈴木先生が待っている優香の所へ行った。
優香が鈴木先生と話している最中に、真一は工業系職員室を出た。鈴木先生と話している最中の優香は、鈴木先生の話を聞きながら真一の行き先が気になっていた。
優香が鈴木先生と話終え、工業系職員室を出たが、真一の姿はなかった。優香はため息をついた。
優香(もう知らない…)
放課後、優香は森岡と図書館にいた。2人で話しているが、どことなく真一のことが気になっていた優香だった。
一方、真一は保健室にいた。
真一「鈴木先生に仁義通してますが…」
大川先生「あぁ、山下さんのことね。聞いたで。あんたもまたえらい相談されたなぁ…」
真一「こんな相談、のってもいいんですかね…?」
大川先生「あんたやから、相談しやすかったんとちゃうか?」
真一「そうですなぁ…」
大川先生「山下さん、あんたの思ってる通り、体が弱いんや」
真一「やっぱりそうでしたか…。出雲連れて行けませんなぁ」
大川先生「そうやな…」
真一「誰が出雲行くんやろ…」
大川先生「あんたしかおらんやろ…」
真一「春休みは人探しの旅ですか…」
大川先生「それよりあんた…」
真一「…幼なじみの話ですか?」
大川先生「ホンマにこれで良かったんか?」
真一「オレには関係おまへんわ」
大川先生「そんな強がり言うて…。あんたホンマは…」
真一「…まぁ、もう終わったことですから…」
大川先生「『トラウマ』か?」
真一「この前言いましたやん…」
大川先生「加島さん、知っとらんからなぁ…」
真一「絶対誰にも言うたらあきませんよ❗」
大川先生「…わかってる…。それより、山下さんやけど…」
真一「えぇ…」
大川先生「多分、その文通相手のことが気になって、心労が耐えんのと違うかなぁ…」
真一「そうかもしれませんなぁ…」
大川先生「行くんやったら多分、あんただけになるんとちゃうか?」
真一「えぇ…。鈴木先生に相談した方がいいですねぇ?」
大川先生「けど、この話は山下さんがあんたに相談してるんやから、鈴木先生には一言だけ伝えとく程度でいいと思うわ」
真一「わかりました」
翌日、教室で朝のホームルームが終わった後、真一の教室に鈴木先生がやって来た。
鈴木先生「堀川」
真一「朝から何ですか?」
鈴木先生「ちょっと来てくれるか?」
真一が鈴木先生に呼び出され、渡り廊下で話し始める。優香、村田、加藤、滝川がその様子を自分たちの教室から眺めていた。
優香「朝から何の話してるんやろ?」
村田「鈴木先生がなんで堀川くんと…?」
加藤「この前、鈴木先生が堀川くんを呼び出したりしてたしなぁ…」
滝川「二人とも真剣な眼差しやなぁ…」
優香は先日から真剣な眼差しで鈴木先生と話す真一のことが引っ掛かっていた。
真一「先生、朝から何ですの?」
鈴木先生「山下が入院した」
真一「またですか?」
鈴木先生「今回は途中町病院に入院したそうや。それで今朝お母さんから電話もらったとき、山下がお前に会いたいそうや」
真一「そうですか…」
鈴木先生「これ、山下が『ここに入院してるから、来てほしい』と」
真一「…放課後にでも行ってきますわ」
鈴木先生「頼むわ。お前も大変なこと相談されたもんやなぁ…」
真一「先生の顔たてなあきませんやんか(笑)」
鈴木先生「調子ええこと言うて…」
真一は鈴木先生から香織からの伝言として、入院先の病院と病室の書いたメモを預かった。
優香はその一部始終の様子を見ていたが、謎が深まるばかりだった。優香は真一と話をしようと考えているが、先日高校駅でふて寝している真一が傷ついていて、複雑な心境が日に日に増していた。
優香「くーちゃん」
村田「どうしたん?」
優香「私、真一くんを傷つけたかも…」
村田「カマかけたのが失敗だったってこと?」
優香「うん…」
村田「私がそそのかしたんやから、私が悪いんやって」
優香「違う。くーちゃんは悪くない。私が判断を誤ったんや」
村田「ゆうちゃん…」
優香「真一くん…」
優香は少し元気がなかった。村田、加藤、滝川は優香のことを気遣っていた。
放課後、真一はそそくさと高校を後にし、高校駅から途中町まで電車に乗った。
優香は真一を探していたが、どこにもいない。下駄箱を見ると、真一の上履きがあり、下校していた。
優香(帰るのが早い…)
優香はしょんぼりしていた。真一と話がしたかったのだった。
一方、真一は電車で途中駅に着いた。途中駅から徒歩15分程のところにある途中町病院に到着し、香織の病室へ向かった。
真一「失礼します」
香織「あ、堀川くん。ありがとう来てくれて」
真一「大丈夫か? 無理したらアカンで」
香織「ゴメンね。心配させちゃって…」
真一「オレは大丈夫や。あ、鈴木先生には仁義を通しとかなアカンと思ったから、相談聞いた話は少ししてあるから、了解しといて(しておいて)ほしい」
香織「わかった」
真一「出雲行けるんか?」
香織「その事で相談が…」
真一(やっぱり…)
真一「どないしたん(どうしたの)?」
香織「私、しばらく入院することになって、出雲に行けなくなったの」
真一「そうか…」
香織「それで無理を承知で話すけど…」
真一「オレ一人で出雲へ…か?」
香織「うん…」
真一「彼のことも気になるけど、何よりも自分の体が大事や。なるようにしかならんがな(ならないよ)…」
香織「そうだね…。ゴメンね、堀川くん」
真一「春休みになったら行ってくる」
香織「うん、よろしくお願いします」
真一「それで、ちょっと込み入った話をするけど…」
香織「彼のことだよね?」
真一「うん」
香織「これ、昔の手紙。松江の住所が書いてある。こっちは最近の手紙で、出雲の住所が書いてある。それと彼の写真というか、プリントシールね」
真一が香織から預かる手紙類を確認する。
真一「北川克也って人?」
香織「昔から『かっちゃん』って呼んでる」
真一「そうか」
香織「昔、出雲に行ったけど、わからなかったから…。出雲大社の方だったよ」
真一「そうか…。松江は行ったことあるか?」
香織「ない…」
真一「そうか…。この前救急車で運ばれて以降、彼から手紙は来たか?」
香織「来てないの」
真一「そうか…。出雲に行く前に、宿泊先の場所を案内するから、もし何かあったら連絡して」
香織「それやったら、私、ポケベル(ポケットベル)持ってるから、これに連絡してきて」
当時は携帯電話がない時代で、ポケットベルが流行していた。文字を入れることができたのだ。
真一「オレ、ポケベルに文字を入れたことないんや」
香織「じゃあ、この表あげるから、これ見て文字入れてね」
真一「できるかな…。オレ不器用やから…」
香織「ゆうちゃんはポケベル持ってないの?」
真一「持ってない」
香織「そっか…。私のポケベルの番号入れたら、この文字の表を見ながら番号入れたら文字がポケベルに入れられるよ」
真一「わかった。やってみるわ」
そして、真一は途中駅に戻り、駅の窓口に設置されている全国版の時刻表をペラペラとめくりながら、出雲までの時間を調べていた。夢中で調べていると夕方6時半になっていた。途中駅から北町行きの電車に乗って真一は帰った。
翌日、早朝から真一は工業系職員室にいた。鈴木先生と昨日の香織とのやり取りを報告した。
一方、優香と森岡をはじめ、白木、藤岡、佐野山、坂本、寺岡、高山、村田、加藤、滝川は真一の話で持ちっきりだった。
白木「最近、堀川見なくなったなぁ…」
坂本「昨日の朝のホームルームの後、鈴木先生が堀川呼んで渡り廊下で何か真剣な顔して話し込んでたなぁ」
白木「鈴木先生が? なんでや?」
坂本「わからん」
村田「それ、私らも教室から見てたんや」
滝川「何かあったんかな…」
森岡「堀川から聞いてへんのか(聞いてないのか)?」
坂本「あえてそっとしてるから、聞いてない」
白木「これは誰か聞いた方がええんとちゃうか(いいんじゃないのか)?」
村田「ゆうちゃんが最近、元気ないのよ」
優香「くーちゃん…」
森岡「堀川のことが気になるんか?」
優香「……………」
皆、黙りこんでしまった。
白木「そういえば最近、放課後も見なくなったなぁ、堀川」
藤岡「昨日、途中駅のホームで見かけたぞ」
白木「途中駅で?」
坂本「何時頃?」
藤岡「6時半ごろ。声かけようとしたら、堀川が北町行きの電車に乗ったからなぁ…」
滝川「堀川くんが途中駅で何してたんやろ?」
優香「…………」
一同、真一の奇妙な行動に困惑していた。
そして、夢から覚めた真一だった。
真一(なんや、オレの行動もなかなか怪しまれてるやんか…。夢の中で何してんねん❗)
頭を抱えながら、朝食をとって、会社へ出勤する真一だった。
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