自衛隊は福祉じゃないので(12月10日)

唐突に昔のことを思い出したから書くんだけど、自衛隊にいた頃の話で。

今はどうか知らないけど(こないだたまたま聞いた話だと、多分あんまり変わってないと思う)、「バカでもなれる公務員」こと自衛官は、ある種のセーフティーネットとして機能していたところがあったと思っている。なおこれは一般に限る話で、陸曹候補士以上の話は多分別。


落ちこぼれのヤンキーだったり(だいたい容量がいいので普通に仕事できる)、地元だと就職しづらい出自を持っている人だったり、私のようにコミニケーションに難をかかえたタイプ(1番面倒)だとか、とりあえずどんなクズでも一旦衣食住が確保されて、人生を立て直すものというか、ある種の福祉として機能してくれていた部分があったし、わたし自身その恩恵は受けすぎなくらい受けていた。それはいわゆる税金泥棒的な側面もあるので、あまり大きな声ではいえないかもしれないけど。


とはいえ、そこからもはみ出てしまう人がいるのだけど。たとえば、1つ上の先輩がいた。その人をあらわす言葉選びはとても難しいのだけど、小柄で、結構な頻度で鼻水かよだれが出ていて、わたしよりも体力がなく、集団行動も苦手なようで、いつも先輩からはドヤされて後輩からは疎まれていた。わたしもその人と仕事をすることになるときは、理由なく嫌悪感を抱いていたし、言葉に出してないけど態度には勢いよく出てたと思う(だって当時18歳とかだぜ?)。


自衛隊の陸士は、2年の任期制で、大体は1任期(2年)か2任期(4年)務めて、まとまった額の退職金を得てやめていく。わたしもそうだったし。まあわかりやすくいうと陸士は非正規で、陸曹以上が正社員って感じ。で、陸曹になるためには、それなりにまじめに勉強しないと受からない試験をパスしないといけない難。なり手が少ないバブル期の頃は3任期以上務める人もザラにいそうだけど、わたしのいた頃(2000年前後)はすでにレアケースだった。地域によるかもだけど。


その先輩の2任期が終わる頃、隊内には「ようやくお荷物がいなくなるぜ」という雰囲気があった。あったね。ああ。しかし、ここで突然彼の両親が駐屯地を訪ねてきたのだ。「どうか息子の面倒をまだここで見てほしい」と。そりゃあそうか、そっちでもお荷物でしょうね。しらんけど。そして気がついたら、先輩は3任期目に突入していた。試験を受けても(体力的な面でもペーパーテスト的な面でも)おそらくは受からないし、この2年間も彼にはおそらく雑用しか居場所がない。単に問題が2年先延ばしになっただけだ。でも誰もそれを問題にしなかった。まあ、正直自衛隊サイドにはする義務もないと思いますが。ここを福祉のように使う人がいたとしても、実際は福祉ではないので。


そして1年後、わたしは例によって4年で辞めるつもりでいたので、退職直前の3月、貯まった代休を取得し引越しの準備などをルンルン気分で行っていた。そこに突然内線電話がかかってきた。「あの先輩が薬物で逮捕された、よって警務隊の調査が入るから外出はやめてほしい」と。


は?


「あなたは寮も別だし関係ないと思いますけど…」と遠慮気味に調査する警務隊の皆さんに半笑いでおつかれさまですと思いつつ面談の対応をし、その後噂話を総合すると、治安の悪い街で風俗店の女性から薬物を勧められ購入。そんでもって街中で挙動がおかしかったので警察官に職質された結果色々出てきたと。なんの申し開きもできへんベタオブザベタやんけ。わたしの有休が一日飛び、さまざまなところが大変になり、地方紙には載ったのかな? 覚えてないや。


冒頭で話したように、自衛隊はある種のセーフティーネットとして機能している。でも、当然だけどそこから溢れる人もいるし、そもそも自衛隊をセーフティーネットとして使うほうが邪道なので、「こぼれ落ちること」自体を非難することもできない。(こぼれ落ちる過程でパワハラやセクハラが発生しているのであれば、それは起こるべきではないし、非難されるべきだけど)


あの両親はあの時問題を引き伸ばしたことをどう考えてるのだろうか、後悔しているのだろうか?(公務員5年目の給料がなければ、おそらく風俗店には行けないし、薬物も購入できない)あるいは、刑務所に入ることになれば(初犯なら執行猶予がつくと思うけど)、「面倒をみてくれる」と思うのだろうか。


「弱者」について考える時、いつもこの話がチラついてしまうのだけど、一体どうしたもんかね。わたしは「有休〜😩!」としか思ってなかったですけど。

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